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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第八話 脱獄列車

「力こそ全て、だ」


 豪華なコートに身を包む男——アルダレオは口元を歪めた。


 金髪を長く伸ばし、前髪は目を隠すほどまでに長い。

 髭の手入れはしておらず、生え散らかしたものを適当に剃った感じである。


 セルヴィアによってトアペトラの電力は全て掌握された。政府も完全に息子を信頼している。

 ローダによって支配されたヤクザは、完全にアルダレオの手足となっている。強い暴力はローダだけで十分だ。

 そして上層部や捜査部、戦闘部はアルダレオの思うがままに動く。

 この事実が愉快でたまらない。


 ここは、上層部本部の署長室。アルダレオ・ウィアン・マンセルは上層部の最高司令官だったのだ。


「イーザルの研究データは問題なく収集できたようだな」


「はい、ローダが問題なく回収しました」


「良い結果だ。今後も期待しているぞセルヴィア」


「お任せください、仮にルフが父さんの存在に気づいたとしても、私が始末しますよ」


 セルヴィアの返事に、アルダレオは満足げに頷いた。


「それは嬉しいが、万が一の事もある。なるべく脱獄犯達に殺してほしいものだな」


「私は2人を逃したりしません」


「ああ、だからお前は切り札だ。可能な限り研究データを集めた後に、な」


 そういって、アルダレオはセルヴィアを退出させた。



 ※



「えーと、また脱獄犯が出たってのは聞き間違いじゃねえよな?」


「ああ、新幹線で出たようだ」


 新幹線、その言葉を聞いてディルセイは顔を顰めた。


 新幹線はお馴染みの超高速交通機関だ。

 1000人もの人を一気に運ぶ事ができる上に、トアペトラ最大の移動速度を誇る。


 そこで脱獄犯が出たということは、1000人の命が危険にさらされているということだ。

 一刻も早くそこに向かわなければ、多数の死者が出る。


「すでにグレイが向かっているが、僕たちはどうする?」


「馬鹿野郎、行くべきだろ」


「違う、どちらが行くべきかという話だ。2人で行ったら他に事件が起きた場合迅速に対応することが出来なくなる」


 そう言われて、ディルセイは口をつぐんだ。

 ここ最近ルフと2人で事件を解決していたため、基本は1人でというルールを完全に忘れていたのだ。


 ディルセイが「俺が残る」と言いかけたその時だった。


 《聞こえるか、敵はどうやら2人のようだ》


「な…」


 グレイの声だ。おそらく新幹線に乗り込めたのだろう。


 敵は2人と言っていた。果たしてこちらも2人で勝てるだろうか。

 敵側も戦力を集中しているはず、ここは3人で協力して戦うべき盤面だ。


「聞こえたろ、行くぞ」


「ああ」


 2人は早速バイクに跨り、ヘルメットをかぶって出発した。

 新幹線に追いつけるはずもないので、少し遠回りすることになるが。



 ※



「ハッカーか…?新幹線が止まらない」


 客席に身を隠しながら、グレイは敵の様子を伺っていた。


 ターゲットは2人、1人は黒いライダースーツの女、そしてもう1人は姿が見えていない。先ほどから声が聞こえるばかりだ。


 出来ればルフ達の到着を待ちたいところだが、グレイが来たときはもうすでに半数以上が殺されていた。

 次の車両に移る前に、どうにか注意を引かなければ。


「そのために俺の剣型がある」


 グレイはつぶやくと、手に握っていた2mほどの槍を新幹線の床に突き刺した。



 ガガガガガ———ッッッ



 凄まじい音を立てて、新幹線が大きく揺れた。

 グレイが突き刺した槍が、地面にまで到達していたからだ。


 流石の脱獄犯たちも慌てたらしく、ライダースーツの女が外の様子を確認した。


「『古代龍エンシェント・ドラゴン』」


 直後、新幹線の窓ガラスを割って()()()のようなものがライダースーツの脱獄犯に突き刺さった。


 グレイの剣型は『土流』、主属性は土、副属性は水。攻撃力の高い土を、水属性によって変幻自在に操ることができるというもの。

 今使った『古代龍エンシェント・ドラゴン』は、土をさも骨のドラゴンのように形を変えた技だ。

 脱獄犯に刺さったのはおそらく肋骨だろう。


「残るは後1人か」


 案外呆気なかった。

 これならルフ達も必要ないかもしれない。


 だが、そう簡単には行かせてくれないようだった。


「アタシ、そう簡単には死なないわよ」


「ッ!」


 激痛を感じ、グレイはその場から飛び下がった。

 見ればグレイの足首が凍っている。


「お前…」


「うふふ、驚いたかしら?このアンリエの能力は()()()()()()()()()()()()()能力なのよ」


 なるほど、それは厄介な能力だ。

 物体を凍らせるなど、魔法でも使えるのは数人くらいだろう。


「アタシが触れればどんな物でも凍らせられる。ゆっくりだけどね」


「随分とよく喋るな。もう1人が逃げるための時間稼ぎか?」


 グレイが冷や汗をかきながら放った言葉に、アンリエは眉を顰めた。


「あら、気づいていたのね。そうよ、あの子が残った乗客を皆殺しにしてくれるわ」


「あれだけ喋っていれば気づくさ。それに皆殺しは叶わない」


「…なんですって?」


「俺の仲間が来たからだ」


 直後、弾丸がアンリエの頬を掠めた。



 ※



「乗客の避難を頼む!」


 グレイの剣技によって完全に止まった新幹線の乗客の面倒はルフに預けることにした。

 まずはあの氷の女をやらなければ。


 それにしても、弾丸が当たらないというのは意外だった。

 あれは間違いなく何かによって弾かれたのだろう。


「空気中の水蒸気も凍らせられるのか。やるじゃねえか」


「ディルセイ!ここは俺だけで大丈夫だ!もう1人を探せ!」


「もう1人って、見失ったのか!」


「ああ、任せたぞ!」


 3車両ほど跨いで大声で会話する2人に苛立ちを覚えたのか、痺れを切らしてライダースーツの女がグレイに襲いかかっているのが見えた。

 ディルセイは早くもう1人を探す必要がある。でなければせっかく避難した乗客が危ない。


「出てこいや、俺は近接でも強えぞ!おわっ!?」


 ナイフを取り出してそう叫ぶディルセイの後ろから、大量の水が流れ込んできた。

 それらをナイフで切り刻み、全て受け流すことに成功した。


 だが、肝心な相手の姿が見えない。


 いや、見えている。しかしそれは人の形をしていなかった。


「きら、もっところしたい」


 荒れ狂う水流が、目の前で渦巻いていた。

《キャラクター紹介》


○アンリエ

氷の力を操る脱獄犯。物を凍らせることが得意。

黒いライダースーツを着用している。


○キラ

水の力を操る脱獄犯。体を水流に変えることができる。

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