第十三話 血塗れ
唐突に現れたリオの登場に、ジン達は動揺していた。
組織幹部の最強、その力は確かなようだ。
王族のラーナと、相手のレベルに合わせられるティリアを同時に倒した。しかも無傷で。
とにかく2人の状況がまずい。
なんとかしてやりたいが、この中に回復魔法を使える者はいない。
「僕が2人を治す」
フィクスの言葉にジンはギョッとした。
「お前魔法使えんのか!?」
「いや、異能の力だよ」
そう言うと、フィクスは2人の元に駆け出した。
フィクスを追うことなく、リオは待っていた。
「お前いいのか?敵が復活しても」
「別にいいんだよ、また血が見れるわけだし」
狂っている。さすがはヴァルタイユについている剣士だ。
ジンは怒りをあらわにしながら剣を引き抜いた。
「お前をとっ捕まえて、ヴァルタイユの情報を吐いてもらうぜ。さっきの奴らは脆すぎて、一瞬で死んじまったからな」
「はは、確かにあいつら脆いよな」
ジンの言葉に頷くリオに、ジンは斬りかかった。
まずは相手の力量を見定める必要がある。
だがそれすらも、この男は許してくれないようだ。
「なんだ、お前も脆いじゃん」
直後、ジンの体から大量の血が溢れ出した。
無数の切り傷だ。しかし奴が剣を振るのが見えなかった。
人間の速さを決めるのは戦意解放力、身体能力、 そして強化魔法だ。
戦意解放力が65%のジンには、80%のアゼルスの動きが見えていた。戦意によるスピードなら、動きが見えないなどあり得るはずがない。
だから先程のスピードは魔法の類だろう。
「まだ終わりじゃないよなあ?」
「当たり前だろッ!」
血塗れの体に鞭打ち、ジンは再びリオに斬りかかった。
今度こそあの動きを見切るために、ジンは目を凝らした。
するとリオが攻撃する瞬間、赤いオーラが大量に溢れ出した。
そして一瞬だけリオが動き、再びジンの体に大量の傷が刻まれていた。
(くそっ、対応出来ねえ!)
動きは見えていた。
しかしその動きについていけない。
そしてあの力は魔法による物ではなかった。
間違いなく戦意の力だ。
「はあっ!」
背後からクロスが、『星』の異能を使ってリオを床に這いつくばらせた。
だが…
「おおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
リオは体を軋ませながらも、重力に逆らって起き上がっていく。
「嘘だろ…」
やがて完全に立ち上がり、リオはにんまり笑った。
「ヴァルタイユの言う通り、新入り大したことねえわ」
「『黒滅斬』———ッッッ!!!」
「『極星』———ッッッ!!!」
両手を広げて無防備な姿を晒したリオに、2人で同時に必殺剣技を放った。
それでも手応えがない。見れば、リオは片手で一つずつ剣技を抑えていた。
「お前らまとめて、吹っ飛べやあああああッッッ!!!」
リオが力を込めると、剣技が耐えきれずに爆発した。
その衝撃でジンとクロスは壁に激突、そして吐血した。
「ごほ…っ、どうすりゃいいんだよ…」
勝ち目がない、リオにはあらゆる攻撃が通用しない。
何か行動を起こす前にすでに相手は行動を終えている、そんな感じだ。
リオを倒すための算段を必死で練っていると、ジンはあることに気づいた。
リオはこちらを見ていない。
別の方向、遠くを見ているようだ。
その視線を追うと…
「『男前斬り』いいいいいいいッッッ!!!」
そんなふざけた剣技名とともにホルスが突撃してきた。
だが彼の動きは目で追えない、その速さはまるでリオだ。
『戦車』、それが彼の異能だ。
とにかく攻撃と速度に特化していて、猪突猛進という言葉が相応しい。
しかし戦闘が長引くごとに、まるで燃料がなくなるかのように弱体化していく、短期決戦型の異能である。
リオはホルスの剣技をガードすると、ジンに見舞ったような剣撃を放った。
だがホルスには見えている。彼はリオの剣撃を全て弾き、追撃を喰らわせた。
「へっ、やるじゃねえか。でもいつまで持つかなあ!?」
