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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第五章 審判の偽炎
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第五話 断罪の炎

「オラッ!っく金詰めろや!」


 怒鳴り散らかすその男は、かなりゴツめのハンドガンを握っていた。

 おそらくその銃で銀行員を脅しているのだろう。


 こんなに古いやり方をせずとも、今なら金を稼ぐ方法がいくらでもあるというのに。


「やっぱり頭が足りないみたいだよ」


「そう言ってやるな。さっさと捕まえてくれ」


 そういうとディルセイは壁に寄りかかり、腕を組んでルフの方を見た。


「まさかサボる気かい?」


「あのケンカも出来なかったお前さんがどうやって戦うのか見たいんだよ」


「ふむ…分かった、一瞬で終わらせよう」


 そういうとルフはライターを取り出し、入り口に歩いて行った。


 ルフが銀行に足を踏み入れようとすると、中から3人の男性が飛び出してきた。

 おそらく邪魔されないために入り口に配置されていたのだろう。


 いずれも手には短刀を握っていて、刃には魔力を滾らせている。

 間違いなく剣技を使うつもりだ。


 だが、彼らが剣を振るよりも一瞬はやく——炎がうねった。


「なんだありゃ…」


 見ればルフのライターから、蛇のような炎が大量に溢れ出していた。

 その炎はまるで、竜国ドラグニカに伝わる伝説『八岐大蛇ヤマタノオロチ』のようだ。


 畝る炎は強盗犯の体を駆け回り、手や足などの関節をしっかり掴み、彼らを捕らえた。

 炎の熱が痛みを与えているのだろう。泣いている者もいる。


 フッと笑うと、ルフは中でハンドガンを突きつけている男にも炎をけしかけた。

 しかし男は意外と冷静にハンドガンを撃ち、炎は霧散した。


「誰だテメエ」


「戦闘部だよ、こうなることくらい予想できたんじゃないかな?」


「戯けが、俺の開発したハンドガンに勝てるやつァいねえんだよ!」


 言うが早いか、男はハンドガンをルフに向けて放った。

 かなり強力なエネルギー弾だ。


 しかしそれすらもルフの炎は焼却した。


 そして動揺する男に再び炎をけしかけ、あっという間に無力化した。


「厄介な冷静タイプかと思いきや、割と小物だったな」


「おそらく銃の威力に自信があっただけで、それが防がれれば動揺するさ。おや…」


 捜査部がたどり着いたのを確認し、ルフとディルセイはその場を後にした。



 ※



「おい、なんでラーメン屋にこんなにデザートがあんだよ」


 テーブルの上を見て顔を顰めるディルセイのことなど気にも止めず、ルフはデザートを4、5個ほど並べていた。

 相変わらず遠慮のないやつだ。


「奢ってもらえるなら、我慢すると損だよ」


「奢ってもらう側が何言ってんだ。俺じゃなかったらお前さん絶対嫌われるぞ」


「事実、グレイはもう僕に奢ることは絶対にないと言っていたよ」


 はははと笑ってみせるルフに苦笑し、ディルセイはふと思い出した。


「そういや、さっきの力はなんなんだ。魔法の類か?」


 ライターから出た火を操り、犯罪者達にけしかけた。

 そんな芸当は魔法以外で聞いたことがない。


 ルフは考え込むように顎に手を当てた。

 何か言えない理由があるのだろうか。


 やがてルフは決心がついたように頷いた。


「いいとも、僕の能力について話そう。まずは僕の家族について…」


 《また任務が来た》


「……」


 グレイの言葉に、ルフは呆れたような顔をした。


「またか、どこだい?」


 《脱獄犯だ。東外区の廃工場で籠城中、捜査部の情報によれば、戦闘部を呼べとのことだ》


「…例の…分かった。すぐに向かおう」


「戦闘部を呼べってどう言うことだよ?」


「詳しい話は事が終わってからにしよう」


 そう言うと、ルフはデザートを残して席を立った。


「おい、籠城してんならそこまで急ぐ必要はねえだろ」


「奴が近辺の人々を人質にしている可能性も無くはない。早急に向かわなければ人質の人たちが恐怖を感じる時間が長くなってしまうだろう?」


 そう言われて、ディルセイはハッとした。


 確かにもし戦闘部に何か要求をするのだとすれば、人質をとっていてもおかしくはない。


 しかし戦闘部の2人が来るまで、殺されることはないはずだ。


ディルセイはそう思っていたのだが、ルフはのんびりした時間だけ人質が『怖い思いをする』と言った。

彼らの命に別状はなくとも、ルフとしてはそんな思いはさせたくないのだろう。


 このルフ・ウィアン・マンセルという男は、しっかり国の人々のことを考えている。

 ただ言われるがままに仕事をしているわけじゃない。


(こいつ、トアペトラが好きなんだな…)


 生まれ育った街だからだろうか、しかしディルセイは彼ほど街のことは考えていなかった。


 どこか皮肉げだったり、スカしていたりするが、根は優しいのだ。



 ※



 大きなガラス窓を背に、小さい棚とデスクのみがある部屋だった。

 それ以外は特に何もなく、ただデスクで男が事務仕事をしている。


 木製の扉を叩く音が聞こえ、男は作業を止めた。


 金髪を後ろで結んだ青年だった。

 目を少し細め、口元を緩めるその表情は、常に余裕を浮かべているように見える。

 そしてその瞳は山吹色、ルフと同じ色だ。


「入りたまえ」


 透き通るように美しく響く声で、男は言った。

 その声を聞くと、ゆっくり扉が開かれた。


「…これはまた珍しい客人だ。よく通してもらえたね」


「剣聖だからな、当然だ」


 黒と赤が入り混じったような髪を結んだ青年、エルドの言葉に、金髪の青年は顔を顰めた。


「おかしいな、この国は他国との貿易を断ち切っている。私の会社の者が外の国の英雄を通すとは思えないよ」


「俺の剣が見えたのだろう。『剣聖の剣』は鞘に収めていても剣気を放つ」


「やれやれ、とんだ腑抜けを雇ってしまったものだ。それで、何しに来たのかな?」


 金髪の青年は改めて姿勢を正した。

 それが合図だったのか、エルドは話し始めた。


「こちらのゴタゴタが終わったのでな、ようやくお前達の問題に触れる事ができる」


「私たちの問題…はて、君と何かあったかな」


「とぼけるな、俺の父親の死因についてだ」


 青年を見下すようにして睨むエルドに対して、青年は首を傾げて見せた。


「君の父親?私はそんなこと知らない」


「だがお前の父親は知っているはずだ」


 青年の父親、その話題が出たことでようやく青年は顔をこわばらせた。

 我が意を得たりと言わんばかりの表情で、エルドは言った。


「お前の父親、アルダレオ・ウィアン・マンセルに会わせろ」

《キャラクター紹介》


○エルド・デルフ・エスパーダ

異能士団の団長で、剣聖。トアペトラで父親の死因について調べている。

剣型は『覇気』(主属性:炎氷雷風土水光闇)、『愚者』の異能を持つ。

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