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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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幕間 振り出し

「トアペトラを敵にした…か。私が世界を支配すれば、トアペトラは私の傘下に入るというのに」


 含み笑いをしながら、アルダレオは手に力を込めた。

 その力は間違いなく『偽炎』、彼も偽りの剣型を自らの身に宿していたのだ。


「『地獄炎ヘルフレイム』———ッッッ!!!」


 手に宿した業火を床に放ち、アルダレオは叫んだ。


 床に放たれた炎はあっという間に広がり、ディルセイ達は完全に炎に囲まれてしまった。

 もうアルダレオの姿も見えない。

 だがそれすらもルフには通用しない。彼は味方の周りの炎を操っていた。


「やったな、お前さんの能力があれば怖くないぜ」


「いや、見るんだ」


 呑気な声をあげるディルセイに、ルフは鋭い目つきでアルダレオを睨みながら言った。


「僕は、炎を消す能力を有していない。ライターで作った炎はライターを消せば消えるが、父さんの炎は出続けている」


「…つまりあれってことか、一酸化炭素やべえってことか」


 これもアルダレオの戦略だったのだろうか。


 この部屋は何でできているのか分からないが、炎は燃え移っていない。

 だからルフに永久に炎を提供し続けても、実験データに影響は出ないということだ。


「早いとこ仕留める必要があるな」


 そういうと、ディルセイは研究室を見渡した。

 狙撃が行えそうな場所を探しているのだ。


 しかしどこにも見当たらなかった。


「俺の特技も把握済みかよ」


「大人しく死ぬが良い」


 歯軋りするディルセイに、アルダレオは床に散らばる炎をけしかけた。

 この男の能力は、おそらく部屋を炎で包み、その炎の部屋自体を操る能力なのだろう。


「ディルセイ!」


 ローダの拳が、アルダレオの炎をかき消した。

 彼の高威力の打撃なら、どうやら炎を消せるようだ。


「親父ィ!ぶっ殺す!」


 部屋中に溢れた炎の海を全て殴りながら、ローダはアルダレオに近づいていった。

 だが———


「ルフ、お前はこの畝る炎をこう呼ぶのだったな?『ジャッジメントフレア』」


 ——ローダの体は、炎に掴まれてしまっていた。


「あっぢィィィィ!!」


 涙目で悶絶するローダは、もう身動きが取れないようだ。

 いつもルフが極悪人を捕まえるときのように縛り付けられている。


「『古代龍エンシェント・ドラゴン』」


 直後、鋭利な岩石がアルダレオに向かって突進した。

 グレイの剣技、土の龍を召喚する術だ。


 しかしアルダレオはそれを交わし、龍はジュリアのガラス管に突進してしまった。


「ば、馬鹿!」


「すまん…」


 謝罪するグレイを無視し、ルフが慌ててジュリアの元へ向かった。

 その途中黒い液体を踏むと、何か痛覚を感じたのか慌てて水溜りから離れた。


「…痛ぅ…ッ、気をつけてくれ!黒い水を踏むと激痛が襲ってくる!」


「あの野郎…ジュリアをなんてもんに入れてやがる…!」


 湧き上がる憤怒を抑えながら、ディルセイはあっと声を漏らした。

 アルダレオの炎がルフに襲いかかったからだ。


「愚か者どもめ…目を覚ましたらジュリアは激痛に襲われるぞ」


 炎を交わしながら、ルフは信じられないと言ったような表情をした。


「父さんが言うのか」


「そんなつまらんことで精神が崩壊されてはたまらんのでな」


 相変わらずブレないアルダレオに、ルフは歯軋りした。

 本当に人を道具としてしか見ていないらしい。


 だが、同時にルフは口元を歪めた。

 勝機が来たからだ。


「ッ!」


 危機を感じ、アルダレオは横に飛んだ。

 背後から飛んできたのは、セルヴィアのレーザービームだ。


 炎の中に身をひそめ、チャンスを窺っていたのだ。


「馬鹿め、せっかくのチャンスを無駄にするとはな」


「優秀な私が失敗などするはずがあるまい」


 満足げな笑みを浮かべるアルダレオに、セルヴィアはどこまでも冷静だ。


「この戦い(ゲーム)は簡単だった。もうクリアしたも同然だ」


「何…」


 笑みを浮かべるセルヴィアに危険なものを感じ取り、アルダレオは慌てて飛び下がった。

 だがもう遅い。


 アルダレオは先ほどまで、部屋の中全員の状況を把握しつつ戦っていた。

 だが今はセルヴィアに対して真っ向から勝負を仕掛けた。

 この時点で、もうこちらの勝ちは確定していたのだ。


 ディルセイは絶対に、狙撃を外すことはない。


「『黒雷の弾丸』」


 そう呟くのと同時に、電磁狙撃銃ボルテージライフルから黒い雷が放出された。

 あらゆるものを貫き、必ず標的を撃ち抜くディルセイの必殺技だ。