本気を出したのか、リオは先程とは比べ物にならないほど速く剣を振った。
その剣撃の量が多すぎて、見ている側からすればビームである。
「おららららららららららららららあああああッッッ!!!」
だがそれすらもホルスには見えていた。
彼もリオに負けないほどの動きで攻撃を捌いていく。
しかしやはり弱体化しているようだ。
だんだん攻撃が防げなくなってきている。
ホルスの体に傷が刻まれていく。
リオの言う通り、これでは持たないかもしれない。
「だから僕がいる…!」
直後、ホルスの背後からリオの剣撃を飛び越え、リオの後ろに着地した人物がいた。
レクトだった。
「お前邪魔すんなよお!」
リオがレクトに剣を振り下ろした瞬間、レクトを中心に黒い球体が展開された。
球体に押し出されたジン達は、中の様子が気になって仕方ない。
「馬鹿、今のうちに逃げるぞ」
ホルスに手を引かれたので、ジンは眉を顰めた。
「お前、レクトを置いて逃げろってのかよ」
「そうだよ、あいつなら死なねえから安心しろ」
そう言い残して、ホルスは早々に立ち去ってしまった。
「ジン、ティリアを担げる?」
「任せろ」
フィクスに頼まれ、ジンはティリアを担いでホルスの後に続いた。
本当にあの気弱な少年がリオと戦えるのだろうか。
※
「お前さあ…こんな暗いところ閉じ込めてくれちゃって許さねえぞ」
リオはイライラしながら地団駄を踏んだ。
彼らを逃すことは別に任務に支障は出ないが、もっと血が見たかった。
ホルスもだんだん仕上がっていたのに、いいところで邪魔をしてくれる。
「黙ってねえでなんとか…」
「——時間稼ぎ、それが俺の役目だ」
不意に放たれた一言、その印象は先程とは遠く離れている。
先程の気弱な雰囲気とは打って変わって、今ではエルドのように暗く冷徹な目つきになった。
一体この少年に何が起きたのだろう。
「まあいいや、お前の血も見せろ」
リオはそういうと、レクトの背後に一瞬で回り込み、背中を刺した。
しかし手応えがない。血も流れない。
直後、レクトの体が黒ずみ、バラバラに分裂した。
そのままリオとはまた離れた場所へと移動してしまった。
「気色悪いな」
思わず顔を顰めるリオに対して、レクトはただ何も言わずに立ちすくんでいる。
なるほど、本当にこいつは時間稼ぎしかしないつもりだ。
この異能もヴァルタイユから聞かされていた通り、逃げに特化している。
(こりゃ諦めるしかないな)
面倒くさくなったので、リオは頭の後ろで腕を組んでのんびりすることにした。
しかし一つ気になることがある。
この男は確か、ここからでは瞬間移動できなかったはずだ。何故なら、『隠者』は影の中ではワープできないから。
ウァルスは汎用魔法が使えないので、『ワープ』のルーン石を用意しておくことも出来ない。
一体どのようにして脱出するつもりなのだろう。
「…そろそろ時間か」
レクトはそう呟くと、ポケットからルーン石を取り出した。
『ライト』、下級光属性魔法だ。
「お前まさか…」
「『ライト』」
直後魔法が光り、レクトの周囲は一瞬だけ光に包まれた。
だが異能を使うには十分、レクトはそのまま姿を消した。
周囲を囲んでいた巨大な黒いドームは解除され、ようやくリオは自由の身となった。
それと同時に激しい疲労が襲いかかる。
「…はあ、だるいわ」
「任務は達成か?」
ふと、背後から声がかかった。
「雑魚どもの死体でも操ってやろうかと思ったが、全部根こそぎ首を掻っ切られてた」
「でも割と助かったぜ。お前が雑魚どもに渡した『ドレイン』のおかげで『悪魔』が覚醒した」
そう感謝を伝えると、リオは後ろの人物——ディオンと目を合わせた。
「俺たちの望む世界のためだからな」
ディオンはそう呟くと、リオを掴んで『ワープ』を発動した。
彼こそが、組織の下っ端にルーン石を提供している幹部だったのだ。
《キャラクター紹介》
○ディオン・フレデミ
組織の幹部。組織のメンバーにルーン石を提供している。
剣型は『副炎』(副属性:炎)、『死神』の異能を持つ。




