第十話 最悪の事態
「あたし、まだ分からねえよ…」
暗い路地で、金髪の女がとある人物に話しかけていた。
女は髪を全て後ろで結び、ポニーテールにしている。
目は山吹色で、どこか寂しげだった。
「本当にお前たちに付くのが正しいのかまだ分からない」
「問題ない、ゆっくり決めるといいさ」
目の前の男は嗤い、彼女の肩をポンと叩いた。
「何年かけても構わない。僕たちはいつでも君を幹部として歓迎するよ」
※
とにかく懐へ潜り込まなければ、ルフの一撃は絶対に届かない。
対してディルセイは、優れた遠距離技を持っている。
消耗しているのはルフだけで、ディルセイは余裕の笑みを浮かべて言った。
「卑怯だなんて言うなよ、これが戦法なんだから」
「ち…」
かるく舌打ちして、ルフは宙に飛んだ。
ディルセイの技はルフを掠め、ルフにもチャンスが回ってきた。
「次は僕の番だ!」
ルフが攻撃を繰り出そうとしたその時、ディルセイの近距離技が完璧なタイミングで炸裂した。
「ま、まだ———……くっ」
「俺の勝ち、ほないただきまーす」
テレビ画面の前で崩れ落ちるルフの傍で、ディルセイはジャラジャラと音を立てて机上の金を取った。
ここ数日事件がなかったので、2人はだいぶ暇していた。
そこで賭けをする事になったのだ。
今はテレビゲームで賭けをしているが、たまにカジノに行ったりもしている。
「やはりゲームでは勝てない…僕は君にポーカーを申し込むよ」
「やだね、お前さんやたら心理戦強えし」
ギャンブル対決によって判明した事だが、どうやら『審判』の真実を見抜く能力はポーカーなどでは使えないらしい。
確かに、嘘や相手を欺く戦法が存在するが、基本は運だ。
相手がわざわざ「俺ワンペア!」とでも言わない限り、相手の手札は分からない。
だがルフは能力の恩恵もあってか、人の考えを読む事の経験値が異常に多い。
だからギャンブルでは能力でなく、心理戦が強いのだ。
「とにかく、お前さんは大人しく俺から金を搾取されるしか…」
《聞こえるか?》
ディルセイがドヤ顔でルフに指を突きつけていると、気怠げな声が聞こえてきた。
上層部の男だ。名前は知らない。
「その声を聞くのは久しぶりだな、おい」
《最悪の事態、4人脱獄した》
その言葉を聞いて、ディルセイとルフは2人とも固まった。
脱獄犯が4人出た。その事実は戦闘部にとってかなり痛いものだ。
3人しかいない中、どうやって4人を相手取る事ができるだろうか。
「そいつらの居場所はわかってるのかよ」
《2人が最北端の電波塔で捜査部が相手してる。1人が博物館で大人しくしてる。そして最後の1人は調査中だ》
「分かった、それじゃあ僕は電波塔に向かう。グレイには博物館に行ってもらって、君は残りの1人を探して殺し、僕の元へ加勢しにきてくれ」
「随分忙しい仕事だな」
「2人相手取る方がいいかい?」
ルフの質問に、ディルセイは苦い顔をした。
「決まりだね」
ルフは爽やかに笑うと、本部を後にした。
ディルセイも早いところ犯人を見つけなければ。
「そういえば、行方不明の犯人の名前はなんて言うんだ?」
《ああ、多分聞いたことあるはずだ。ここ最近話題になったからな》
上層部の男が資料をペラペラを捲る音が聞こえ、やがてその名前を口にした。
《バーク・イーグルだ》
※
トアペトラの電波塔は、東西南北と中心に一本ずつ建っている。
建物は南側に集中しているため、北の塔は一番影響が少ない。
一体何故わざわざ北の塔を選んだのか。
それは聞くまでもないだろう。
戦闘データの採取、それがアルダレオの目的だからだ。
電波塔を制圧したいわけでもなく、トアペトラの電波状況を崩したいわけでもない。
そして脱獄犯はそれを承知してしまう。何故なら、わざわざ人を殺したがっている者を選別しているから。
「なあロック、あいつの言うことなんて聞く必要あると思うか?」
イーザルに似た黒髪の青年、アーザルは眉を顰めて言った。
「俺ら人殺したくて外出てきたのにさ、1人しか相手しちゃいけないなんておかしいじゃねえか」
「お前と一緒にするな、俺は強者と戦いたいだけだ。大量殺人など求めていない」
ロックと呼ばれた大柄の男は、鼻を鳴らして言った。
そして腕を組んで遥か遠くを見据えた。
「俺の力はローダさんに似せて作られた。この力にどこまで耐えられるかが楽しみだ」
「——へえ、それは楽しみだ」
背後から声が聞こえ、ロックは慌てて振り返ろうとした。
しかし振り返るよりも早く、ロックの首は消し飛んでいた。
「こいつが戦闘部かっ!?」
アーザルは顔を硬らせて飛び下がり、光の速度で逃亡した。
冗談ではない、ロックを一発で仕留目られる相手に勝てるはずがない。
このまま逃げて仲間と合流しなければ。
だが…
「逃げるなよ、絶望を味わわせてくれ」
一瞬桃色の髪が映ったかと思うと、直後視界が暗転した。




