第十四話 ターニングポイント
「レーザーを、何本も出せるというのか…!」
「観念したまえ、君は私に勝てない」
セルヴィアの悠然とした態度に、ルフは歯軋りした。
その姿を見て、セルヴィアは満足げに頰を緩めた。
「君は昔から逸脱した才能を持っていた。なにせ優秀なこの私と同じ歳に卒業したのだからね」
セルヴィアとディルセイが16歳で高校を卒業したのに対し、ルフは15歳で卒業した。
しかしセルヴィアの学年で成績を比べて見れば、ルフは10位に入ることもなかったのだ。
「しかしいくら君が君の学年で優秀でも、私の学年で1位だったこの私に勝つことなど到底できないのさ」
「……」
実は、セルヴィアはルフを殺すつもりはない。
色々と理由が重なって、彼は生かしておかなければならないのだ。
(グレイという男と同じように、足を蒸発させて終わりにしよう)
もはや戦意喪失したように見えるルフを見てほくそ笑み、セルヴィアは足めがけてレーザーを放った。
そして彼の脳内では完全にルフの足に当たっている情景がシミュレーションできていた。
だから、何が起こったのか一瞬わからなかった。
「……レーザーを何本も出せるから、僕に勝てるとでも思ったのかい?」
ルフの足に当たるはずだったレーザーのエネルギーは、光の塊となってルフの掌で浮いていた。
「兄さんが炎属性である以上、僕に勝つことは出来ないというのに」
「…まさか…」
「ああ、僕はライターに限らず炎を操ることができる」
その驚異的な能力にセルヴィアは驚愕した。
炎を操る能力、それは炎属性の魔法でも剣技でも、無力化できるということだ。
ルフの言うように、相手が炎属性であれば無敵も同然。
「観念することだね、兄さんには聞きたいことが山ほどある」
そう言って、ルフは畝る炎を放った。
※
「『黒路』———ッッッ!!!」
ローダの攻撃に合わせて、ディルセイは剣技を放った。
『黒路』は物体に電流を流し込む。本来ならばローダを無力化できるはずだ。
だが———
「弱えッ!」
圧倒的な力の前に、ナイフはただ飛ばされるだけだった。
「ちぃ——」
懐からもう一本ナイフを取り出し、再びローダに迫る。
だが、ローダの動きはディルセイを大きく凌駕した。
「遅えッ!」
足にも炎を纏うローダは、常人の動きを超えている。
ウエラルドの剣士のような動きだ。
それも、戦意100%で有名なザパース・グレイクスと同じくらい速い。
「どうしたディルセイ!お前の攻撃はワンパンって聞いたぞ!」
「じゃあ近づいてくんな!撃てねえだろうが!」
そう言いつつディルセイが斬りかかると、ローダはディルセイの腕を掴んで投げ飛ばした。
ものすごい熱量がディルセイの腕を襲う。
「——っつ!」
真っ赤に腫れ上がった腕を押さえながらローダを睨みつけると、ローダは口の端を吊り上げた。
「撃ってみろよ」
「ッ!」
余裕ぶった態度に、ディルセイは驚愕した。
まさかこの男、銃弾を拳で止めようというのか。
だが先程の破壊力を見ればそんな予感がする。
「…いいぜその挑戦、受けてやるよ」
表情に緊張を走らせながら、ディルセイはゆっくり狙撃銃を取り出した。
そして中のパーツの整備を行い、『黒雷の弾丸』を放つためのとびきり太い弾を装填した。
これでいつでもディルセイの必殺技が放てる。
「さあ来い!」
両手を広げるローダに、ディルセイは銃口を向けた。
そして———駆け出した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「馬鹿が!」
無謀な突進を見て嘲笑し、ローダは構えをとった。
狙うは一瞬、それを外せばゲームオーバーだ。
それにディルセイは、まだ一度もこの技を使ったことがない。
「終わりだ!」
ローダが振りかぶる炎の拳は、真っ直ぐにディルセイへ向けられている。
その瞬間、ディルセイは叫んだ。
「『電磁砲』———ッッッ!!!」
バークに使った必殺技だ。
銃口と銃弾を強力な磁力で結びつけ、自分や相手を強制移動させる。
一つだけ違うのは、銃弾を手で投げたというところだろう。
「——ッ!?」
「『黒雷の弾丸』———ッッッ!!!」
磁力の力で瞬時にローダの背後に移動したディルセイは、銃口をローダに突きつけた。
基本武器で行う魔力攻撃は、『剣技』という扱いになる。
だから手で銃弾を投げても、投げナイフと同じ理論で剣技として成立する。
『電磁砲』を手で発動することができれば、『黒雷』による電磁狙撃銃のオーバーヒートを防ぐことができる。
そうすれば、このようにゼロ距離で『黒雷の弾丸』を放つことができるのだ。
「くたばれ———ッッッ!!!」
そう叫び、ディルセイは引き金を引いた。
※
「…それで」
訝しむような視線を向けながら、グレイはつぶやいた。
「なんで上層部に持っていかなかったんだ?」
「上層部のリーダーがアルダレオなんだとさ」
戦闘部本部にて、ソファに座らせた兄弟を見やりながらディルセイは呆れたように言った。
2人の情報によると、アルダレオは長女のジュリアとともに完全に姿を消した。
おかげで今の上層部のリーダーはいないそうだ。
そして…
「私たちは最初からあの父親になど賛同してないと言ったね。実は姉さんに関する研究データを以前発見してしまって、仕方なく私たちが代わりに手伝ってやったというわけだ」
すました顔で、セルヴィアはこんなことを言ったのだ。
ローダも渋々と言った感じでアルダレオに協力したのだろう。悔しげな感情が表情から見て取れる。
「姉貴はどうやら剣型強化の適合者らしくてな、親父が無理な実験でもするんじゃねえかって…」
「実際、これからするつもりなのだろう」
それを聞いて、ディルセイは硬直した。
キリア・エルセールの酷い状態を思い出したからだ。
姉も同然である彼女を、このまま見捨てるわけにはいかない。
「あいつは…アルダレオは『黒炎』の力を狙ってるんだったな」
「ああ、それに関する研究データも研究所に多く残されていたよ」
「じゃあ俺とローダで地上を調べてくるから、ルフ、セルヴィア、グレイの3人は研究所を任せた」
もし『黒炎』の力を狙っているのだとすれば、ウエラルド王国に身を隠している可能性が高い。
特に重要な役職についていないディルセイとローダが、一番トアペトラを離れるべきだろう。
二年間の旅は、こうして始まった。




