第十五話 禁忌の魔力
「で、ウエラルドには家畜がいねえの。馬だって食えばいいのに何故か乗り物以外で使わねえんだよな。まあ馬車っていう数少ねえ乗り物があるんだけど、それはちょっと便利だったな。馬車といえばさ、剣聖の弟のジンって奴が…」
どうでもいい内容を自慢げに話すディルセイに、ルフはジト目で言った。
「ディルセイ、そんなことより父さんの居場所を教えてくれ」
「おお、そうだったな」
思わず異文化を語るのに夢中になってしまったディルセイは、慌てて羊皮紙を取り出した。
ウエラルドで調達した文房具だ。
「端的に言うと、アルダレオはトアペトラの地下にいる」
「…私の記憶が正しければ、トアペトラは空中都市だ。地下など無いはずだが?」
「あるだろ、トアペトラの入り口が」
空中都市トアペトラは、強大な地中のエネルギーによって生み出された莫大な電力を使って浮遊している。
地上から20×20mのエレベーター状のガラス管の中にある座席に座って、トアペトラの最下層に登り、やがてレールの上に敷かれた交通機関で、1時間ほどで外区の最南端にたどり着くのだ。
完全に外との貿易を断ち切っているため、ガラス管も交通機関も当然大きな荷物は運べないほどの大きさだが。
そしてアルダレオはおそらく、地中の膨大なエネルギーを借りて実験をしているのだろう。
何せトアペトラの入り口は、世界で最も地脈のエネルギーが集中する場所なのだから。
「ウエラルド王都で、エスパーダ家を調べた形跡があった。そこから痕跡を辿って地下にたどり着いたってわけ」
「ローダ兄さんはもう地下に向かっているのかい?先ほどから姿が見えないが」
「ああ、すでに入り口は発見したぜ」
二年間でここまでの成果を上げた2人に、ルフ達は驚きを隠せないようだった。
だが、直後すぐまた曇ったような表情になった。
「その様子だと、研究所からはあまり良い結果は得られなかったみてえだな」
「いや、むしろ情報がありすぎた。知りたくなかった情報もね」
声のトーンを落としてそういうルフに、ディルセイは眉を顰めた。
「知りたくなかった情報…?」
「まずは奴の目的から言おう。人類の選別だ」
横から割って入るようにグレイが言った。
早いうちにどうでもいい情報を話しておくべきだと判断したのだろう。
人類の選別、すなわち生かすべきではない人間は殺すというもの。
アルダレオはトアペトラだけでなく、本格的に世界をを支配しようと考えているらしい。
全く傲慢な男である。剣聖という存在があるのに、世界を力で支配できるはずがあるまい。
だが先ほど言ったように、それはあまり重要ではない。
「知りたくなかった情報は…僕たちの剣型、『黒炎』と『偽炎』についてさ」
『偽炎』それはルフ達の剣型だ。
『黒炎』と同じ属性を抽出し、半分程度の力を再現した紛い物。
アルダレオが『黒炎』を再現するための実験段階で生まれた剣型を、子供達に強制的に植え付けたのだ。
剣型を植え付けるという技術は存在しない。
だが勇者エルナ・コイルド・エスパーダは、3人の剣士に『黒炎』『黒氷』『黒雷』を与えた。
おそらくそこからヒントを得たのだろう。
「それで、俺たちの剣型がなんだって?」
「君は『禁忌の魔法』と言うものを知っているかい?」
「ああ、クアランドで耳にした。世界を破滅に導くらしいな」
「魔法は基本、属性が付いているものなんだ。回復魔法や防御魔法も、状況適応能力が優れた水属性や丈夫さを誇る土属性を応用して作られた。わかるかい?」
つまりルフはこう言いたいのだろうか。
『禁忌の魔法』が魔法であるならば、当然属性が付いている。
「父の研究データによれば、その属性は『禁属性』と呼ばれているらしい」
「禁属性…、……まさか」
