第七話 支配構造
「グレイはまだゲーセンにいるのか?」
「ああ、彼はわざわざ都市から離れたゲーセンに通っていてね、なかなか仕事が来ないんだ」
「それはサボってるだけじゃねえのか…」
戦闘部の拠点に帰ってきたディルセイとルフは、コーラとコーヒーを飲みながらソファでくつろいでいた。
もちろん、イーザルとの戦闘で疲れているからだ。
しかしいつまでもこうしているわけにはいかない。
先程ルフに「詳しくは帰ってからだ」と言われてしまったので、早くそれを聞かなければ。
「アルダレオ・ウィアン・マンセルって、お前さんの親父だよな」
「ああ、君も何回か会った事があるだろう」
ルフの言う通り、ディルセイはアルダレオに3回ほど会っている。
会ってはいるのだが、話したことはほとんどなかった。
ルフの家に泊まることが何度かあり、たまに廊下ですれ違った程度だ。
恐らく自室で何か研究をしていたのだろう。
「まずは僕が卒業して一ヶ月後の話をしようか。唐突に父さんが僕たち兄弟を研究室に呼んだんだ」
「やっぱり何かの研究をしていたんだな」
「ああ、そこで僕たちは強引な手術を受けた。剣型を引き出す手術をね」
剣型を引き出すとはどう言うことだろう。
自分の剣型を強化するとかそんな感じだろうか。
いや、違う。恐らくあれだろう。
「剣型の魔力を、武器を通さずに放てるようになる…とか?」
「その通り、それもまるで魔法のように」
なるほど、ルフやイーザルが使っていた力はその手術によるものだったらしい。
その技術が進歩すれば、誰でも魔法のような事ができるようになる。
しかし、なぜイーザルがその力を持っていたのだろう。
アルダレオの実験の被験者となったのだろうか。
「さっき強引な手術って言ったよな。何を躊躇う必要があったんだよ」
「答えは簡単、父さんが抱く野望に反感していたからさ」
「野望ってのは?」
「トアペトラを支配する。簡単な事だろう?」
まるで映画や小説の中に出てくる悪役のようだが、実際この世には「全部俺の思い通りになったらいいのに!」なんて思っている人がたくさんいる。
多くの人が一回くらいは見た事があるだろう。
アルダレオは恐らく、そうした考えが積もりに積もって、とうとう実行に移してしまったという感じだ。
実行に移せるほどの力があれば、誰だってそうする。
「で、その手術と親父さんの野望、なんの関係があるってんだ?」
「僕たち姉弟に能力を授け、協力してくれたらいい暮らしをさせてやると言ったのさ」
まるで世界の半分をお前にやろうとでも言わんばかりの発言に、ディルセイは苦笑した。
だが直後、嫌な予感がした。
「おい…もしかして」
「恐らく君の予感は的中している」
ルフに先に言われ、ディルセイは唖然とした。
「兄さん達2人は話に乗ってしまったよ。姉さんは別だけどね」
※
電話を終え、金髪の青年は言った。
「残念ながら、父さんは会ってくれないらしい」
「…ふん」
残念そうに聞こえるが、口元に笑みを浮かべている青年に対し、エルドは顔を顰めた。
最初から合わせるつもりはないのだろう。エルドは厄介者なのだから。
「悪いけど、物騒なことを考えるのはやめてほしいな。私の社員は勇気はないものの、優秀な人材が多いんだ」
「仮にここの職員を俺が人質を取ったとして、お前達に俺を罪に問う権利はない。ウエラルド人を殺したトアペトラの人間の罪を揉み消したことは知っているからな」
「だとしても、ここはトアペトラだ。ウエラルド人がどうなろうが知ったことではない」
「ふん、今すぐその口を黙らせることもできるんだぞ?」
「…やれやれ」
武力で脅すエルドに、青年は肩をすくめた。
そんなことをしても、アルダレオには会えないと分かっているだろうに。
