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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
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第十一話 魔窟

「さてと、んじゃレクト、頼むわー」


「うん…」


 ホルスがレクトの肩を叩き、何かの合図をした。

 一体何をするのか。ジン達は興味津々でレクトを眺めていた。


「じゃあみんな…僕に触れて欲しい」


「はあ?アンタ急に何言っちゃってんの?」


「可愛い子ちゃん、こいつの能力だよ」


 ラーナをホルスが宥めると、彼もレクトに掴まった。

 ジンやラーナ、その他のメンバーも困惑しつつ、レクトに掴まった。


「…いくよ」


 レクトの合図とともに全身に薄黒い魔力が流れ、直後視界が真っ黒になった。



 ※



「おえええええ」


 終わった途端、ジンとホルスはたまらず吐き出した。

 他のメンバーも、今にも吐きそうといった表情で口を押さえている。


 先程レクトは、異能士団のメンバーを影の中に引き摺り込んだ。

 そしてそのまま影を移動し、『魔窟』の前まで来たというわけだ。


 レクトの異能『隠者』は、影にまつわる能力らしい。

 影の移動は、『自分が触れたことのある全ての影の場所に移動できる』というものだ。


 つまり、影が生成されるような場所であればどこでも自由にワープポイントにできるということ。

 そして影が生成されない場所など無い。一度触れたことのある空間であれば、どこでも移動可能ということになる。


 その代わり、影がある場所からは移動できない。

 だから世界のカケラを手に入れても、一度外に出る必要がある。


 ちなみに慣れていないものにはとてつもない吐き気が襲いかかるらしい。

 現に、レクト以外は全員体調が悪そうだ。


「どうりで探索を任されるわけだ」


 そう呟き、ジンは改めて『魔窟』を見た。


 入り口は小さめで、内部の様子は外からでは分からない。

 しかし濃度が高い魔力が大量に溢れ出していることはわかる。

 中にはどれだけ強力な魔物が巣食っているのだろうか。


「早速行きましょー!」


「っておい!」


 駆け足で中に入っていくティリアに一同は慌てて続いた。

 ティリアとしては、一刻も早く内部の魔物と手合わせをしたいのだろう。


 濃度の高い魔力に一瞬くらっとしたがすぐに慣れ、ジンは中を見た。


「おいおい…こりゃ人工物かよ…」


 ジン達は今、高台のような場所にいる。

 そして階段を降った先には、巨大な迷路があった。


 広さはウエラルド王都の三倍ほどの大きさ。

 おそらくこの何処かに世界のカケラがあるはずだ。


「でも、これ王都で人探しするより厳しいですよ」


 クロスは眉を顰めていった。


 確かにその通りだ。動かないだけマシだが広さが違いすぎる。


「単純に、魔力が濃い方に行けば良いのよ」


「いや、そんなん感知できんのか?」


「……」


 すました顔で言ったラーナは、ジンに聞かれて黙ってしまった。

 魔力がある、ないは分かっても、濃さはよく分からない。


 ドラゴン退治の時のように、温度がわかれば良いのだが。


「仕方ない、それじゃ分かれて探そう。みんな通信石は持っているよね?」


 フィクスの提案に、それぞれが通信石を取り出してみせた。


「でも1人でやれないメンバーもいる。フィクスとラーナは異能が発現してないから、誰かついててやらねえとだろ」


 ホルスはどうやら、フィクスの実力を信じていないようだ。

 それにラーナが戦っている姿は知らないが、王家というのならば十分に強いはず。


 それでも、異能が使えないというのは大きい。


「それじゃ、俺たちがつきます」


「じゃああたしはラーナさんとだねー」


 クロスとティリアが引き受けてくれるらしく、その場の全員は納得したように頷いた。

 あとはジン、ホルス、レクトが1人で行動すればいい。


「よし、突入だ!」



 ※



 さすがは魔窟の迷路、複雑だ。

 形はめちゃくちゃなので、一瞬で先程の道を忘れてしまう。


「そういえば、クロスはジンと同じ訓練生だったんだよね」


「はい、あの頃のジンさんは尊敬できる人でした」


 目を輝かせるクロスの姿に、フィクスは心を痛めた。


 ここに来た当初のクロスは、ジンのことを『兄貴』と呼んでいた。

 それはきっと尊敬していたからだろう。


 だからもう呼ばないのだ。

