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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第十一話 黒雷の狙撃手

 ただひたすらに外区の田舎を駆ける。

 目にうつった黒いコートの男を追いかけて。


 バイクはすでに置いてきた。

 いついかなる時でも、狙撃銃を正確に構えられるよう準備しておかなくてはならないからだ。


 あの男バーク・イーグルに、怠った準備で挑めば殺される。

 常に最大の警戒をしておかなくてはならない。


「まだ逃げるのか…」


 そう言って、ディルセイは前方の街並みに目をやった。


 ここは廃マンションの団地。

 マンションの所々に穴が空いていて、どこからでも弾丸が通れそうな地帯だ。


 このままいけばまずい。

 何故ならバークは、ディルセイよりも優れた狙撃手だからだ。

 狙撃手に有利な地形で奴と戦えば、ディルセイといえど勝率はグッと下がる。


「って、何考えてやがる…」


 甘い自分の考えに、ディルセイは思わず苦笑した。


 狙撃手に有利な地形であるなら、ディルセイがバークよりも優れた狙撃を行えば勝てる。

 単純にバークの実力を上回ればいいだけの話。


 どちらにしろディルセイが優れているのは狙撃能力しかない。

 ならばその武器を最大限に活かすべきだ。


「残念なことに着いてしまったな、ディルセイ」


「ああ」


 団地に着くなり、バークは振り返って笑ってみせた。

 相変わらず汚い歯だ。


「思い出すね、俺とお前が前に戦ったのもこんな場所だった」


「馬鹿言え、廃工場地帯だよ」


「廃ってついてんだから変わらんよ」


 その言葉に、ディルセイは笑った。


 バークの口ぶりは相変わらずだ。あの時ディルセイを雇っていた時と同じ。


 やがて2人とも静かになり、互いを見つめた。

 そして手に持っている狙撃銃をゆっくり肩に担ぎ、反対方向へと駆け出した。


 まずは上を取らなければならない。

 どちらが早くマンションの頂上に登れるか、ここが第一の勝負どころだ。


「ちっ、階段が塞がってやがる…」


 また別のマンションを探さなければならない。

 流石にこの瓦礫を崩すのは不可能だ。


 しかしマンションとマンションの間を駆け抜けようとするディルセイの目の前に、弾丸が飛来した。


「馬鹿な…もう上がったのか!」


 弾丸が飛来した方向を見てみると、確かにマンションの頂上にいた。

 新たに手に入れた力だろうか。


 しかし弾道が僅かにずれた。

 狙撃銃の整備が不十分だったのかもしれない。


 そしてバークの狙撃銃の装填には10秒かかる。

 今のうちにマンションを駆け抜けられるはずだ。


「第一関門突破…!」


 ディルセイはスライディングでマンションの影に入り込むと、階段へと向かった。

 このマンションの階段は問題なかったので、順調に上がることができた。

 しかし早く上に上がらなければ、窓の隙間から奴の弾丸が来る。


 やがてディルセイはマンションの頂上に上がることに成功し、貯水タンクに隠れてバークを探した。


「…!いねえだと…!?」


 先ほどまでバークがいたマンションの屋上には、人の影すら見当たらない。

 一体どこへ消えたのだろうか。


 まさか———


「『雷域・変則の型』!」


 慌ててナイフで剣域を展開するディルセイの目の前に、バークの弾丸が飛来した。

 間違いなく、ディルセイの背後からきた弾丸だ。


 この剣域は、過去にバークに敗れた屈辱で習得した技だ。

 飛び道具の軌道を僅かにずらすことができる。

 しかしディルセイは剣士ではないので、動きながら剣域を展開することはできない。


 空を駆け、建物を蹴って別の建物に飛ぶバークを睨みつけて、ディルセイはうめいた。


「それがお前さんの能力かよ…!」


「これがなかなか便利」


 再び歯を見せて笑うと、バークはまた姿を消した。


 バークは雷の魔力を纏っていた。

 おそらく電気を操り、磁力を使って飛び回っているのだろう。