「ではせめて、なぜ俺の父親を死に追いやるようなことをしたか聞かせてくれないか」
「急に下手に出るね。いいだろう、流石に剣聖様をこのまま返すのは私のサービス精神が許してくれない。その程度の情報なら教えてあげよう」
早速青年は秘書を呼び、エルドの椅子を用意させた。
そして秘書を退出させると、指を組んでデスクに肘をつけた。
「父さんはトアペトラの支配を望んだ。それには強い力が必要だ。私たちが生まれる前、父さんは君の父親、若き日のデルフを誘拐した。理由は『黒炎』の力を欲したからだ」
「なるほど、その強い力とやらは何に使う」
「私たち兄弟に剣型を移し、武器を使わずとも剣技を使えるようにする。そうすることで、私たちは社会を操る事ができる。電気の力で浮かぶ空中都市であるトアペトラにとって、電力会社は重要な立場にある。私が社長として電力会社の頂点に君臨し、私の兄が裏社会に生きるヤクザを暴力で強引に従える。社会の表と裏を全て支配すれば、もう父の願いは叶ったも同然だ」
熱意に満ちた表情で語る青年を、エルドはゴミを見るような目で見ていた。
やがて立ち上がり、社長室を後にしようとした。
「もう行くのかな」
「ああ、ここにいても意味はない。だが…」
エルドは振り向いて青年を指さした。
「セルヴィア・ウィアン・マンセル、俺は必ず戻ってくるぞ」
※
「うふ、イーザルが死んだみたいよ」
色気のある声が牢獄内に響いた。
声を発したのは、20後半ほどの女性だ。
黒いライダースーツを着ていて、胸元のチャックを大きく開けている。
「次は誰が行くのかしら?」
「お前が行けよ〜」
あぐらをかいて座る黒髪の青年が陽気な声で言った。
顔がどことなくイーザルに似ている。
「え〜アタシまだここでのんびりしていたいわよ」
「じゃあ決めてもらおうぜ、ローダさん!ローダ・ウィアンなんとかさん!」
イーザルに似た青年は、牢屋の外にいる男に声をかけた。
金髪をリーゼントにした男で、革ジャンを羽織っている。
目つきは悪く、常に何かを睨みつけているような表情だ。
「テメエ、俺のこと呼びやがったのか?あ?殴るぞコラ」
「え、そりゃちょっと理不尽じゃないすかね」
「るっせえ!勝てなくてイライラしてんだよ!」
そう叫ぶローダの手には、ゲーム機が握られていた。
何度も叩きつけた後があり、画面はほとんど見えていない。
「俺のこと呼びやがるってこたあ、相当な条件だよなあ!」
「いや、次行く人を決めてもらおうかな〜って」
「あ?イーザル死んだんだっけか?」
急に勢いがなくなったローダを見て、イーザル似の青年は胸を撫で下ろした。
「じゃあ、あれだ。アンリエとキラ、お前ら行け」
「だからアタシはもうちょっとのんびりしていたいって…」
「…わたしもいきたくない」
アンリエと呼ばれた女性が文句をいった後、隅の方の牢屋からボソリと声が聞こえた。
そんな2人の様子にローダはため息をつき、アンリエを睨みつけた。
「テメエ、俺の弟が相手だっつってんだよ。1人でやれるわけねえだろ。あ?」
「アタシは1人で行きたいんじゃなくて、そもそも行きたくないの」
「………?」
口をポカーンと開けて思考を巡らせるローダに、アンリエは嘆息した。
仕方あるまい、ここで動かなければローダに何をされるか分かったものではない。
「キラ、行くわよ」
「…やだ」
「人を殺す任務よ」
「……え?」
牢屋の前に歩いてきたアンリエを見て、キラは口元を歪めた。
「ひと、ころせるの?」
《キャラクター紹介》
○セルヴィア・ウィアン・マンセル
マンセル家の次男で、電力会社の社長。
アルダレオの野望に協力している。
○ローダ・ウィアン・マンセル
マンセル家の長男で、暴力によってヤクザを仕切っている。
現在は実験のため、手術を施された犯罪者の脱獄に手を貸している。




