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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第六章 寂寞の虚界
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幕間 最強

「ああ…痛いなぁ…こんな思いをしたのは初めてだ」


 ガクガクと震える足を強引に腕で押さえつけ、ハデスは言った。


 ひどい状態だ。

 口から血を吐き、体から折れた鋭利な骨が飛び出している。

 だがそれでも、ハデスは強い意志を持ってそこに立っている。


「全員生きて帰さないからな…!」


「…撤退は無理だ。ここで倒すぞ」


 ハデスの目に灯った憎悪の炎を見て判断したのだろう。

 ソートは悔しげにうめいた。


「リーフ、サウザントオーブを使え」


「無理だ、今ここで使えば…守れるはずの味方を失ってしまう」


 万が一暴走リーフがハデスに味方しようものなら、それこそ終わりだ。

 まだサウザントオーブの力を使わない方が勝機がある。


 だが、ソートはそんなふうに思っていない。


「守れるはずがない!いいから使うんだ!」


「揉め事か!若人よ!」


 怒鳴るソートに、ハデスは『滅剣エクシティウム』で斬りかかった。


「『インフェルノ』!」


 だがマレンのフォローによってハデスの軌道がずれ、危ういところでソートは難を逃れた。


 動きが異常に早かった。

 化身を生み出した張本人だ、自分の戦意をいじっていてもおかしくはない。


 そして…


「邪魔だ」


 マレンが、消された。


「あ…」


 ただ地に落ちた紫の髪を、一同は見つめることしか出来なかった。


「『暴風儀クアランド』———ッッッ!!!」


 ただ一人、ルイネだけが魔法を放った。

 その後隙も、ただハデスに狩られるだけ———


「ルイネ!」


 マーカスがルイネの背中を押し、自分がハデスの視界に入った。

 そして直後には、マーカスの姿も消えていた。


「リーフ、サウザントオーブを…」


「…嘘だ…」


 地に膝をついて崩れ落ちるリーフを、ハデスは見逃さなかった。


「死ね!コノハ!」


 ハデスが振りかぶる『滅剣』、それによってリーフが切られる。

 だが、白い化身がリーフを突き飛ばした。


 ソートだ。

 そしてソートに、容赦なく『滅剣』が振り下ろされる。


「俺は…信じているからな」


 その言葉を最後に、ソートは消え去った。


 何が守れるはずの味方だ。

 何が守るための力だ。


 守るための力でも、守れる力でなければ、守れるはずの者など存在しない。

 躊躇した結果がこれだ。


 もう迷っている暇はない。

 ただ目の前にいる相手に勝つために、戦意を抱け。


「『魔法強化【千意】』———ッッッ!!!」



 ※



 真っ赤な世界の中を、リーフは歩いていた。

 淀んだ戦意の世界、そこは遥か遠くの地平線まで赤い。


「…また新入りか?」


「違うみたいなの。まだ命は消えてないみたいなの」


 不意に現れたのは、少年と少女だ。

 そしてその後ろには、無数の人々が佇んでいる。


「君たちは?」


「ハデスに殺された人たち」


 背後から声がかかり、リーフは慌てて振り向いた。


 リーフと瓜二つの少女、コノハだ。


「コノハ…君が僕の体を動かしてるんだろ?なんとかしてくれ」


「無理だよ、私にはハデスを止める力なんてなかったんだもの。あったなら、そこにいる人たちはとっくにあの世にいるはず」


 そういえば、墓地でハデスと戦った時にリーフの方が劣勢だとエイルスが言っていた。


「でも君がこの体の主導権を握れば、ハデスに勝てる」


「じゃあどうやって握ればいいんだ!渡してくれ!」


 苛立ち混じりにリーフは叫んだ。

 早く向こうの世界に戻らなければ、ルイネが殺されてしまう。


 もう失いたくないのに。


「いい?リーフ」


 だがコノハは、宥めるようにリーフに言った。


「君はなんのために武力を使うの?」


