第一話 帝の話
アゼルスは気を利かせて、ジンとイリアを同じ任務に向かわせてくれることが多い。
なのでジンとイリアは、ほとんど常に一緒にいることができるのだ。
確かに危険な任務も数多く存在する。
だがイリアがジンの心の支えとなることで、ジンはどんな困難も乗り越えてきた。
それこそ、小さい時からずっとだ。
すでにイリアは、ジンにとって不可欠な存在になっていた。
「そろそろ結婚しないか?」
ジンはついに、イリアに結婚の話を持ちかけた。
ずっと彼女と一緒にいたい。
そんな思いが背中を押したのだ。
目の前の赤髪の女性は、そっと微笑んだ。
そして鈍色の世界の中で、ジンとイリアは抱きしめあった。
※
冷たい地下室のベッドの上で、ジンは額に手を当てて俯いていた。
鈍色の思い出が、ふとした時にジンの脳裏を掠めるからだ。
そしてベッドの上で睡眠を取れば、イリアがいるはずの現在が必ず夢に出る。
「…」
いつまでもこうしていてもしかたない。
ジンにはヴァルタイユを殺すという目的があるのだ。
「『黒炎』は使えねえ…か」
数日前異能士団に入団したディルセイから聞いたことだ。
禁属性の剣型を使えば、世界のどこかで死定者が出る。
それはすなわち、『黒炎』の剣型を使えば無差別に一人殺すことになる。
このことを知った時、ジンは最初かなりショックだった。
何故なら、今まで頑張って剣技を出す練習をしていた時も、誰かを殺していたことになるからだ。
しかしジンには、復讐心があった。
復讐を為すために、一刻の時間も無駄にはできないと言うことを分かっていた。
だから無理矢理立ち直ることができたのだ。
ジンは、すでに取得している二つの剣型『純光』と『流星』を使うしかない。
「上手くやるさ、あいつを殺すためならなんだってやってやる」
そう言ってジンは、自室を後にした。
※
「新入り?」
「ああ、3人来るみてえだ」
異能士団本部に設けられた談話室で、フィクス、ディルセイ、クロスの3人が会話をしていた。
談話室には団員がジンとエルド、そしてウァルス以外全員が集まっていて、それぞれが談笑している。
「3人って、相当来ますね。まあ俺が言えたことじゃないですけど」
「確かにそうだな。そこまで異能者が集まるもんでもねえし」
「もしかしたらディルセイやジンのように、異能者じゃない強者もいるのかも」
エルドが認めるほどの戦闘能力を持つ者であれば、異能者でなくとも入団することができる。
ヴァルタイユを討つのが最終目的だ。必要な戦力は確保しておきたいのだろう。
もしかしたら新入りも、その類いかもしれない。
「新入りを連れてきたぞー」
耳に絡みつくような声が談話室に響き渡り、ウァルスが3人を連れて入室してきた。
一人は、黒髪を肩まで伸ばした男で、目は海のような色をした青年。
一人は、水色の髪をハーフアップにした、大人びた印象の女。
一人は、藍色の髪を目が見えないくらいに伸ばし、おかっぱにした青年。
その全員が、すでに異能士団の服装に着替えていた。
「んじゃ黒髪のやつから自己紹介」
「…『皇帝』のアレク・ネオプトル。よろしく」
「『女教皇』のエマ・アルバです。よろしくお願いします」
「『教皇』のオーラス・プラーマー。ごめんね、3人ともつまらない挨拶でさ」
「あ、全然大丈夫。これから知っていくんだから」
困ったように笑うオーラスに、ウァルスは頷いた。
そして3人を近くの椅子に座らせると、パンと手を叩いて話し始めた。
「さて、こいつらは随分重要な情報を持ってきてくれた。勇者と魔王が過去に起こした行い、各地で出没し混乱を招くアクト・バロピサの目的、そしてヴァルタイユの異能の手がかり…」
それを聞いて、一同は目を見開いた。
ヴァルタイユに異能があることは大体判明していた。
その異能の手がかりが見つかったと言うのはかなり大きい。
「ついでにこいつらのことをよく知るために、こいつらが団員になるまでの話を聞こうじゃないか」
「ジンとか団長は呼ばなくていいのかい?」
ルフの質問に、ウァルスは呆れたように嘆息した。
「俺も言いに行ったさ。そしたらジンは興味なくて、エルドはすでにこの3人から聞いていたらしい」
ジンはヴァルタイユへの復讐以外何も考えておらず、エルドは必要な情報だけ抜き取ってやるべきことをする。
あの二人は本当に相変わらずだ。
「じゃあ話すよ、俺たちが経験してきた旅を」
気怠げな声でそう言うと、アレクはゆっくりと話し始めた。
《キャラクター紹介》
○ジン・デルフ・エスパーダ
物語の主人公。幼馴染のイリアを殺され、復讐の道を辿る。
イリアとの思い出に囚われ、周囲に攻撃的になっている。
剣型は『黒炎』(主属性:禁、副属性:炎)、戦意解放力は65%
○アレク・ネオプトル
新たに異能士団に入団した、気怠げな青年。
『皇帝』の異能を持つ。
○エマ・アルバ
新たに異能士団に入団した、大人びた印象の女性。
『女教皇』の異能を持つ。
○オーラス・プラーマー
新たに異能士団に入団した、明るい性格の青年。
性格とは違って、前髪は目が隠れる長さのおかっぱにしている。
『教皇』の異能を持つ。




