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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第六話 偽りの風

 ディルセイとルフはバイクを走らせ、東外区の廃工場へとたどり着いた。


 その工場は広くはあるが、数年も放置されていたせいかボロボロだ。

 入り口は崩れていて、今は裏口からしか入れないのだろう。


「ディルセイ、窓の場所を確認しておいてくれ。いざとなったら君の狙撃が必要だ」


「ああ、すでに近辺の建物も把握済みだ」


 頼もしいディルセイの返事にルフは口元を緩め、裏口へと回り込んだ。


 グレイは言った、『例の脱獄犯』と。

 ルフの認識が正しければ、この廃工場にいるのは恐らく…


「待ちくたびれた、あまり遅いと市民に被害が出るよ」


 爽やかなマッシュ頭の青年は、呑気に壊れた機械の上でゲームをしていた。

 黒髪だが、彼の目は淡い黄緑色に染まっている。


「脱獄犯なのに随分気楽だなぁおい」


「そりゃ気楽になるよ。やっと脱獄できたんだから」


 両手を広げて彼は言った。


「俺の名前はイーザル・クロム、知っての通り脱獄犯さ」


「名乗るほどの付き合いにはならないと思うよ。君はすぐに僕たちに殺される」


「ははっ、どうだろうな。君たちは俺に聞きたいことがあるはずだ」


 そう言われて、ルフは口を閉じた。

 傍でディルセイが首を傾げるのが見えたが、今は気にしている暇はない。


「情報を提供して逃してもらえるだなんて思っていないだろうね。君は過去に人殺しを一回行っている。これは許されざる行為だよ」


「そんなこと言って…君たちは何人も殺しているんだろ?」


「馬鹿野郎、こっちは正義のために人殺してんだよ!」


 ディルセイの声にイーザルは口元を歪め、機械の上から降りた。ようやくやる気になったのだろう。

 ルフも懐からライターを取り出した。


「気をつけてくれ、奴は僕と同じような力を使ってくるはずだ」


「…?っておあっ!?」


 訝しむように眉を顰めるディルセイに、謎の衝撃波が襲いかかった。

 そのエネルギーはまさしく風、それに空気がかなり圧縮されたものだ。


「なんだよそれ!」


「終わったら全て話す!君は狙撃ポイントへ向かえ!」


 ライターの炎を増幅させるルフを一瞥し、やがてディルセイは踵を返して外に向かった。


「彼がポイントについたら君はゲームオーバーだよ」


「大丈夫、俺はあの人に戦闘データの収集を任されているだけだからね。勝てようが勝てまいが、死のうが生きようがどうでもいいのさ」


 いうと同時に、イーザルは再び突風を巻き起こした。

 ルフが炎で受け流しつつそれを交わすと、背後の壁が壊れてしまった。


「まともに受けたらまずいね」


「いつまで避けられるかな!」


 連続で放たれる衝撃波に、ルフは身をかわし続けるしかない。

 炎が相殺されてしまう相手に対して、ルフは無力なのだ。


(君に全てを任せよう、ディルセイ)


 一見怠惰に見える彼の考えだが、その方法が最善策だ。

 ルフがここにとどまり続ける限り、イーザルの注意はこちらに向くのだから。



 ※



「さて」


 あまり遠くはない、精々500m程度の距離にある廃ビルの屋上にディルセイは座っていた。

 ギターケースから取り出した狙撃銃の調子が悪かったので、今は細かい部品の調整をしているところだ。


 ディルセイの扱う『電磁狙撃銃ボルテージライフル』は、充電した電力を使って銃弾を放つというものだ。

 弾丸の威力を増幅させるために、かなり多く部品が組み込まれている。


 一つ一つの部品が銃弾の威力に関わるため、全ての部品を完璧にしておかなければならない。

 いつかは機械に詳しい人物に、この銃の調整をしてもらいたいものだ。


「これで大丈夫だべ」


 最後の部品の調整が終わり、ディルセイは廃工場の中を狙った。


 苦戦とまではいかないが、ルフは防戦一方が続くといった感じだった。

 そしてイーザルはこちらに気付いていない。


「地獄の皆さんによろしくな」


 そう言ってディルセイは引き金を引いた。

 だが…


「え、俺の銃弾そんな弱かったっけか?」


 見れば、ディルセイの銃弾は奴の風によって勢いが相殺され、届いていなかった。

 かすり傷ひとつつけることすら出来ないというのは、流石のディルセイも屈辱だ。


 電磁狙撃銃ボルテージライフルの装填には30秒ほどの時間が必要だ。

 連続で撃ちでもしなければ、やつに弾丸が届くことはないだろうに。


「しゃあねえな、そんなに俺の必殺技が見てえか」


 口元を歪めてディルセイは言った。

 自分の弾丸が強い力で相殺されるのならば、それよりも強い弾丸を撃てばいい。


 そうとなれば早速準備だ。

 必殺技に適応した部品配置に変える必要がある。


「すまねえなルフ、あと少し耐えてくれ」


 テキパキと作業を終えると、ディルセイはもう一度廃工場を覗いた。

 500mの距離でディルセイの必殺技を撃てば、防ぐことはまずあり得ないだろう。


 最強の剣型の一つ、『黒雷』の力が込められた弾丸を防ぐことなど。


「『黒雷の弾丸』」


 言い終えて、ディルセイは引き金を引いた。



 ※



 正確に脳を撃ち抜かれたイーザルの死体を見ながら、ルフとディルセイはしばらく無言で立っていた。

 しかしいつまでもこうしているわけにはいかない。


 ディルセイはルフに聞かなければならないことがある。

 ルフの炎を操る力や、イーザルの衝撃波の力に関してだ。


 もしかしたら、今後それが関係した事件が増えてくるかもしれない。

 そうなればディルセイも知っておく必要がある。


「教えろルフ、俺たちが高校を卒業してから何があった?」


 ルフの目が山吹色に変色したのも、それが関係しているとディルセイは踏んだ。

 だとすれば、事が起きたのは高校卒業後、ディルセイが別れてからだ。


 ルフはどこか懐かしむような、寂しい目をしていた。

 だがやがてその口を開いた。


「僕の能力について話すには、マンセル家について話す必要があるんだ」


「お前の家族が何かやらかしたのか?」


「ああ、アルダレオ・ウィアン・マンセルの野望は、僕たちが確実に止めなければならない」

《キャラクター紹介》


○ディルセイ・テロード

戦闘部に所属する、元殺し屋の狙撃手。

剣型は『黒雷』(主属性:?、副属性:雷)


○イーザル・クロム

脱獄犯、暴風を操る力を持つ。

何者かの助けを借りて脱獄したようだが、ディルセイの狙撃によって死亡した。

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