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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第六章 寂寞の虚界
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第六話 化身王の加護

「予想以上よ」


 魔法学校に帰ってきたリーフとナリムを見て、ライは満足げに言った。


「まさか本当にハデスを見つけてくるとは思わなかったわ」


「ああ、正直私も途中で助けに行こうかと思っていたところだ」


 流石のエイルスも、リーフには無理だと考えていたらしい。


 リーフはエイルスのことを信じていたのに、エイルスはリーフを信じていなかったようである。

 だが危険があれば助けに来てくれるのがエイルスだ。心配性は仕方がないのかもしれない。


「相変わらず優しいですねエイルスさん」


「…ナリムも、何事もないようでよかった」


 何故かナリムから目を逸らすエイルスに違和感を感じつつも、リーフはライに視線を向けた。


 作戦を立てるのはこの女だ。

 かなり無理な作戦を強要してくる可能性がある。


 しかしリーフのサウザントオーブを一番有効活用できるのはライだ。

 ソートも暴走については知らなかったらしく、現在は魔導兵団長としての指揮能力に賭けるしかない。


「リーフ・グラウィスは来てくれるみたいだけど、他の生徒達は来てくれないのかしら?」


「厚かましいことを言うな。私の生徒をこれ以上危険な目に合わせたくはない」


 キッとライを睨みつけ、エイルスは吐き捨てるように言った。


「リーフ、お前も無理に行く必要はない。英雄の問題は英雄が解決すればいいんだ」


「先生、僕はハデスを止めたいんです。もう二度とソート達みたいな思いをする人が出ないようにしなければなりません」


 リーフの強い意志を見て、エイルスは納得したように微笑んだ。


 リーフは数ヶ月前、エイルスに『武力とは守る力』と教わった。

 常人よりも優れた戦闘能力を持つリーフには、脅威を討つ義務があると思ったのだ。


「待って、私たちも行くよ」


 気づけば、マレン、ルイネ、マーカスの3人も部屋に入ってきていた。


「お、お前達もか…」


「先生…あたしはリーフに万が一のことがないようについていきたいです」


「俺もだ。まだチェスの決着がついてねえ」


「私はあのムカつくおっさんを成敗したいだけですけどね」


 口々に言う生徒達に、エイルスはもはや何も言えなくなってしまった。

 だが、口元には笑みを浮かべている。


「お前達、本当に強くなったようだな…。分かった、私も保護者として同行する」


「あら、それは意外だったわ」


 エイルスが戦いに参加するのならば、戦力は大きく上がる。

 こちらの勝率もグッと上がったはずだ。


「それじゃあ明日までに作戦を練っておくから、休んでおきなさい」


 ライの一言で、この場は解散となった。



 ※



「…リーフ」


 ディオンがいなくなり、リーフのものとなった部屋にルイネが入ってきた。

 そして毎度のように寂しげに部屋を眺めると、やがて言った。


「…なんで行くなんて言ったの?」


「え?」


「私はもう二度と…大切な人を失いたくないよ」


 そう言われて、リーフは思い出した。

 ルイネが虚界に行くと決めた理由は、リーフを守るためだ。


 ルイネは本当は、ハデスと戦いたくないのだ。


「…リーフがいなくなったら…あたしはもうどうすればいいのか分からない」


「……」


 確かに、すでにディオンを失っている身からすれば、リーフがやっていることは無責任だ。

 自ら彼女の心の拠り所となったリーフが、今度は自分のわがままでルイネを置いていこうとする。


 なんと酷な話だろう。


 だが…


「ルイネ、もう少しだけ僕のわがままを許してくれないか」


「…」


「僕だってもう二度と、大切な人を失いたくない。ディオンを僕たちから遠ざけるきっかけを作ったあの男は、これからもっとたくさんの人を悲しませるだろう。それこそ殺されるかもしれない…。僕は防げたはずの厄災を側で見ているのは嫌なんだ」


 リーフの訴えを、ルイネは悲しげに見つめていた。


 リーフが持つのは正義感ではない。

 英雄になりたいとか、誰かを守ってやりたいとか、実際はそんな理由ではない。


 リーフはただ、皆と一緒にいたいだけだ。


 小さい頃に両親を失い、独りの身となったリーフ。

 最初は孤独のことをなんとも思っていなかったが、学校で生活していくうちに怖くなった。


 もし自分の周りにいる人がいなくなったら、リーフは耐えられないだろう。


「…分かった」


「ありがとう」


 やがて納得したように頷き、ルイネは部屋を出て行った。

 そして入れ違いに、ソートが入ってきた。


「元気か?」


「…かける言葉が見つからない時のエイルス先生みたいなこと言わないでくれよ」


「はは、的確だな」


 過保護なエイルスの姿を想像したのだろう、ソートは軽く笑った。


「実は普通に用事があるんだ」


「用事…?」


「ああ、お前に取り憑こうかと思って」


 取り憑くといえば、化身の能力だ。

 取り付けば化身に対応した加護が与えられる。


「僕でいいのか?」


「お前以外に誰がいるんだ」


 確かに、ソートが関わりを持っている人間は今のところリーフしかいない。

 それにリーフがコノハの生まれ変わりなら、ソートが守ってやりたくなるのも当然のような気がする。


「分かったよ、どうやるんだ?」


「すぐに終わる」


 そう言った瞬間、何やら白い魔力がリーフの体の中に流れ込んできた。

 その魔力は体の網目の至る所に流れ、やがて循環し始めた。


「終わったぞ」


「早い…」


 もう少し儀式のようなものを予想していたのだが、本当にすぐに終わった。


「ソートの加護はなんなんだ?」


「『化身王の加護』は、『化身の加護』にプラスしてさらに戦意解放力を100%上昇させるというシンプルなものだ」


 つまり、ソートが取り憑くことによって戦意解放力が200%になったと言うことだ。


 100%の上があることに驚いたが、この状態なら常人では敵わない速度で移動できるようになるはず。

 ハデスの『滅剣エクシティウム』をかわすのに役立つことだろう。


「明日は決戦だ、お前も早く寝るんだぞ」


 そう言って、ソートは部屋を後にした。

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