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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第七章 闇の皇帝と絶望の塔
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第二話 野青年

 ウエラルド王都の近くにある森の、ある噂があった。

 人々を見境なく絶望に追いやる、桃色の髪の少年の噂が。

 そしてついに青年となったその人物の噂は、まだ絶えない。


 しかし森の中の人物にその噂は届かない。


「これが今日の晩飯か…昨日より少ないな」


「文句言うな、養ってやってんだから」


 文句を垂れる青年、アレク・ネオプトルは目の前にいる青年…アクトを不満げに見つめた。


 黒髪を肩まで伸ばした青年だ。

 上半身は裸で、下半身はアクトがトアペトラで調達した通称『ジーパン』なるものを着用している。

 そして一番の特徴は、瞳が海のように鮮やかな青であるということだ。


「やっぱりあれか?…獣が減っているっていう」


「ああ、獲物が誰もいねえ」


 数年前から、野生の動物がほとんどいなくなった。

 今のところアクトから聞いている情報によると、世界が崩壊寸前の危機を迎えていて、魔物が多くなっていることが原因らしい。


「アクト…そろそろ森から出ないか」


 アレクは今、この生活に限界を感じていた。


 幼少期、とある事情があってアレクは森を彷徨っていた。

 そこで同い年くらいのアクトに出会い、二人で森で暮らしてきた。


 しかしアクトはアレクに何か働くよう言うこともなく、ずっと養われてきた。

 その代わりに、絶対に森から出てはいけないと言われてきた。


 しかし森から出なければ、十分な生活を送ることはできない。

 アクトもそれは分かっているだろう。


「そろそろ潮時だな」


 アクトは小さくつぶやくと、アレクに言った。


「分かった、出よう。でもその前にやるべきことがある」


「やるべきこと…?」


「ああ、『塔』を探してそこに来い。真実を教えてやる」


 そう言って、アクトは『フライ』でどこかに飛び去ってしまった。


 あまりにも急すぎる話にアレクは唖然としていたが、やがて旅の支度を始めた。

 アクトを探し、真実とやらを知り、また二人で暮らすのだ。



 ※



「ライ・ヘロウル・ゼウス、英雄ハデス、魔導兵先鋭の死亡…そして魔法学校教師が行方不明…。ワタシが知らない間に色々とあったようだね」


 謁見室に滅多に姿を現さないアラスタ王が、今は玉座に腰掛けている。

 先の事件でクアランドは、かなり大きな影響を受けたのだ。

 そのため大臣と話をしている。


「陛下、現在は世界の危機も確認されております」


「ほう…」


「次に禁忌の魔法が使われれば、世界は『仮壊状態』となってしまう…もう厄災はすぐそこまで迫っているのです」


「…それが、災害や魔物の大量発生と繋がっているのだね」


「いえ」


 確信を持って言ったアラスタの言動は、真っ向から大臣に否定された。

 まさかヴァルタイユからもらった情報が食い違っているとは思わなかったので、アラスタは眉を顰めた。


「では何によるものだと…?」


「『闇の根源』です」


「…ッ」


『闇の根源』は、数年前にとある研究を目的として捜索を始めた、高密度の闇属性の魔力の塊だ。

 実験は失敗し、財産に多大な損害をもたらしたため、その捜索は中止された。


 しかし災害や魔物による被害は無視できないほどになっている。

 早々に『闇の根源』を探し出し、処理しなければならない。


「確か二、三年ほど前に入ってきた魔導兵が二人いたね」


「はい、団長が死去したため、現在の魔導兵で最も戦力が期待できるのはその二人かと思われます」


「その二人に捜索を任せよう。名は?」


 大臣は手元の資料をぱらぱらとめくり、やがて眉を顰めて口を開いた。


「魔法科学部門部長『女教皇』のエマ・アルバ、魔導兵団遊撃兵長『教皇』オーラス・プラーマー、この二人です」



 ※



「また同じ任務だね。これも腐れ縁ってやつかな」


「そんなに私が嫌いなんですか?それなら別行動にでもしましょうか」


 王都を後にするのは、魔導兵団最強の二人だ。


 水色の髪をハーフアップにしたエマ・アルバは、肌にぴったりついた真っ黒なウェットスーツのようなものの上に白衣を着用している。

 そして手にはキャリーケースを持っている。これはトアペトラから個人的に持ってきたものだ。


 藍色のおかっぱの青年オーラス・プラーマーは、しっかりと魔導兵団の制服を身につけている。

 首元には十字のネックレス、そして腰には十字型の剣を差している。


「別行動か、確かにたった一人で魔法科学部門に所属する君には相応しいかもね」


「うっ」


 実はエマが所属する魔法科学部門には、エマ一人しかいない。

 何故なら、トアペトラの技術とクアランドの魔法を組み合わせるという変わった魔法の研究を四六時中行っているからだ。


「まだ分かっていないようですね…魔法科学は崇高なものなんです。実際に私はいくつもの機械を発明し、魔導兵団の最強格にまで上り詰めたんですからね。あなたのように異能に頼っているわけではありません」


「異能に頼って実績を得る、これは異能者の特権だよ。神に与えられたものはありがたく使わせてもらうのが礼儀というものじゃないかな?」


「またそうやって……あら?」


 綺麗な顔を歪めてオーラスに反論しようとするエマは、ふと視線を森の方に向けた。

 何か違和感を感じたからだ。


 違和感の正体は、森にあるはずのない肌色だ。


「ここが…外の世界か…?」


 上裸の男…アレク・ネオプトルが不審な挙動で森から出てきているところを、二人は目撃した。

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