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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第六章 寂寞の虚界
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第四話 蛇の如き矢

 どうやらナリムの背中から生えている二匹の蛇の化身は、『双蛇』と言うらしい。

 弓使いであるナリムが敵から距離を取るために、近接攻撃を行ってくれる。


 ソートや双蛇のように意思を持つ化身はとある条件を満たすと人間に取り付くことが出来るらしく、ナリムはそうやって双蛇を従えた。


 また化身に取り憑かれた人間には永続強化魔法…いわゆる『加護魔法』が付与されるらしい。

 化身の加護魔法は『化身の加護』と『固有の加護』の二つがあり、前者は全ての化身が使え、後者はそれぞれの化身に設定されている。


『化身の加護』の効果は、対象の戦意解放力を100%にするというものだ。

 化身は戦意を常に全開放している。その力を与えるのである。


『固有の加護』である『双蛇の加護』は、飛び道具に追尾機能を与えるというものだ。

 弓使いであるナリムにはちょうど良いと考えたのだろう。


「虚界には黒い化身が大量にいるから、自分の戦力も高めておかなくちゃいけないそうです」


「黒い化身…あいつらは何者なんだ」


「二百年前ハデスが作り出した兵器だそうです。意思と加護は持ちませんが、戦闘力は立派な化身です。注意しましょう」


 なるほど、やはりリーフが感じた戦意の力は本物だったようだ。

 そんな黒い化身を一撃で倒してしまうソートの強さも改めて実感した。


「それはそれとして、リーフはどこに向かっているんですか?」


 小さい足でトコトコ小走りするナリムに聞かれ、リーフは森を指さした。


「英雄の墓地だよ」


「英雄の墓地…?」


「うん、英雄が死んでから出来たものだから、ソートは知らないんじゃないかって」


 隈なく探したとソートは言ったが、英雄の墓地はよほど正確な場所を知らなければ見つけられない場所にある。どういうわけか、周りから探しても見えないのだ。


 だからたとえ墓がある場所に小さな拠点があったとしても、ソートは気づかないのではないかと思ったのだ。


「ついた、ここだ」


 数ヶ月前、マレンを救うために入り込んだ英雄の墓地、そこに2人はたどり着いた。


 なぜかそこには墓石がたっていて、以前リーフが見た光景と同じような墓地が佇んでいる。


「なんで…ここも現実世界とリンクしているのか?」


「リーフ、見てください」


 困惑するリーフを呼ぶナリムの声は、どこか呆れたような様子だった。

 ナリムが指を指しているのは、墓石だ。


「…これは」


 墓石には、「おしっこ大洪水マン」「おっぱいでかいけどブスな奴」「逃げ足だけは早い男」などなど、英雄達の悪口のようなものが書かれている。


 間違いない、この墓石はハデスが作ったものだ。


 何か予感を感じながら歩いていくと、ゼウスの墓の横にあるはずのないものがあった。


「…ハデスの墓…」


 墓石を退け、リーフは中を覗き込んだ。

 そこには掘ったような穴が空いている。


「見つけた」


 リーフは呟き、ナリムと共に通路を進んでいった。



 ※



「やっぱり2人の予想は正しかったみたいですね」


 ナリムの呟きに、リーフは頷いた。


 英雄の墓地の地下…リーフとソートの予想が両方当たっていた。

 目の前にあるのは巨大な館、ハデスの館だ。


 そして…


「はるばる遠くからようこそ少年、そしてロリっ娘よ」


 白い装束を風にたなびかせ、館の屋根の上で男が両手を広げていた。

 黒髪に顎髭…ハデスだ。


「まさかここが見つかるなんて〜」


「…ッ」


「いやね、ここって現実世界だと俺たち三兄弟の秘密基地だったんだよ。思い出が忘れられなくてね」


 ヘラヘラ笑ってみせるハデスに、リーフは内心焦っていた。

 まさか待ち伏せされているとは思わなかったからだ。


(ここで戦って勝ち目はあるのか…?)


 万が一リーフが死にかけたら『魔法強化【千意】』が発動し、ナリムにも被害が及ぶ。


 それにサウザントオーブの力でハデスを倒せるわけではない。

 前回はそれでエイルスとライに助けてもらったのだ。


「ナリム、逃げよう」


「うん」


「え、来ないの?ターゲットが目の前にいるのに」


 出口に向かって駆け出すリーフ達を見て、ハデスはがっかりしたような声を漏らした。

 直後、黒い影がリーフ達の前に降り立った。


「…黒い化身…!」


「ほら!おじさんと遊ぼう!」


 出口を塞がれて身を構えると、後ろからハデスが飛んできた。


「『シールドオーラ』!」

「『アサルトショット』!」


 リーフが3枚の壁を、ナリムはそこから弓だけを出して矢を三連続で放った。

 追尾機能を持つ矢は確実にハデスの元へと飛んでいった。


「『シールドオーラ』」


 ハデスも壁を5枚展開するが、矢は『シールドオーラ』に突き刺さったままピンと立っている。

 そしてそのままどんどん力が増していき、やがて防御魔法を全て破壊してしまった。


「えぇ!?」


 間抜けな声を出すハデスに、ナリムは得意げな顔をしてみせた。


「私の剣型は『土流』、副属性の水により矢の対空時間が長引くほど、土属性の効果で威力が増します」


「防御魔法ぶっ刺さってんのって滞空判定!?嘘でしょ!」


 慌てて矢を避けようとするハデスだが、『双蛇の加護』による追尾機能は失われていない。

 矢が飛び道具という存在であるうちは、永遠に対象を追い続けるのだ。


 だが…


「なんてな」


 直後、銀色の斬撃が空を切り裂いた。

 そしてハデスの右手には、6mにも及ぶ巨大な刀が握られていた。


「ここ数年の努力の賜物、『滅剣エクシティウム』の威力を見せてあげよう」

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