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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第九話 判決

「避難完了」


 ルフは通信機を起動してみるが、2人からの返事はない。

 まだ戦闘中なのだろう、加勢しに行かねば。


 戦力的に、グレイは近接戦闘も慣れている。

 だが数年間狙撃だけを鍛えてきたディルセイに、脱獄犯が倒せるとは思えない。

 加勢するとすればディルセイの方だろう。


「さて、そろそろ行くかな」


 避難所から出て、ルフは再び新幹線へ向かった。

 そしてその通り道、路地裏へと曲がる通路に人影が見えた。


「…!」


 慌ててその人影を追って路地裏に入るが、すでにその人物の姿はなかった。

 完全に見失ってしまったのだ。


 その人影に、ルフは見覚えがあった。


「姉さん…」


 チラリと見えたその姿は、ジュリア・ウィアン・マンセルに違いなかった。



 ※



「空気を全て凍らせることができるとはな」


 ディルセイの弾丸を弾き飛ばしたアンリエに、グレイは苦笑した。

 この女、その気になれば世界中を凍らせることもできるというわけだ。


「まあ、時間がかかるのが欠点ね〜。それさえなければアタシは最強なんだけど」


「随分と余裕だな」


「え?だってアタシの勝利は確実じゃない。アナタは足が凍って動けない。でもアタシはゆっくりアナタを凍らせる事ができる」


 あまりにも馬鹿馬鹿しい。

 グレイは目の前の敵が急に弱く思えてきた。


「忘れたのか?俺は土を自在に操れる。お前が呑気に俺を凍らせている間、お前の体はどうなっているだろうな」


 直後、外にいる『古代龍エンシェント・ドラゴン』が暴れ出し、骨という骨が新幹線を串刺しにした。

 何度も何度も、同じ場所を。


 火力の高い土属性攻撃に、氷の防御は通じない。

 アンリエは血反吐を大量に撒き散らしながら、白目を剥いて痙攣していた。


 やがてピクリとも動かなくなった。絶命だ。


「口ほどにもない」


 ゴミを見るような目でアンリエを見下ろし、やがてグレイは新幹線から降りて行った。



 ※



「『黒路』———ッッッ!!!」


 ナイフの先端から黒い雷を放ち、キラの感電を試みた。

 水は電気を通すからだ。


 しかし通用しなかった。おそらく体の構造を変え、どこかで電気を放出しているのだろう。


 キラの攻撃は緩むことなく、むしろ加速し続けている。

 水属性の特性は『状況適応』だ。だんだんディルセイの動きに慣れてきたのだろう。


 キラの攻撃を交わしながら、ディルセイは客席を流し見た。

 全ての人が口から水を垂らし、虚な瞳で一点を見つめている。


 溺死だ。突如としてキラに水を流し込まれたのだろう。


「お前さん…なかなかエグいことしやがるじゃねえか」


「でも…あなたも“ころしや“なんでしょ?」


「ああ、人の殺し方なんてよく知ってるつもりだったんだが、お前さんはどうにもしぶとくてな」


 そう言いながらも、ディルセイはさまざまな方法を試してみた。

 感電、電気分解、高威力の剣技などだ。


 しかしいずれもキラには効かず、彼女の技は加速し続けるばかりだ。


「——ッ!ごほっ!」


 一瞬大量の水が口に入りかけたが、なんとか身を翻して追撃を交わし、口の中に入った水を吐き出した。


 このままではまずい。キラの攻撃はすでにディルセイの口に届くレベルまで成長した。

 早くトドメを刺さなければこちらがやられてしまう。


「ころす」


 キラがそう呟いた瞬間…


「可愛いらしい少女だ。君の名前を教えてくれるかい?」


 呑気な、しかしそれでいて穏やかで優しい声が響き渡った。

 見ればディルセイの背後の車両から、ルフが歩いてきていた。


「お前さん、今どんな状況だか分かって…」


「君の名前を教えてくれ」


