異能記『星』
「話って何?」
付き合い始めて1週間、唐突にルシファーが話がしたいと言い出したのだ。
なので今は2人でルシファーの部屋にいる。
ルシファーの表情はいつになく真剣だ。
おそらく大事な話なのだろう。
「実は、話しておかなければならないことがある」
「失敗でもしたのかしら?」
「い、いや、任務は問題なく遂行できている」
なぜか戸惑うルシファーを見て、アゼルスは眉を顰めた。
しかし彼ならば自力で問題を解決できるだろう。今後のことを信じて、今回は見逃してやることにした。
一呼吸おくと、彼は言った。
「俺が副騎士団長になるまでの話と、国王についてだ」
※
幼い頃から両親を失っていたルシファーは、11歳まで弟2人と一緒に森で桃髪の少年に育ててもらっていた。
アクトという名前で、どういうわけか孤児を無償で育てるという活動をしていたらしい。
アクトの話によると、ウエラルド王国では騎士になれば裕福な暮らしが出来るのだという。
だからルシファーは弟であるクロスとヒーズを養うために、騎士を目指して訓練していた。
アクトは戦闘面でも優れていて、よくルシファーの相手をしてくれたものだ。
そして食事のたびに、3人に色々な話を聞かせてくれた。
森の外には、ドラゴンがいる国や空中に浮かぶ都市、自分なんかよりもすごい魔法を使える魔法使い達…。
ルシファーとヒーズにとっても夢のある話だが、特に幼いクロスは興味津々で話を聞いていた。
「希望を持て」
よく彼が口にした言葉だ。
希望を持てば、人間はなんでもできる。
それこそ、どれだけ絶望の中に貶められてもだ。
最後まで諦めないこと。
ありきたりだが、ルシファーの訓練に力を注いでくれたのはその言葉だった。
そしてあの日…希望は一瞬で砕かれた。
※
「アクト・バロピサはいるか?」
唐突に森の中に騎士団が現れたのだ。
それもかなりの大所帯で、騎士団長すらいた。
そして国王も。
「陛下をクアランドへお連れする道中、君が子供を監禁していると、とある男から言われてな」
騎士団長は油断のない目つきで辺りを見回し、最後にアクトを見た。
「見たところ監禁しているようには見えないが」
「ああ、監禁はしていない。ところで騎士団長、俺が子供を監禁しているって言ったのは誰だ?」
明らかに不満そうにアクトが問うと、騎士団長は顎に手を当てた。
特徴を思い出そうとしているのだろう。
「確か…紳士服を着ていた」
「ちっ、ヴァルタイユか…。そろそろ潮時だな」
その瞬間、今までのアクトからは想像もつかないほど凶悪な表情を浮かべた。
騎士団長が顔を青ざめさせ、近くにいたルシファーとクロスの手を掴んだ。
それと同時に、アクトはヒーズの首にナイフを当てた。
「俺が一生懸命育てた希望だ。返してくれなきゃこいつの首を掻っ切る。お前らが動いても掻っ切る」
「やはり監禁していたのは本当だったのか!」
怒りをあらわにして騎士団長は手を握りしめた。
その状況を、ルシファーは理解できなかった。
「何故…アクト…?」
「すまんなルシファー、俺はただお前達の絶望が欲しかっただけなんだ」
そういうと、アクトは騎士団を見据えた。
彼らの動きに集中しているのだろう。
だがそこで手を挙げたものがいた。
「その子供、剣型は?」
国王、アーサーだ。
彼はこんな状況で、何故かヒーズの属性を聞いたのだ。
「こいつは『副闇』だったかな。それがどうした」
アクトですら、この王の意図が読めないようだ。
王はヒーズの剣型に眉を顰め、やがて迷うことなく言った。
「人質は見捨てて構わん。アクト・バロピサを捕らえよ」
「———!」
一瞬、その場の全員が凍りついた。
しかし気づいた時には騎士団は動き出し、ヒーズの首は繋がっていなかった。
「ぁ……」
ぼとり、と音を立てて落ちるヒーズの顔を凝視しながら、ルシファーはその場に崩れ落ちた。
そんなルシファーの傍に王は並んだ。
「1人見捨てて罪人を捕らえる方と3人見捨てる方、前者の方がまだ良かっただろう」
そんなことを言った。
だったら何故、剣型を聞いた。
剣型で、何故人の生死を決めた。
闇属性だったからじゃないのか。
そしてアクトは姿を消し、ヒーズが命を捨てた意味も皆無となった。
※
「勝者、ルシファー・メルティア!」
騎士団と兵士が囲む闘技場の中心で、ルシファーは拳を天に掲げていた。
目の前でよろよろと立ち上がった騎士団長は、やがてルシファーに握手を求めてきた。
「あの時の少年が、よくここまで強くなったな。私は感動している」
「ありがとうございます。騎士団長殿」
「よせ、私はもう騎士団長ではない」
騎士団長は笑みを浮かべると、ルシファーの肩を掴んだ。
「君がこれから、騎士団をまとめ上げるんだ」
「…!はい!」
ようやくクロスにいい暮らしをさせてやれる。
帰って報告するのが楽しみだ。
だが———
「ルシファー・メルティアは副団長だ。現副騎士団長を騎士団長に昇格させる」
———国王だ。どういうわけか、ルシファーは騎士団長にしたくないらしい。
どういうわけか、とは言ったが、もう答えは分かっている。
「俺の主属性が闇だから…!」
そう、このアーサー王、闇属性差別主義だったのだ。
かつて魔物が原因で闇属性の剣型を持つ人が差別されていた。
その風習の名残が、まだこの男にはあった。
こうして、ルシファーはやむなく副団長となった。
※
「それ本当?」
「ああ」
すっかり冷め切ってしまった紅茶を飲み干した後、アゼルスは顔を顰めた。
「これは大問題よ。王都にいる闇属性持ちが今後どんな扱いを受けるかしら」
「国王は過激派ではない。そこまではしないはずだ」
だが、ルシファーもアゼルスの考えを肯定していた。
今のうちに手を打っておかなければ、王都の剣士達に何が起こるかわからない。
(いつか俺は国王に反逆するだろうな)
それはもはや、彼の中では確信に近かった。
《キャラクター紹介》
○アーサー・クァール・ウエラルド
ウエラルド王国の国王。闇属性差別主義者。
○ヒーズ・メルティア
ルシファーの弟。国王の選択によりアクトに殺された。




