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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
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異能記『隠者』

ちょうど正午の時間、村の中を少年が走っている。

紺色の癖っ毛、長方形の眼鏡、そして細い手足が特徴の少年だった。


彼が走っている村は狭く、家も5軒程度しかない。

その中のうちの1軒に入っていき、正面の扉を開けた。


「…帰ったよ兄さん」


「お疲れ、レクト」


ベッドに寝そべる兄、リラムは穏やかに言った。


レクトと同じ紺色の髪だ。

しかし目は悪くないのか、眼鏡はつけていなかった。


ここはレクトとリラムの家で、この村でも一番小さい家だ。

両親は畑仕事に行っているため、ほとんど家にいることはない。


「薬は買えたのか?」


「うん…今日も薬草を取るのを手伝ってきたから」


「そうか、俺のために悪いな」


リラムは病気を患っている。

そのため、定期的に薬を買わなければならない。


(僕が騎士になって、兄さんに適切な治療を受けさせてあげないと…)


そのために一応剣の訓練はしてはいるのだが、兄の看病に時間を割いているためまともな修行ができていない。

トレーニングの時間もないので、レクトの体は貧弱だ。

先程走った時もすぐに疲れてしまった。


「無理しなくてもいいんだぞ、レクト」


兄はそんなふうに言ってくれたが、レクトがやらなければリラムの身が危ない。

今度訓練所に入れることが決定した。看病は親に任せることになるが、レクトが騎士になった暁にはきっと家族にいい暮らしをさせてあげられる。


「僕が家族を助けるんだ…」


自分の拳をじっと見つめるレクトを、リラムはただ見つめていた。





数日後、予期せぬ出来事が起きた。


「村に魔物が出たぞ!」


そんな叫び声を聞いて、大人たちは農具を握って家から飛び出していった。


この村の近くには森がある。

いつ魔物が出てもおかしくない状況なのだ。


でも、騎士や兵士をここに配置してもらえることはなかった。

だからこうして村の人で協力して戦うしかない。


「僕も行かなきゃ…」


レクトも自分の剣を持って家から飛び出そうとした。


「待て!」


だが、リラムに呼び止められた。


「そんな細い体で何が出来る」


「…兄さん」


確かに自分は細い。

こんなんじゃ、魔物に勝てないかもしれない。


それでも、ここで立ち上がらなければ騎士など夢のまた夢だ。

兄に止められたとしても、レクトは行かなければならない。


「レクト、俺は別にお前に行くなと言っているわけじゃない」


「え…?」


「こっちに来い」


言われるがままに、ベッドに寝そべる兄の元へ近づいた。

そしてその場に膝をつくと、リラムは穏やかに微笑んだ。


「俺が力を貸す」


そう言ったリラムの手には、いつの間にか黒いナイフがあった。

ナイフは半透明で、まるで兄が影を握っているように見える。


「これが力…?」


「そうだ、受け取って欲しい」


渋々奇妙なナイフを受け取ると、そのナイフは消滅した。

それと同時に、何か黒いものが身体中に入っていくのがわかった。

しかしその力は暖かく、まるで兄の優しさのようだ。


「『隠者』の異能だ。お前なら使いこなせる」


異能を兄が持っていたことには驚いたが、同時に嬉しくもあった。

兄は自分を信じてくれているのだ。


「行ってきます!」


出来るだけ声を張り上げてレクトは言った。

兄の気持ちに自分も答えなければ。





「剣交祭で勝てば、騎士になれる確率が大幅に上がるらしいわ」


「剣交祭?」


アゼルスとイリアが室内で話しているのを、レクトは盗み聞きしていた。

とは言っても、嫌でも耳に入って来てしまうからなのだが。


「生徒同士で一対一で決闘して、勝ち上がって行くものよ」


「じゃあ、それまである程度の力は隠しておいた方が良さそうだね〜」


なるほど、つまりこの『隠者』の力は、剣交祭とやらにとっておいた方がいいみたいだ。

それまでは静かにしておくことにしよう。





「そんな…嘘だ…」


あの日、廃墟と化した村の有様を見て、レクトはその場に崩れ落ちた。


崩されたのか、焼かれたのか、形状を保っている家は一つもなかった。

瓦礫の中から兄を見つけ出そうにも、レクトの力では瓦礫を退かすことができない。


レクトはただ、その場で泣いていることしかできなかった。


「誰がこんなことをしたのか、教えてやろう」


背後から声がかかった。

ここまで連れてきてくれた男、エルドだ。


「ヴァルタイユ・ミラ・バルザイド、紳士服を着た茶髪の男だ」


「ヴァルタイユ…」


それが、レクトが復讐すべき相手の名前。

だが自然と、その男への憎しみを感じる事はなかった。


兄の温もりが、まだ心に残っているから。


それから 異能士団に入った後も、激しい戦いが続いた。

何ども殺されかけた。


それでも、レクトは負けなかった。

なぜなら…


「俺が相手だ」


兄を感じ、兄を真似ることで、自分が兄のように強くなれたからだ。


いつだって、レクトの命を救ってきたのは兄だった。

これまでも、これからも。

《キャラクター紹介》


○リラム・ジェイル

レクトの兄で、元『隠者』。

ヴァルタイユに村を襲撃され死亡した。

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