セルヴィアの言葉に、ディルセイは硬直した。
自分の剣型の正体を察してしまったからだ。
「勇者から授かった三つの剣型は、主属性が不明だった。その主属性こそが禁属性というわけさ」
どうりで強力だったわけだ。
なんでも叶うチート魔法と同じ属性なら、威力が高いのは当然のこと。
だが『禁忌の魔法』は世界を滅ぼす。
それと同じ属性ということはつまり…この剣型は何かしらの影響を世界に及ぼしているということになる。
「禁属性の剣型を一度使えば、死定者が増える。これが何を意味するか分かるはずだ」
ルフの言葉に、ディルセイは硬直した。
「俺たちが技を使うたび、どこかの誰かが1人死ぬ…それと同義じゃねえか」
それは『黒雷』使いであるディルセイに衝撃を与えた。
それと同時に、一つの疑問が浮かび上がった。
魔王デリアから世界を救った勇者、エルナ・コイルド・エスパーダ。
そんな彼女が禁属性の剣型を3人の剣士に授けた。
一体なんの意図でそんなことをしたのだろう。
「勇者エルナ…何者なんだ…?」
※
巨大な研究室の中心には、大きな筒状のガラス管があった。
その中には黒い液体が入っていて、裸体の女性が無数のコードに繋がれている。
ジュリアだ。
彼女は約二年間もの間、ずっとこの状態で実験を続けられてきた。
アルダレオには失敗経験がある。
キリアという少女を廃人にしてしまったことだ。おかげで殺人鬼にしかなれなかった。
だからジュリアには工夫を施す必要があったのだ。
昏睡状態ならば、体には負荷がかかろうとも精神には問題あるまい。
「『偽炎』の適合者…お前なら私に新たな世界を見せてくれるのか?」
アルダレオは、ジュリアにさまざまな薬品や魔力器官への負荷を与えながら聞いた。
だが、ガラス管の中の女は何も話さない。
それにしても、最近はなかなか実験の進み具合が遅い。
『黒炎』に近づくための何かを半年前に発見して以来、一向に進まないのだ。
「……」
ふと何かを思い出し、アルダレオは資料室に入っていった。
その中には、過去に剣聖デルフの身体を調べたときの研究データがある。
「…これは…!」
見つけた。ついに見つけ出した。
アルダレオはもう『黒炎』を手に入れたも同然だ。
「素晴らしい…ジュリア、お前には最後まで付き合ってもらうぞ」
口元を歪めて、アルダレオはガラス管の前に再び立った。
今からすぐにでも娘を連れて、ウエラルドに行かなければ。
アルダレオがジュリアをガラス管から出そうとすると…
「『独壇場』」
研究室の壁が破壊され、業火の拳がアルダレオ目掛けて真っ直ぐに飛んできた。
この破壊力は間違いなく彼のものだ。
「ふ…ジュリアを取り戻しにきたのか?」
拳を交わし、アルダレオは破壊された壁の向こうを見た。
「こいつらがクソ親父ぶん殴りたいんだってさ」
「俺たちはその付き添いで、お前を殴りにきた」
狙撃銃を肩に担ぐディルセイと、槍をアルダレオに向けるグレイが言った。
「私の研究データを見ただろう。お前達は『黒雷』も『偽炎』も使うわけにはいかないのではないかね」
「あいにくこっちは何人も殺してんだ。お前さんが『黒炎』で行う人類選別の犠牲者を減らすために、何人かは死んでもらう」
その言葉に、アルダレオは驚愕した。
まさか世界を救いに来る正義感の強い者たちが、これほどまで非情だとは思いもしなかったからだ。
そして…
「父さん、トアペトラを敵に回したことを後悔することだ」
ライターの火をつけながら、ルフは怒りの感情を露わにして言った。
《キャラクター紹介》
○アルダレオ・ウィアン・マンセル
世界の支配構造を自らの手中に収めるべく、『黒炎』の力を追い求める科学者。
我が子全員に『偽炎』を植え付け、実験台としている。