 ぐちゃっという音をたて、アルダレオの頭部は弾け飛んだ。


 アルダレオの命は、間違いなく潰えただろう。


「問題はジュリアの回収だな」


 喜びを分かち合う暇もなく、ディルセイはジュリアがいた黒い水溜りを見た。

 そして驚愕した。


 ジュリアの姿は消えていたからだ。



 ※



「ようこそ、ここが君の部屋だ」


 穏やかな嗤いを浮かべて、ヴァルタイユは少し大きめの部屋に案内した。

 その嗤い方に違和感を覚えつつ、ジュリアは中に入っていった。


「いい部屋じゃねえか、あたしにぴったりな感じがする。…何もないけど」


「僕の異能を使って、君が何も文句を言わなそうな部屋を作ってみたんだ」


 その言葉に、ジュリアは苦笑した。


 ヴァルタイユの異能はかなり強力で、それゆえに幹部にしか知らされていない。

 特別に二年前からジュリアは教えてもらっていたが、ヴァルタイユの能力を考えればいつ教えようが構わないのだろう。


「まあ、私はゆっくりさせてもらうけど…他の幹部と仲良くしても良いんだよな?」


「ああ、誰とでも好きにしてくれ」


 彼が問題ないと判断すれば、それは絶対なのだろう。

 相変わらず便利すぎる異能に呆れながらも、ジュリアは他の幹部に挨拶をしに行くことにした。


「今は幹部3人が全員中庭に集まっているはずだ」


「どうも」


 ヴァルタイユに教えてもらい、廊下の窓から中庭を覗いてみると、確かに3人いる。


 1人は赤髪の青年リオ、前からヴァルタイユに聞いている情報によると、彼はヴァルタイユに次いで強いらしい。

 異能士団でも、彼と互角に戦えるものは3人しかいないという。

 ちなみに本気を出したリオにはエルドしか勝てないらしい。


 2人目は銀髪の少年、数ヶ月前にここへきた『死神』ディオン・エイリミだ。

 ヴァルタイユから教わった『死神』の能力を着々と使いこなし、今では幾つもの死者を操れるらしい。


 3人目は白髪の少女、氷の魔法に長けているということしか聞いていない。


「ま、知らないことはだんだん知ってけばいいんだ」


 ディルセイと会った時もそんな感じだった。

 そんなことを考えて、ジュリアは心を痛めた。


「ごめんみんな…私は…」


 硬く拳を握りしめ、ジュリアはつぶやいた。


「お前らのために世界を滅ぼす」



 ※



 ジュリアが失踪してから数日が経ち、ディルセイの仕事のモチベーションは急激に下がっていた。

 二年間彼女のために費やしたのに、また振り出しに戻ってしまったからだ。


「旅に出るのは、俺とルフで良いんだよな」


「ああ、戦闘部は俺に任せとけ!」


「万が一のこともあるから、ローダには脱獄犯だけ任せることになる」


 胸を張って答えるローダに心配そうな視線を向けながらも、グレイはディルセイたちの方に向き直った。


「何度も言うが、ジュリアは多分変なことに足を突っ込んでいる。セルヴィアたちが言うには、誰かと密会していたらしい。大丈夫なんだろうな」


「ありがとう、心配してくれて。僕は良い仕事仲間を持った。死なないと約束するよ」


「そうか」


 微笑むルフに、グレイは安心したように頷いた。

 何年も一緒に仕事をしてきたのだ。心配して当然だろう。


 3人が別れを惜しんでいると…


「戦闘部はここか?」


 強引に扉が開かれ、黒いマントの男が入ってきた。


「『審判』のルフの噂を聞きつけて、異能士団の勧誘に来た。最強の狙撃手の勧誘も兼ねてな」


「君は…」


 予想だにしなかった人物の登場に、ルフは目を丸くした。


 剣聖エルド、その男本人が姿を現したのだ。


「異能士団とは何かな?」


「詳しいことは後で説明するが、簡単に言うと世界を救うボランティアだ」


 その言葉に、ルフは何か感づいたようだ。

 世界を救う、それがもし今活発に行動しているのだとすれば、ジュリアが関わっている可能性がある。

 何かしらのヒントが必要な状態で、その申し出はありがたかった。


「…ッ」


 剣聖と聞いて、不意にディルセイは思い出した。

『黒炎』のことを。


「なあ…ジンは元気でやってるか…?兄貴さんよ」


「ジンの知り合いか。異能士団にいるぞ」


 やはり、あの少年は入っていた。

『みんなを守る最強の剣士』を目指しているのならば、入るのは当然だったかもしれない。


「どうやってあいつに『黒炎』のことを伝えりゃ良いんだよ…」


 一生懸命剣技を出す練習をするたびに、自らの手で死定者を増やしていた。

 そんな彼に『黒炎』の正体を明かすのは、なんと残酷なことだろうか。

第五章終了しました。

第六章も引き続き見ていただけると幸いです。



《キャラクター紹介》


○ジュリア・ウィアン・マンセル

組織の幹部で、剣型の魔力を武器を通さずに放つことができる。

剣型は『偽炎』(主属性:禁、副属性:炎)

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