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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第六章 寂寞の虚界
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第二話 化身

白い塵の世界が晴れ、リーフは奇妙な光景を目の当たりにした。


地面は全て白い塵が積もっていて、宙にも僅かに塵が舞っている。

木々は枝が黒く、葉は白い。


そして世界を覆い尽くす空は、深淵のように深い黒に染まっていた。


「ここが裏世界『寂寞の虚界』…」


何もなく、音も聞こえない。

まさに寂寞の世界だ。


ようやく塵の吹雪を抜け出せたが、これからどうやってハデスを探そう。

不思議とここでは空腹を感じることが無かったので、しばらく歩き続ければ見つかるだろうか。


ふと、リーフは気づいた。


遠方に見える白い城、白と黒の森、見た目こそ違えどこれは、リーフの知っているクアランドの地形だ。

それなら、ハデスがいそうな場所は限られる。


まずは———



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



突如として聞こえてきた叫び声に、リーフは慌てて振り向いた。

攻撃だ。


「『シールドオーラ』!」


その攻撃を魔法で弾き、リーフは距離をとった。


黒い怪物だ。魔物とはまた違った魔力の流れを感じる。

そして、その魔力の流れを感じるうちにあることに気づいた。


まず一つ目は、その魔物が完全に魔力のみで構成されているということ。

魔物は大体その地域の成分…森であれば木、洞窟であれば鉱石に魔力が宿って生まれる。

しかしこの黒い怪物は、全てが魔力で出来ている。それはつまり、普通の魔物よりもかなり強力であるということだ。


二つ目は、戦意の力が滾っているということ。

魔物には扱えないはずの戦意操作、それがこの怪物には出来ている。

その戦意操作によるものなのか、怪物の目は赤く光っている。


そしてその戦意の力は、今まで感じたことのないくらい強力だ。


「まさか…100%…!?」


だとすれば、純粋な戦意と魔力を有していることになる。

その恐ろしさは、戦闘をある程度経験している者であれば分かるはずだ。


(ハデスが作ったのか、この魔物を?)


この世界にいるのはハデスのみ。

ハデスの仕業と考えて間違いはなさそうだ。


どちらにせよこの怪物は、リーフに敵意を持っている。

ならばこちらも殺す気で戦わなければ。


「『テンペスト』——ッッ!!」


風属性の中級魔法『テンペスト』、上級魔法ほどではないがかなりの威力を持っている。

そこらの岩石であれば容易に打ち砕くことができるレベルの風刃だ。


だが、怪物には効いていない。


『シールドオーラ』だ。怪物は防御魔法で防いだのだ。


「防御魔法を使う魔物なんて聞いたことがない…!」


上位魔物であれば、魔法を使うことはある。

しかしそのどれもが、あまり強い魔法を使わないのだ。


怪物の倒し方を模索していると…


「『王拳キングブロウ』!!!」


横から飛んできた凄まじい一撃が、怪物を『シールドオーラ』ごとすりつぶした。


あまりにも呆気ない出来事に目を丸くしていると、先程の一撃を放った人物が姿を現した。


否、その者は人物と呼ぶに相応しく無かった。

なぜならそれは、白い怪物だったからだ。


異形ではない、2、3mの人型の怪物だ。

全身の巨大な筋肉が白い鱗に包まれていて、鱗の隙間から白い炎のようなものが燃えたぎっている。


顔はただ鱗に包まれているだけで、鼻や口のようなものはついていない。

だが顔の中心に眼のようなものがあり、赤く光っている。


この怪物も、黒い怪物と同じ種類なのだろうか。


「人間か…?」


不意に投げかけられた質問に、リーフは驚いた。

この怪物は先程の怪物とは違い、人の言葉を話せるようだ。


「ああ、僕は人間のリーフ・グラウィス。君は何者なんだ」


「ソート・オグレイ」


そう名乗ると、ソートの体はだんだん縮んでいった。

そしてしばらくするとそこには、黒い服装に白いマントを羽織った男がいた。


白い髪の青年だった。目も白く、色が抜け落ちたような感じだ。


「リーフ、困ってるだろう。俺の城に招待してやる」


響くような、落ち着いた声でソートは言った。





俺の城、と言ってソートがつれてきたのは、クアランド城だった。

虚界には誰も住んでいないので、ソートが住処としたのだろう。




「何しに来た?」


「ハデスを探しに」


ハデスという単語を聞いて、ソートは驚いたような顔をした。


「今の時代の人間がハデスを探しているのか?」


こんなことを言うとなると、ソートは昔の人なのだろうか。


「もしかして、寂寞の虚界の入り口が開いたことを知らないとか…」


「本当か…あれは内側からじゃ開けられない。誰がそんな真似をした?」


「ハデスに協力者がいる。おそらくそいつだ。そんなことより、君は自己紹介してくれないのか?」


先ほどからリーフのことばかりだ。

ソートのことは何も教えてくれていない。


「お前は、ハデスが作り出した上位魔物のことを知っているか?」


「ああ、現代のゼウスから聞いたよ」


確かハデスは、人間の身体構造に好奇心を抱き追求した結果、人間を純粋な魔物に変える実験を行った。

それは失敗してしまい、ハデスは実験データごと寂寞の虚界に閉じ込められたのだという。


「俺がその上位魔物、『化身』の1人だ」


「…え、ソートが魔物?」


ソートは教えてくれた。過去に起きた出来事と、寂寞の虚界について。


ハデスが行おうとしたのは、人間を魔物に変える実験ではないらしい。

正確には、人間が魔物に変身出来るようになる実験だ。


ハデスはより完璧な変身を求めたため、魔力と戦意を最大限に活かす研究を行った。

しかし魔力を最大限まで引き出すことは可能だったが、戦意の方は不可能に近かった。


そこでハデスが目をつけたのが、天才魔法使いコノハが作り出した力、サウザントオーブだ。


1000人もの戦意を一つの魂に取り込む技術、ハデスはそれを欲し、コノハを捕らえた。

そして被験者たちに戦意と魔力を無理やり供給し、『化身』を完成させたのだ。

しかし誰もが、変身した後は戻れなくなってしまった。


その中の唯一の成功例がソートだった。


そのまま彼らは英雄ゼウスによって虚界に追放され、長い間この世界を彷徨っているらしい。

虚界に浮かぶ塵は魔力と養分の塊なので、食料にも困らないそうだ。


ソートは『化身王』を名乗り、千年もの間この城を拠点としてハデスを探しているらしい。

きっと自分をこんな目に合わせたハデスが憎いのだろう。


「まあ、疲れただろう。今日は風呂入って休め」


「水はあるんだ」


「お前魔法使いじゃないのか。炎属性と水属性くらい使えるようになった方がいい」


そう言って、ソートは再び城を出ていった。


「…その発想は無かった」

《キャラクター紹介》


○ソート・オグレイ

寂寞の虚界に住む青年で、化身に変身することが出来る。

ハデスを探すリーフに力を貸す。

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