「…守るためだ」


「私も同じ、サウザントオーブは守るために作った。それじゃあ君はなぜ戦意を抱くの?」


「……」


「君は勝つために戦意を抱いている。ただ相手を負かすことを考え、勝利に貪欲になっている。だから憎悪を抱く私の思念が出てきてしまうの」


「…じゃあ…」


 ようやく答えを導き出したリーフに、コノハは微笑んだ。


「守るために戦意を抱いて。そうしたら、君は守れる」



 ※



 空気が変わる。


 リーフの魂に刻み込まれた『化身王の加護』が、サウザントオーブと溶け込み合う。


 200%の解放力が、1000の戦意に宿る。


「なんだ…?」


 困惑するハデスの前で、リーフは剣を構えた。


 見たこともない量の赤いオーラが、リーフの周囲を漂う。

 その戦意の量は、吐き気を催すほどだ。


 この瞬間、リーフの戦意解放力は…2()0()()に達した。


「『暴風儀クアランド』———ッッッ!!!」


「『シールドオーラ』!」


 リーフがアネモスを振りかぶるのに合わせ、ハデスは防御魔法を展開した。

 しかし魔法と共に放たれる赤い斬撃によって、ハデスに無数の切り傷が刻まれた。


 周囲の景色が遅れて見える。

 解放力20万によって、超高速で動いているからだ。


 その速度は、約マッハ600。

 ハデスの目では間違いなく追いきれない。


「く…死灰儀ゲヘ…」


「遅い!」


 上級魔法を唱えようとするハデスの背後にリーフはすでにいた。

 ハデスが何か行動を起こすよりも先に、リーフはすでに行動を終わらせているのだ。


「終わりだ!『暴風儀クアランド』ッ!」


 やがてハデスの胸部をアネモスが貫き、傷口から風の上級魔法を放った。

 ハデスの体は風の刃によって粉々に擦り切れていく。


「まだ…まだだ…!俺はまだ…魔法の極致を…」


 最後まで言い切れずに、ハデスの頭部は風にの見込まれ、消失した。


 最悪の戦いは、ようやく終わった。

 リーフとルイネ以外の、全ての仲間の命と引き換えに。


「…僕が…迷ったせいで…」


 先ほどまで仲間がいた場所を見て、リーフはつぶやいた。


 自分には、皆を守れる術があった。

 なのに少し迷っただけで、全てを失った。


 人の命の損失というものはあまりにも残酷で、一瞬の出来事なのだ。


「うあああああああああああああああああああ!!!」



 ※



「ナリムは無事異能士団に入ったようだよ」


 ヴァルタイユは、目の前の男に言った。


 そそくさと魔法の研究を進める少年、アラスタ王だ。


「君はなかなかうまくやったと思うよ。まさか僕が渡した情報だけで、ナリムを虚界に追放する選択をするとはね。おかげで計画は上手く進んだ」


「全て見えているのは君だけではない。世界の全てを見渡す『覇王の宮殿』を作ったのはワタシだ。ワタシの城に同じ細工が施されていても何もおかしくはあるまい」


「それじゃあ教えてくれないか。あの灰色の髪の剣士の正体を」


 そう言われて、アラスタ王は一瞬眉を顰めた。

 そしてすぐに思い出したように手を打った。


「君は彼を()()()()のか、なるほど。彼は剣聖の弟だ」


「…なのに灰色の髪だと」


「おそらく『封剣士』を継いでいる。それでいて『覇王の魂』をも継いでいるのだから、間違いなく最大の脅威となるはずだ。脅威として匹敵するのならば、リーフ・グラウィスくらいだろう」


「リーフ・グラウィス…彼のサウザントオーブは大した力だけど、僕の『残虐の雨(クルーエルティクロウ)』の前では無力だ。あまり気にしなくてもいいさ」


 そう言うと、ヴァルタイユは研究室を立ち去ろうとした。


「待ってくれヴァルタイユ、ワタシはエイルスの行方が気になるのだが…彼女はもう舞台から脱落したのかな?」


「いいや、まだだ。楽しみにしておくといい、彼女がこれから為すショーを」


 口元に嗤いを浮かべ、ヴァルタイユは立ち去った。

第六章終了しました。

第七章も引き続き見ていただけると幸いです。

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