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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第十三話 刺客

「俺を逃そうって言うのか?」


 警戒の視線を向けながら問うアクトに、ヴァルタイユは頷いた。


 まただ、また訳のわからない行動。

 厄介だと言う理由でアクトにリオをけしかけたというのに、今度は見逃して帰ろうと言うのだ。


「まあいい、ヴァルタイユの能力については少しずつ解明していけばいいんだ」


 そう呟き、アクトは剣先をリオに向けた。


「顔と名前は覚えた、リオ。まずはお前を超えてみせる」


「無理だね」


 嘲笑するリオに、アクトは踵を返して去っていった。

 更なる高みへたどり着くために。



 ※



 バークの死体の前で、ディルセイは佇んでいた。

 殺し屋として活動していた時の、仕事仲間との記憶に思い馳せていたのだ。


 学校を卒業した直後父親によって家庭が崩壊し、居場所がなかったディルセイの心の支えとなってくれた仲間達。


 その輪の中には当然バークもいた。

 彼から教わった技術もたくさんあった。


 そんな恩人の死に様を見ると、幾度も死の瞬間に立ち会ってきたディルセイでも堪え難いものがあった。


「はは…いつまでもこうしてちゃあ駄目だよな」


 ディルセイにはやるべきことがある。

 ルフは二体一で頑張っているし、グレイも戦っている。


 まずは2人に加勢して、脱獄犯を仕留めなければ。


「あ?」


 ふと、背後に近づく人影に気づいた。


 背後と言っても200mは離れているが、狙撃手として働くうちに分かるようになった。

 誰もいない廃マンションの団地なら尚更だ。


「何もんだ!出てこい!」


 叫ぶディルセイの声に気づいたのか、近づく気配はその場に止まった。

 奇襲するつもりだったのだろうが、ディルセイにそんなものは通用しない。


 このままこちらから近づいて、とっ捕まえてやろうと考えた。

 だがディルセイの目の前のマンションに異常を感じ、慌てて飛び下がった。


「『独壇場(リング・オブ・マイン)』」


 そんな声とともに、団地内全ての廃マンションが溶け出した。

 やがて…


「…嘘だろ」


 溶け出したマンション全てが爆発し、周囲は完全な焼け野原と化した。


 こんな悍ましい術は見たことがない。

 300×300mの範囲を根こそぎ破壊し、完全なるさら地にする術など、風属性と土属性の混合でもなければ為せるはずがない。


 それをこの男は、()()()で成したのだ。

 明らかに異常な力に、ディルセイの緊張感が最大限に高まった。


「ディルセーイ、久しぶりじゃねえか」


「…ローダ」


 学生時代、圧倒的な暴力を誇った男がそこにいた。


「まさかあの殺し屋バークを殺っちまうとはな、少しビビった」


「そうかよ」


 昔と変わらず親しげに話しかけてくるローダに、ディルセイは敵意剥き出して返した。


 キリアが死んだのはアルダレオのせいだ。

 しかしそれに賛同するローダのことが許せない。


 前々から乱暴者ではあったが、いつから人の心の価値をわからない人間になったのだろう。


「小せえ子供ガキを廃人にまで追い込み、人の命を道具みてえに扱ったんだ。覚悟はできてんだろうな?」


「とっくの昔になあ!?」


 リーゼントを整え、ローダは口の端を吊り上げて突進してきた。



 ※



 博物館にたどり着いたルフは、真っ先に周囲の状況を確認した。

 曇天の下なので、客はほとんどいない。

 またはセルヴィアが裏で手を回したかだ。


 どちらにせよ、ここで戦闘を妨害するものなどない。

 ならばすでにグレイが交戦している可能性が高い。


 直後、冷静に素早くグレイを探し始めるルフの側面に、高エネルギー反応を察知した。


「まずい…!」


 慌てて飛び下がるルフが元いた場所は、巨大なレーザービームによって抉り取られていた。


 アルダレオから能力を授かったときに見た。

 この炎属性の巨大レーザービームの使い手は…


「随分久しいね、ルフ」


「…グレイはどうした」


「両足を蒸発させてやったら動けなくなってしまってね…私の秘書が回復魔法をかけてくれるそうだよ」


 服についた瓦礫の埃を叩きながら歩み寄るセルヴィアの姿に、ルフは身構えた。


 なんと隙だらけなのだろう。

 セルヴィアは構えというものをまるでとっていない。


 だがしかし、セルヴィアには近づけないと言うことをルフは知っていた。


 セルヴィアが操る炎のレーザーは、半径30mの距離全てを射程距離とし、あらゆる物質を蒸発させる。

 奴の間合いに入れば間違いなく殺されるだろう。


「兄さん、なぜ父さんの言うことを聞くんだい?間違っていることくらい分かるはずだ」


「ルフには関係ないよ、私は私の目的を遂行するだけだからね」


 話の通じなさそうな状況にルフが顔を顰めていると、セルヴィアは穏やかに微笑んだ。


「そういえばルフの能力は、ただライターの炎を操るだけだったね。果たしてその貧弱な炎がどこまで持つか楽しみだよ」


「じゃあ、期待に添えるよう頑張らないと…『ジャッジメントフレア』!」


 ライターを引き抜き、ルフは大蛇に似た畝る炎をけしかけた。

 30mを保っていれば、ビームが当たることもあるまい。


 それに対しルフの炎は、燃料さえあればどこまでも飛ばすことができる。

 しかしルフの炎はセルヴィアに比べて貧弱だ。

 互いにとって苦しい戦いとなるだろう。


(レーザーを誘発し、後隙に炎を差し込む…!)


 ただそれだけを意識し、ルフはセルヴィアの動きを観察していた。


 セルヴィアは口元に笑みを浮かべ、優雅に歩きながら近づいてくる。

 あの体制でとっさに正確な射撃は難しいだろう。


「今!」


「『爆砕砲』!」


 ルフが間合いに入ると同時に、セルヴィアのレーザーがルフの頬を掠めた。


 チャンスだ、今ならセルヴィアを拘束し、無力化できる。

 だが——


「『爆砕砲』」


 ——直後、ルフの右腕にレーザーが直撃した。


「——がッ!」


 蒸発した右腕を抑えながら、ルフは後退した。

 先ほどまで右腕があったはずの場所からは、血が大量に吹き出している。


「ルフ、がっかりさせるんじゃない」


 満足げに微笑み、セルヴィアは再びルフに歩み寄ってくる。


「まさかこの優秀な私が、レーザーを1つしか操れないはずがあるまい」

《キャラクター紹介》


○セルヴィア・ウィアン・マンセル

マンセル家の次男で、電力会社の社長。

炎の巨大レーザービームを使いこなす。


○ローダ・ウィアン・マンセル

マンセル家の長男で、暴力で裏社会を支配している。

強力な破壊力を持つ炎を拳に纏って戦う。

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