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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第六章 寂寞の虚界
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第一話 英雄の権限

 白い塵が降り積もる中、少年はただ歩いていた。

 歩くたびに足が数センチ沈み、その度に無駄に体力を消耗する。


 周囲は白い塵によって完全に見えなくなっていて、ここ数日ずっとこの景色が広がっている。

 少年の探し求めるものは、たとえ近くにあっても気づかないだろう。


 だがそれでも、少年は歩みをやめない。

 いつか必ずこの純白の世界から抜け出せると、信じているから。


 尊敬するあの人を、信じているから。


「絶対に見つける…」


 金髪の少年リーフ・グラウィスは、不屈の眼差しで遥か遠くを見つめ続けていた。



 ※



「また、英雄ゼウス様が来るようだ」


 苦い顔をしながら、エイルスはテーブルに座った生徒たちに言った。

 その言葉に、生徒たちも顔を顰めた。


 ライ・ヘロウル・ゼウス、通称英雄ゼウスは、ディオンのこともあり悪いイメージしかない。

 不必要なものを全て切り落とすタイプで、人の感情など気にもとめていないと言った様子の女だ。


「なぜまたあの人が?」


 理由もなしに来てもらっては困るので、一応リーフは内容を聞いておくことにした。


「私も詳しくは聞かされていないが、おそらく『魔法強化【千意】(サウザント・オーブ)』について何かわかったのだろう」


「……」


 つまりはリーフのせいである。

 ルイネはライを毛嫌いしているので、リーフは何だか申し訳なくなった。


「まあそう心配することはない。別にディオンの時のように、私たちが問題を起こしたわけではないのだ」


「そりゃそうだけど、こいつらゼウスの声聞くだけでもキツいんじゃねえか?」


「…流石にそこまでじゃない」


 マーカスの言葉に、ルイネが眉を顰めて訂正した。


「…リーフの力はまだあまりよく分かってない。…それが分かるのなら良いことだと思う」


「そーだね、私もサウザントオーブのこともっと知りたい」


 マレンが明るい声で言った言葉に、その場の全員が頷いた。


 みんな、ライに会うことをあまり嫌がっていないように振る舞ってくれている。

 そんな生徒たちの様子にリーフとエイルスは微笑んだ。



 ※



「ハデスの拠点が『寂寞の虚界』であることが判明したわ」


「…そうか」


 予想と違う報告に、エイルスは少し戸惑いながら返事をした。


 ハデスの居場所が判明したならば、魔導兵団を使って調査させればいい。

 なぜ学校に来るのだろう。


「先に断っておくが、私はその戦いに参加しないぞ。生徒たちがいるのでな」


「ええ、あなたではなく、私はリーフ・グラウィスに用があるの」


 唐突に名前を呼ばれ、リーフは硬直した。


「僕に、何か?」


「数ヶ月前、あなたは英雄の墓地で暴走した。その時にほとんどの墓石が崩れてしまったの。だからその罪滅ぼしにでも『寂寞の虚界』の調査に行ってもらおうと思って」


「な…」


 あの時リーフが暴走したのは、マレンを助けようとしてハデスに行った正当防衛だ。

 それを罪と呼ぶのは少しおかしいような気がする。


 ここで初めて、リーフはこの女のことを理解した。


 この女は先程言ったように、不必要なものを容赦なく切り捨てるタイプの人間だ。

 そしてその切り捨てる手段も、目的を達成するための手段も選ばない。


 切り捨てる手段は、相手の罪を利用すること。

 罪に問われれば、その者は大人しく従うしかない。


 そしてリーフを『寂寞の虚界』に送った場合、調査の成功率は高まる。


 リーフは瀕死になったら『魔法強化【千意】(サウザント・オーブ)』を発動する。

 だから未知の場所でもリーフを放り込んでおけば、ある程度調査ができると言うことだ。


 そして万が一リーフが死んだ場合でも、厄介者を排除できる良い機会になる。

 暴走したリーフはほとんど誰にも手がつけられない。だから危険だと判断したのだろう。


「立場を使うのが上手いようだな…!」


「使えるものは全て使う主義なのよ」


 怒りをあらわにして睨みつけるエイルスに対し、ライの視線はどこまでも冷ややかだ。


 エイルスはリーフのために怒ってくれているが、こちらには抵抗のしようがない。

 英雄の墓石を壊したのは確かに罪なのだ。


「わかりました、僕が調査に行きます」


 リーフが一言言うと、エイルスは悔しげに表情を歪め、ライは満足げに微笑んだ。


 後ろから生徒たちの心配の視線を感じるが、今はそれを無視しなければならない。

 仮にリーフがハデスを見つけ出しさえすれば、リーフはまたここに戻って来れるのだ。


「虚界への入り口には『ワープ』を繋いである。付いてきなさい」


 そう言われ、リーフがライの元に近寄った。


「リーフ」


 不意にエイルスに呼び止められ、リーフは振り向いた。


「虚界には塵の吹雪が広がっているが、大丈夫だ。私の計算が正しければ、1週間で抜けることができる」


「…エイルス・ネオプトル、どこでそんなことを」


「私も過去に王都にいたのでな。当然、『恋人』のことも知っている」


 再びエイルスとライは睨み合うと、やがてライはリーフの肩を掴んだ。


「『ワープ』」

《キャラクター紹介》


○リーフ・グラウィス

風魔法が得意な魔法使いの少年。

サウザントオーブの力を持っている。

剣型は『自然』(主属性:風、副属性:土)


○エイルス・ネオプトル

水属性と闇属性の魔法を使いこなす、魔法学校の教師。

必殺魔法『魔力解放』を使いこなす、クアランドトップクラスの魔法使い。


○ライ・ヘロウル・ゼウス

英雄ゼウスの子孫で、魔導兵団の団長。

不必要なものはとことん削ぎ落とす性格。

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