 もうジンのことは尊敬していないから。


「フィクスさん!敵が出ましたよ!」


 現れたトカゲのような魔物に、クロスは剣を引き抜いた。

 フィクスも腰をかがめ、『魔剣アバドン』を構えた。


 ——直後、魔物は側面からの攻撃で吹き飛ばされた。


「なんだ!?」


 迷路の角、フィクス達の死角から現れたのは、紳士服と中折帽を着用した剣士だった。


「あいつ、ヴァルタイユと同じ服ですね」


 クロスが言うと、その剣士はこちらを向いて笑い、指を鳴らした。


 すると前、後ろ、左右、全ての方向から5人ほどの剣士が現れた。

 どれも同じ服装だ。


「目標を確認」


 剣士達は一斉に剣を引き抜くと、フィクス達に襲いかかった。



 ※



 《組織のメンバーを確認!戦闘を開始する!》


 フィクスの声が聞こえ、そのまま音声は途切れてしまった。


 しかしその報告は聞くまでもない。

 ラーナ達はもうすでに、その敵を出会っているのだから。


「あたしタイマン特化の異能なんですよねーあはは…」


「はあ、どうやって複数の魔物と戦うつもりでいたのよ…」


 頭をぽりぽりかきながら笑ってみせるティリアに呆れつつ、ラーナは刀を抜いた。


 敵は5人、実力がわからないうちはなんともいえないが、以前王都で敵対した少女の実力を考えるといけそうな気がする。


「『刹那の構え』」


 カウンターモードに入ったラーナには、どんな攻撃も通用しない。

 全ての攻撃に合わせて、相手の首を切ることができる。


 炎属性の力をラーナが信じる理由はこれにある。

 カウンターに特化していると言うことはすなわち無敵、それが彼女の考え方だ。


 紳士服達は彼女の動向に警戒しながらティリアに襲いかかった。

 だがそこすらもラーナのカウンター領域にある。


「『一閃』」


 王家に継がれ続ける剣型『純炎』による剣技が1人の紳士服に襲いかかる。

 彼はそのまま正確に首を切られ、絶命した。


「『刹那の構え』」


 ティリアが感嘆の声を上げる横で、再びラーナは構えを取った。

 ずっと待ち続けていれば、こちらの勝利は確実だ。


 だが、連中も馬鹿ではない。


「『ダーク』」


 闇の下級魔法のルーン石を宙に放り投げ、そこから闇の魔力玉が発射された。

 ラーナは構えを解除しその場を離れるが、瞬時にして追って来た剣士に斬りつけられた。


「くっ」


 ティリアは何をしているのかと見てみたが、彼女は紳士服2人との戦闘に夢中だ。

 それも好戦とはいえないくらいの戦いで、こちらに手を回す余裕はなさそうだ。


 まずい、魔法と組み合わせて戦われたらカウンターが効かない。

『陽炎の舞【神威】』は複数を攻撃できる剣技だが、結局いっぺんに攻撃してもらわなければ当たらない。


(ウエラルドで魔法使う剣士なんて、アゼルスとルシファーしかいなかったんだもの。仕方ないわ)


 脳内で言い訳していると、紳士服達が再び魔法を放った。


 魔法を交わして構えを取ろうにも、そのすぐ後の攻撃を喰らってしまった。

 後退しようにも相手は2人、一瞬で距離を詰められる。


 カウンター剣技ばかり鍛えていたせいだ。

 相手の攻撃に依存したカウンター剣技を普通に繰り出しても、大した威力は出せまい。


 何故なら、ラーナの戦意解放力は20%しかないからだ。


 そのまま壁に叩きつけられ、2人の紳士服に追い詰められた。


「ラーナさん!?」


 びっくりした表情でティリアがこちらを見たが、あちらも2人の攻撃が激しい。

 まさに絶体絶命だ。


 全く情けない、これでは将来国を治めることなどできまい。

 たとえできたとしても、生き残れなければ意味がない。


 紳士服が1人、剣を振り下ろした。


(ごめんなさい、フィクス)


 何故かとある少年に心の中で謝り、目を閉じた。


 ———王族としての自覚はないのか


 耳障りな声が聞こえる。


 ———国を守るのよ


 優しくも厳しい声が聞こえる。


 そんなことわかっている。

 いちいち言われずとも自分はやれる。


 だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。



「アタシがこの国を守るから」



 ———陽炎が彼女の体を包んだ。

《キャラクター紹介》


○ラーナ・アーサー・ウエラルド

ウエラルド王国の姫君。表向きは上品だが、実はひねくれている。

剣型は『純炎』(主属性:炎)、繊維解放力は20%

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