 ディルセイの声には耳を貸さず、ルフはキラに歩み寄った。


「さあ」


「…?わたしはきら」


「お父さんとお母さんは?」


「おとうさんはあるだれお、おかあさんはしんじゃった」


 その言葉に、ルフは眉を顰めた。


 これはチャンスだ。もしルフがこのまま気を引いていてくれれば、ディルセイの弾が当たるかもしれない。

 念のため電磁狙撃銃を出しておこう。


「何故ここに来たんだい?」


「ひとをころしたかったから。なんでこんなことをきくの?」


「質問しているのは僕だよ。それに君のことはよく分かった」


 正面で止まる水の塊に、ルフはまるで小さな子どもに話しかけるようにしゃがみ込んで言った。


「キリア・エルセール、10歳、型無。父と母を殺され、アルダレオによって偽の剣型を埋め込まれる。強制的に記憶を消去するために無理な拷問を繰り返され、廃人と化す」


「…なにいってるの?」


「そのまま拷問の痛みを忘れられずに、他者に一度同じことをしてみた。そして最後には殺した。それが精神を壊した君にとっての唯一の快楽だった」


「や…やめて…」


「やがて殺人罪で捕まり、牢獄で過ごしているうちにローダと会う。快楽を得るために、君はアルダレオの元で剣型を放出する力を手に入れ、再び殺人を犯すために新幹線へとやって来た」


「…あ…っ、くぅ…」


 ルフの話を聞いているうちに、キラは頭を抱えてうずくまり出した。

 そして気づいた時には、人間の姿になっていた。


 茶髪の少女だった。

 体のほとんどの部位は適当な手術で塞いだような傷跡があり、顔の右半分はもはや人の顔ではなかった。

 何度も理不尽な拷問を繰り返された痕なのだろう。


「質問に答えられてえらいが、何個か情報に間違いがあったね。嘘はよくないよ」


「…ごめんなさい」


「いい子だ、本当はなにも悪くないのにね。こんな姿になってしまって可哀想に」


「…ぅ…っ」


 ルフが優しく言葉をかけてやると、キリアは小さく嗚咽を漏らして泣き始めた。


 そんな少女の姿を見て、流石のディルセイも胸が痛んだ。

 どうやってルフはあんなことを知ったのかは分からないが、彼女の境遇を考えると殺すのは可哀想だ。


「判決を下す。キリア、君は無罪だ」


 そう言って、ルフはディルセイの方を見た。


「せめて苦しまずに、一瞬で殺してやってくれ」


「…いいのかよ」


「ああ、キリアが生きていると、この子に殺された者の家族や、この子自身も辛いだろうからね。それに…」


 何かを言いかけるルフの目の前で、キリアは額から大量の血を流して倒れた。

 ディルセイの放った弾丸によって即死したのだ。


「彼女には無罪判決を下した。彼女の魂はちゃんと浄化されるさ」


「なあ、さっきからお前さん何言ってんだ?キラの情報だって…」


 困惑するディルセイに、ルフは説明した。


 異能『審判』の能力の内、ルフが使いこなせているのは二つ。

 一つ目は、真実を見破ること。相手から情報を受け取った際、それが嘘か本当かを見分けることができる。

 二つ目は、魂に判決を下すこと。無罪であれば、その魂を無念無くあの世へ送ることができる。


「あのように可哀想な少女のための、せめてもの救済さ」


 爽やかな口ぶりだが、ルフは拳を堅く握りしめていた。

 おそらくディルセイと同じ気持ちなのだろう。


 幼い少女をこんな目にあわせたアルダレオが許せない、そんな気持ちなのだろう。

《キャラクター紹介》


○ルフ・ウィアン・マンセル

戦闘部に所属する、マンセル家の三男。

クールな性格を気取っているが、トアペトラを愛している。

『審判』の異能を持つ。


○キリア・エルセール

キラの本名。アルダレオによる拷問と実験の繰り返しで廃人となった。

最後はルフによって魂を浄化され、ディルセイによって殺された。

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