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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第十話 最悪の事態

「あたし、まだ分からねえよ…」


 暗い路地で、金髪の女がとある人物に話しかけていた。


 女は髪を全て後ろで結び、ポニーテールにしている。

 目は山吹色で、どこか寂しげだった。


「本当にお前たちに付くのが正しいのかまだ分からない」


「問題ない、ゆっくり決めるといいさ」


 目の前の男は嗤い、彼女の肩をポンと叩いた。


「何年かけても構わない。僕たちはいつでも君を幹部として歓迎するよ」



 ※



 とにかく懐へ潜り込まなければ、ルフの一撃は絶対に届かない。

 対してディルセイは、優れた遠距離技を持っている。


 消耗しているのはルフだけで、ディルセイは余裕の笑みを浮かべて言った。


「卑怯だなんて言うなよ、これが戦法なんだから」


「ち…」


 かるく舌打ちして、ルフは宙に飛んだ。

 ディルセイの技はルフを掠め、ルフにもチャンスが回ってきた。


「次は僕の番だ!」


 ルフが攻撃を繰り出そうとしたその時、ディルセイの近距離技が完璧なタイミングで炸裂した。


「ま、まだ———……くっ」


「俺の勝ち、ほないただきまーす」


 テレビ画面の前で崩れ落ちるルフの傍で、ディルセイはジャラジャラと音を立てて机上の金を取った。


 ここ数日事件がなかったので、2人はだいぶ暇していた。

 そこで賭けをする事になったのだ。

 今はテレビゲームで賭けをしているが、たまにカジノに行ったりもしている。


「やはりゲームでは勝てない…僕は君にポーカーを申し込むよ」


「やだね、お前さんやたら心理戦強えし」


 ギャンブル対決によって判明した事だが、どうやら『審判』の真実を見抜く能力はポーカーなどでは使えないらしい。

 確かに、嘘や相手を欺く戦法が存在するが、基本は運だ。

 相手がわざわざ「俺ワンペア!」とでも言わない限り、相手の手札は分からない。


 だがルフは能力の恩恵もあってか、人の考えを読む事の経験値が異常に多い。

 だからギャンブルでは能力でなく、心理戦が強いのだ。


「とにかく、お前さんは大人しく俺から金を搾取されるしか…」


 《聞こえるか?》


 ディルセイがドヤ顔でルフに指を突きつけていると、気怠げな声が聞こえてきた。

 上層部の男だ。名前は知らない。


「その声を聞くのは久しぶりだな、おい」


 《最悪の事態、4人脱獄した》


 その言葉を聞いて、ディルセイとルフは2人とも固まった。


 脱獄犯が4人出た。その事実は戦闘部にとってかなり痛いものだ。

 3人しかいない中、どうやって4人を相手取る事ができるだろうか。


「そいつらの居場所はわかってるのかよ」


 《2人が最北端の電波塔で捜査部が相手してる。1人が博物館で大人しくしてる。そして最後の1人は調査中だ》


「分かった、それじゃあ僕は電波塔に向かう。グレイには博物館に行ってもらって、君は残りの1人を探して殺し、僕の元へ加勢しにきてくれ」


「随分忙しい仕事だな」


「2人相手取る方がいいかい?」


 ルフの質問に、ディルセイは苦い顔をした。


「決まりだね」


 ルフは爽やかに笑うと、本部を後にした。

 ディルセイも早いところ犯人を見つけなければ。


「そういえば、行方不明の犯人の名前はなんて言うんだ?」


 《ああ、多分聞いたことあるはずだ。ここ最近話題になったからな》


 上層部の男が資料をペラペラをめくる音が聞こえ、やがてその名前を口にした。


 《バーク・イーグルだ》



 ※



 トアペトラの電波塔は、東西南北と中心に一本ずつ建っている。

 建物は南側に集中しているため、北の塔は一番影響が少ない。


 一体何故わざわざ北の塔を選んだのか。

 それは聞くまでもないだろう。


 戦闘データの採取、それがアルダレオの目的だからだ。


 電波塔を制圧したいわけでもなく、トアペトラの電波状況を崩したいわけでもない。

 そして脱獄犯はそれを承知してしまう。何故なら、わざわざ人を殺したがっている者を選別しているから。


「なあロック、あいつの言うことなんて聞く必要あると思うか?」


 イーザルに似た黒髪の青年、アーザルは眉を顰めて言った。


「俺ら人殺したくて外出てきたのにさ、1人しか相手しちゃいけないなんておかしいじゃねえか」


「お前と一緒にするな、俺は強者と戦いたいだけだ。大量殺人など求めていない」


 ロックと呼ばれた大柄の男は、鼻を鳴らして言った。

 そして腕を組んで遥か遠くを見据えた。


「俺の力はローダさんに似せて作られた。この力にどこまで耐えられるかが楽しみだ」


「——へえ、それは楽しみだ」


 背後から声が聞こえ、ロックは慌てて振り返ろうとした。

 しかし振り返るよりも早く、ロックの首は消し飛んでいた。


「こいつが戦闘部かっ!?」


 アーザルは顔を硬らせて飛び下がり、光の速度で逃亡した。


 冗談ではない、ロックを一発で仕留目られる相手に勝てるはずがない。

 このまま逃げて仲間と合流しなければ。


 だが…


「逃げるなよ、()()()()()()()()()()


 一瞬桃色の髪が映ったかと思うと、直後視界が暗転した。

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