 これはまずいことになった。

 奴が建物ではなくどこでも飛び回って狙撃ができるのだとすれば、十秒ごとに確実にディルセイへ弾丸が飛んでくる。

 そうなれば、ずっと剣域で凌ぐしか方法はない。


 なんとか打開策を考えようとするディルセイの元へ、再び弾丸が飛来した。

 集中して剣域を展開するが、やはり消耗が激しい。


「こんなこといつまでも続けてたら俺の集中力切れるぞ…」


 そう呟き、ディルセイはバークを観察した。


 建物から建物へ、その異動に違和感があった。

 自由に飛べていない。

 バークは確かに飛べているが、自由に飛べていない。


 建物から建物へ、直線を沿うように飛んでいるのだ。


(あらかじめルートを配置しておく必要があるんなら…)


 すぐさまディルセイは行動に移した。


 まずは建物の中に入り、電磁狙撃銃ボルテージライフルを分解する。

 一見『黒雷の弾丸』を打つための配置に見えるが、少しだけ違った。

 オーバーヒートを抑えられる、それでいてバークのような電磁波を放てる構造だ。


 そして、ケースの中からとびきり細い弾丸を選んだ。

 これを使えば、バークに対抗できるはず。


「来いよ!」


 屋上へ飛び出し、両手を広げて剣域を展開するディルセイに、弾丸が飛来した。

 それは問題なく剣域が…


「がっ…」


 防ぐことはできず、ディルセイの右肩に直撃した。


 ディルセイは確かに剣域を起動した。

 であれば考えられる可能性は一つ。


「この僅かな時間で、ずらされた軌道を把握した…!?」


 あり得ない、あり得ないが、バーク・イーグルならやってのける。

 この男の殺し屋としての腕前は昔から驚かされることばかりなのだ。


(関係ねえッ!)


 今ここで作戦を実行しなければ、また弾が来る。

 次こそは弾丸のずらしを完璧に把握してくるだろう。


 そうなる前に、この弾を放つのだ。


「『電磁砲リストライン』———!」


『黒雷』を纏う弾丸は、真っ直ぐにバークのルートと交わるような線を描いた。

 そしてそのゾーンに、バークは飛んでくる。


「!?」


 ディルセイの作り出した電磁場は、『黒雷』の力を持っている。

 ただの雷属性であるバークの力を上回るのは当然だ。


 そしてバークがなす術もなく飛んでいるのなら、ディルセイの弾に当たるしか無い。


「終わりだ」


 そう呟き、ディルセイはバークを狙撃した。



 ※



 マンションの壁を背にして座り込むバークの前に、ディルセイはゆっくり歩いて行った。


 バークの胸には赤い血が滲み出ている。

 即死させまいと、ディルセイが胸部を狙ったからだ。


「…なんで頭を狙わなかった…頭を狙えと教えたじゃないか…」


「聞きたかったんだよ。なんで殺人欲求もねえお前さんが脱獄なんてしたのか」


 ディルセイの答えに、バークはふっと口元を緩めた。


「単純な話…もう一度お前とやり合いたかったのさ…。教え子がどれだけ成長したのかは…見たくなるのも当然だよ」


 そう言って、バークは空を見上げた。


「ディルセイ…お前が依頼人としてうちに来た時…憎悪に染まっていたな…」


「ああ、親父が母さんを殺しやがった時だな」


 思い出したくもない記憶だ。

 当時あの父親に対する憎悪は計り知れなかった。


「…俺が受けてた依頼はな…復讐だけだったんだ」


「…どういうことだ」


「お前のように…復讐に染まった者はたくさんいる…。そいつらはな…可哀想な奴らなんだ…。だから代わりに俺が復讐して…そいつらに明るい未来を提供してやってたんだが…」


 気づけば、バークは涙を流していた。


「…誰も…ロクな道歩んでねえんだ…」


 そう言って、バークは首をたれた。

 彼の命が消えた瞬間だった。

《キャラクター紹介》


○バーク・イーグル

殺し屋の依頼を管理していた人物。マンセル家の手助けで脱獄した。

教え子であるディルセイによって狙撃され死亡。

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