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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
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第十三話 血塗れ

 唐突に現れたリオの登場に、ジン達は動揺していた。


 組織幹部の最強、その力は確かなようだ。

 王族のラーナと、相手のレベルに合わせられるティリアを同時に倒した。しかも無傷で。


 とにかく2人の状況がまずい。

 なんとかしてやりたいが、この中に回復魔法を使える者はいない。


「僕が2人を治す」


 フィクスの言葉にジンはギョッとした。


「お前魔法使えんのか!?」


「いや、異能の力だよ」


 そう言うと、フィクスは2人の元に駆け出した。

 フィクスを追うことなく、リオは待っていた。


「お前いいのか?敵が復活しても」


「別にいいんだよ、また血が見れるわけだし」


 狂っている。さすがはヴァルタイユについている剣士だ。

 ジンは怒りをあらわにしながら剣を引き抜いた。


「お前をとっ捕まえて、ヴァルタイユの情報を吐いてもらうぜ。さっきの奴らは脆すぎて、一瞬で死んじまったからな」


「はは、確かにあいつら脆いよな」


 ジンの言葉に頷くリオに、ジンは斬りかかった。

 まずは相手の力量を見定める必要がある。


 だがそれすらも、この男は許してくれないようだ。


「なんだ、お前も脆いじゃん」


 直後、ジンの体から大量の血が溢れ出した。

 無数の切り傷だ。しかし奴が剣を振るのが見えなかった。


 人間の速さを決めるのは戦意解放力、身体能力、 そして強化魔法だ。

 戦意解放力が65%のジンには、80%のアゼルスの動きが見えていた。戦意によるスピードなら、動きが見えないなどあり得るはずがない。

 だから先程のスピードは魔法の類だろう。


「まだ終わりじゃないよなあ?」


「当たり前だろッ!」


 血塗れの体に鞭打ち、ジンは再びリオに斬りかかった。

 今度こそあの動きを見切るために、ジンは目を凝らした。


 するとリオが攻撃する瞬間、赤いオーラが大量に溢れ出した。

 そして一瞬だけリオが動き、再びジンの体に大量の傷が刻まれていた。


(くそっ、対応出来ねえ!)


 動きは見えていた。

 しかしその動きについていけない。


 そしてあの力は魔法による物ではなかった。

 間違いなく戦意の力だ。


「はあっ!」


 背後からクロスが、『星』の異能を使ってリオを床に這いつくばらせた。

 だが…


「おおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 リオは体を軋ませながらも、重力に逆らって起き上がっていく。


