第二話 試験
「ルフ…!?お前さんなんでこんなところに…」
「僕からすれば君がいる方が珍しいんだけどね」
朗らかに笑うと、ルフは遠慮なくディルセイの向かい側に座った。
彼の風貌は昔と何も変わっていなかった。強いていうなら、目が山吹色になったことだろうか。
「カラコン入れたのか?前は青だったろ」
「はは、カラコンか。まあそんなところだね。そういえば、なんで唐突にここへ来たんだい?」
ディルセイの問いを適当にはぐらかすと、ルフは思いついたように話題を振った。
「前勤めてた会社が潰れちまって、都会に来てみて偶然寄ったって感じだな」
田舎にも一応小さな会社はある。ルフもそれを知っていることだろう。
流石に元殺し屋だなんて言うわけにはいかない。
ディルセイの話に、ルフは意外そうな顔をした。
「それじゃあ、今は無職なのかい?」
「無職言うな…落ち込むだろうが」
「いやいや、そんなつもりで言った訳じゃないよ。実は僕の職場の人数が少なくて困っていたところなんだ」
「…その話詳しく」
昔お気に入りだった喫茶店に偶然寄り、そこで偶然旧友と再会し、旧友の職場の人数が足りないなどという偶然が起きた。こんなことがあるだろうか。
バーク・イーグルが捕まったと聞いた時は人生終わったかと思ったが、これはディルセイが汚れ仕事から足を洗うために神様が起こしてくれた奇跡なのかもしれない。
「現在僕は戦闘部に所属していてね、僕含めて2人しかいない。トアペトラの平和を守る人が2人というのは少しおかしい話だと思わないかい?」
戦闘部とは、トアペトラで起こった暴力的な事件を解決する組織のことを言う。
数百年前、トアペトラには『警察』と呼ばれるものが存在した。
警察は少しずつ役割ごとの組織として確立していき、やがて『戦闘部』『捜査部』『上層部』を始めとした複数の組織に分かれた。
基本的には捜査部だけでほとんどの事件は解決してしまう。トアペトラでは剣型や魔法を使いこなせる者はほとんどいないからだ。
しかし強い戦闘力を持つ犯罪者が現れることも多々ある。
そこで戦闘部の出番だ。
戦闘部に所属する者は優れた戦闘技術を持ち、現在に至るまでトアペトラの平和を守ってきた。
そんな戦闘部員が2人しかいないと言うのは、トアペトラの危機と言っても過言ではない。
「分かったぜ、俺をそこに連れていってくれや」
「ああ、助かるよ」
早速、ディルセイとルフは会計を済ませて外に出た。
※
「へえ〜ここが上層部本部か〜」
上層部本部の壁は、大理石で作られていた。
エントランスの中央には巨大な像が建っていて、上を見渡せば無数の窓ガラスの壁がある。
全ての部は、上層部による指示で動いている。
だからどこの部に入るにしても、上層部で筆記試験と面接試験を受ける必要がある。
戦闘部に入る場合はそれに加えて自分の特技を示す試験もある。
「筆記試験に関しては、16で高校を卒業した君なら問題はないはずだ」
「15で卒業したお前さんに言われると腹が立つな」
マンセル家の姉弟とディルセイは、長男を除いて全員同じ歳に卒業している。
長男は頭があまりよろしくなかったため、2年後の19歳で高校を卒業したと聞いた。
それにしても、勉強もしないでできるほど簡単な試験なのだろうか。
上層部に来て早々筆記試験など聞いたことがない。
「普通は年に二度試験があるんだけど、戦闘部は特にそんな決まりはない。優れた戦闘力を持っていて、なおかつある程度常識的なことが出来ればいいのさ」
「随分適当なんだな」
「まあ、あまり賢いと上層部も扱いづらいのかもしれないね。少し複雑な事件でも、ただ剣として使った方が都合が良い」
なるほど、確かにその通りだ。
命令さえ理解できる程度の知能と、それを達成できる戦闘力、それ以外に求められることはない。
少し上層部に不安を抱いたが、それはそれでこちらも都合がいい。
元殺し屋のディルセイの戦闘力で、落ちることはまずあり得ないだろう。
エントランスの受付にいる女性にルフがディルセイのことを伝えると、すぐに通ったらしく案内してくれた。
奥に進み、少し廊下を歩いた後、白い引き戸の前で止まった。
「こちらで筆記試験を受けてもらいます」
「本当に早速なんだな」
呆れ顔でそういうと、ディルセイは部屋の中に入っていった。
部屋の中はエントランスや廊下とは違い、質素な白い部屋だった。
机と椅子以外は何もない、本当に試験のためだけの部屋といった感じだ。
そして机の上にはすでに冊子が置かれている。
「それじゃあディルセイ、僕は外で待っているよ。30分計りながらね」
「分かった、もう解いてもいいのか?」
「ああ、それじゃあ始めてくれ」
そう言うと、ルフは扉を閉めた。
手にはタイマーを持っていたので、試験はもう始まっているのだろう。
「よーし、やったるか!」
腕を捲って問題用紙を開き、ディルセイは回答用紙にカリカリと答えを書いていった。
舐められては困る。ディルセイはこう見えても学年二位だったのだ。
「不良が2人トップだったなんて笑える話だな」
※
面接も、数々の仕事をつい最近行き来していたディルセイにとっては簡単なことだった。
まあ来ているスーツはルフの借り物ではあったが。
そんなわけで、ディルセイは無事合格することができた。
後はルフに案内してもらい、戦闘部で特技の試験を受けるだけだ。
戦闘部の本部は狭く、上層部本部の近くにある二階建ての建物だった。
それも一階の部分は交番と化しているので、戦闘部の本部は二階のみということになる。
「こんな小せえのかよ…まだ俺の前のアパートの方が広いぞ」
「そうかな、貯水池外部のアパートはだいぶ小さかったはずだよ」
「…盛ったんだよ」
顔を顰めるディルセイに笑ってみせると、ルフは階段を上っていった。
ディルセイもそれに続き、本部の扉を開けた。
中は本当にアパートと変わらず、机やソファ、そしてチェスのような娯楽物も置いてある。
そして部屋のソファに腰掛ける人物が口元を歪めて言った。
「のこのことようこそ。殺し屋のディルセイ・テロード」
ディルセイの背後で、ルフが扉を閉める音が聞こえた。
《キャラクター紹介》
○ルフ・ウィアン・マンセル
マンセル家の三男でディルセイの親友。
15歳で高校を卒業し、現在は戦闘部に所属している。