「嘘だろ…」


 やがて完全に立ち上がり、リオはにんまり笑った。


「ヴァルタイユの言う通り、新入り大したことねえわ」


「『黒滅斬』———ッッッ!!!」

「『極星アルティメテオ』———ッッッ!!!」


 両手を広げて無防備な姿を晒したリオに、2人で同時に必殺剣技を放った。

 それでも手応えがない。見れば、リオは片手で一つずつ剣技を抑えていた。


「お前らまとめて、吹っ飛べやあああああッッッ!!!」


 リオが力を込めると、剣技が耐えきれずに爆発した。

 その衝撃でジンとクロスは壁に激突、そして吐血した。


「ごほ…っ、どうすりゃいいんだよ…」


 勝ち目がない、リオにはあらゆる攻撃が通用しない。

 何か行動を起こす前にすでに相手は行動を終えている、そんな感じだ。


リオを倒すための算段を必死で練っていると、ジンはあることに気づいた。


 リオはこちらを見ていない。

別の方向、遠くを見ているようだ。


 その視線を追うと…


「『男前斬り』いいいいいいいッッッ!!!」


 そんなふざけた剣技名とともにホルスが突撃してきた。

 だが彼の動きは目で追えない、その速さはまるでリオだ。


『戦車』、それが彼の異能だ。

 とにかく攻撃と速度に特化していて、猪突猛進という言葉が相応しい。

 しかし戦闘が長引くごとに、まるで燃料がなくなるかのように弱体化していく、短期決戦型の異能である。


 リオはホルスの剣技をガードすると、ジンに見舞ったような剣撃を放った。

 だがホルスには見えている。彼はリオの剣撃を全て弾き、追撃を喰らわせた。


「へっ、やるじゃねえか。でもいつまで持つかなあ!?」


 本気を出したのか、リオは先程とは比べ物にならないほど速く剣を振った。

 その剣撃の量が多すぎて、見ている側からすればビームである。


「おららららららららららららららあああああッッッ!!!」


 だがそれすらもホルスには見えていた。

 彼もリオに負けないほどの動きで攻撃を捌いていく。


 しかしやはり弱体化しているようだ。

 だんだん攻撃が防げなくなってきている。

 ホルスの体に傷が刻まれていく。


 リオの言う通り、これでは持たないかもしれない。


「だから僕がいる…!」


 直後、ホルスの背後からリオの剣撃を飛び越え、リオの後ろに着地した人物がいた。

 レクトだった。


「お前邪魔すんなよお!」


 リオがレクトに剣を振り下ろした瞬間、レクトを中心に黒い球体が展開された。

 球体に押し出されたジン達は、中の様子が気になって仕方ない。


「馬鹿、今のうちに逃げるぞ」


 ホルスに手を引かれたので、ジンは眉を顰めた。


「お前、レクトを置いて逃げろってのかよ」


「そうだよ、あいつなら死なねえから安心しろ」


 そう言い残して、ホルスは早々に立ち去ってしまった。


「ジン、ティリアを担げる?」


「任せろ」


 フィクスに頼まれ、ジンはティリアを担いでホルスの後に続いた。

 本当にあの気弱な少年がリオと戦えるのだろうか。



 ※



「お前さあ…こんな暗いところ閉じ込めてくれちゃって許さねえぞ」


 リオはイライラしながら地団駄を踏んだ。


 彼らを逃すことは別に任務に支障は出ないが、もっと血が見たかった。

 ホルスもだんだん仕上がっていたのに、いいところで邪魔をしてくれる。


「黙ってねえでなんとか…」


「——時間稼ぎ、それが俺の役目だ」


 不意に放たれた一言、その印象は先程とは遠く離れている。

 先程の気弱な雰囲気とは打って変わって、今ではエルドのように暗く冷徹な目つきになった。


 一体この少年に何が起きたのだろう。


「まあいいや、お前の血も見せろ」


 リオはそういうと、レクトの背後に一瞬で回り込み、背中を刺した。

 しかし手応えがない。血も流れない。


 直後、レクトの体が黒ずみ、バラバラに分裂した。

 そのままリオとはまた離れた場所へと移動してしまった。


「気色悪いな」


 思わず顔を顰めるリオに対して、レクトはただ何も言わずに立ちすくんでいる。


 なるほど、本当にこいつは時間稼ぎしかしないつもりだ。

 この異能もヴァルタイユから聞かされていた通り、逃げに特化している。


(こりゃ諦めるしかないな)


 面倒くさくなったので、リオは頭の後ろで腕を組んでのんびりすることにした。


 しかし一つ気になることがある。

 この男は確か、ここからでは瞬間移動できなかったはずだ。何故なら、『隠者』は影の中ではワープできないから。

 ウァルスは汎用魔法が使えないので、『ワープ』のルーン石を用意しておくことも出来ない。


 一体どのようにして脱出するつもりなのだろう。


「…そろそろ時間か」


 レクトはそう呟くと、ポケットからルーン石を取り出した。

『ライト』、下級光属性魔法だ。


「お前まさか…」


「『ライト』」


 直後魔法が光り、レクトの周囲は一瞬だけ光に包まれた。

 だが異能を使うには十分、レクトはそのまま姿を消した。


 周囲を囲んでいた巨大な黒いドームは解除され、ようやくリオは自由の身となった。

 それと同時に激しい疲労が襲いかかる。


「…はあ、だるいわ」


「任務は達成か?」


 ふと、背後から声がかかった。


「雑魚どもの死体でも操ってやろうかと思ったが、全部根こそぎ首を掻っ切られてた」


「でも割と助かったぜ。お前が雑魚どもに渡した『ドレイン』のおかげで『悪魔』が覚醒した」


 そう感謝を伝えると、リオは後ろの人物——ディオンと目を合わせた。


「俺たちの望む世界のためだからな」


 ディオンはそう呟くと、リオを掴んで『ワープ』を発動した。

 彼こそが、組織の下っ端にルーン石を提供している幹部だったのだ。

《キャラクター紹介》


○ディオン・フレデミ

組織の幹部。組織のメンバーにルーン石を提供している。

剣型は『副炎』(副属性:炎)、『死神』の異能を持つ。

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