第十話 出撃
「おーい、お前ら全員集合ー!」
以前食事に使っていたテーブルの前(今は食堂で食事をとっている)で、ウァルスが大声で叫ぶのが聞こえた。
家具が置いてあるわけではないが、今後はリビングということにしよう。
普通ウァルスが集合をかけたとしても、集まるのはホルス、フィクス、クロスくらいだろう。
だがその報告に何を感じたのか、異能士団全員が集まった。
そこにはエルドの姿もあった。何か重大な出来事が起こったのかもしれない。
ウァルスは紺色の髪の眼鏡の少年を連れてきた。
その姿は紛れもない、訓練所にいたレクト=ジェイルだった。
「レクト!?なんでここに!」
「ジン君も異能者だったんだね…よろしく」
「いや、俺は異能者じゃねえけど、お前こそ…」
「落ち着けよ」
混乱するジンを、ウァルスが宥めた。
「まあ、そういうめんどくさい話は後で。まずは『魔窟』について話そうぜ」
『魔窟』は、世界のカケラがあるダンジョンのことだ。
世界のカケラが1000年も放置され、その魔力によって生み出された大量の魔物が徘徊しているらしい。
その『魔窟』と、レクトになんの関係があるのだろうか。
「新入りのお前らに説明すると、この『隠者』のレクトは異能を使って『魔窟』を探してくれているんだ。今日はこいつが『魔窟』を見つけて、ここに帰ってきたってわけ」
「流石に僕1人じゃ『魔窟』は攻略できないからね…」
ウァルスの説明に、レクトが補足した。
なるほど、どうやらレクトが持っているらしい『隠者』の能力は、何かを捜索するのに適した能力のようだ。
それを使って『魔窟』を探し出し、メンバーで攻略する。そう言った流れなのだろう。
「今回は人数が多い、食堂を放棄しなくて済むな…」
腕組みをして話を聞いていたガイナルの呟きに、エルドが頷いた。
「ウァルス、ガイナル、ローズは残って食堂へ。レクト、ホルス、ジン、フィクス、クロス、ティリア、ラーナは『魔窟』を攻略だ」
「俺も行っていいのか?古参は厨房の流れだと思うんだが」
「レクト1人では全員をカバーすることはできない。お前も行くんだ」
ホルスの問いに、ガイナルが答えた。
確かに良い編成だ。
フィクスとラーナは異能が発現していないので、戦力は普通の剣士。さらに訓練所に途中から行けなくなってしまった訓練生をカバーするには、先輩が2人は必要だろう。
厨房も1人人数が減ったくらいでは特に支障はあるまい。
そもそも仕事の負担はほとんどガイナルにいっていたのだから。
しかし、こんな時でもエルドは何もしないようだ。
この男が修行をしているのは見たことがない。一体どこで何をしているのだろうか。
「それじゃ、ガイナルが数日分の食料を用意してくれるまでダラダラしてようぜー」
ホルスがニカッと笑い、頭の後ろで手をくみながら自室に戻っていった。
※
「ジン君も復讐のために入ったんだね…」
相変わらずのボソボソボイスでレクトは言った。
レクトの外見は一年前とほとんど変わらず、紺色の癖毛は健在だ。
印象もまたく変わっていない。
「ってことはお前もか?」
「うん…故郷をやられて…」
彼もヴァルタイユにやられたのだろう。
おそらく訓練所を離れたのは、異能士団に入って奴を捜すためだ。
(そういや、こいつの退所はよく分からなかったな)
彼はサイコパスを演じて訓練所を去った。
理由はもうはっきりした。異能士団の詳細をザパースやその他の訓練生に知られないためだ。
アゼルスやルシファー、その他大勢の兵士や騎士は異能士団を知っていたのに、ザパースは知らなかった。
もしかすると、これから育っていく剣士に悪影響を及ぼさないためにかもしれない。
そのせいで生徒のほとんどは死んでしまったわけだが。
「エリック君には酷いことをしちゃったけど…彼はその後どうだった?」
「確か今は、剣交祭での実力を認められて騎士団に入ったっぽいぞ」
エリック、マルク、バウラ、ハクは、剣交祭で個性的かつ強力な剣技を披露したため、騎士団に招待された。
今は新人として精一杯頑張っているところだろう。
騎士団に入れなかった訓練生は気の毒だが。
「お前ら、晩飯食ったら出るぞ」
ホルスがリビングの机に手をつき、2人に言った。
※
「やっと戦えるー!」
伸び伸びと背伸びをしながらティリアは城を出ていった。
戦闘好きの彼女だ、ここ最近の生活は退屈だったことだろう。
そんなに暇なら、決闘形式の訓練でも誘ってやればよかったか。
クロスがティリアについていくのを見届けると、後ろから背中をポンと叩かれた。
「ジン、生きて帰ろう」
「この任務は異能士団の第一歩となるでしょうね」
フィクスとラーナがそれぞれジンに声をかけ、ティリアの後に続いた。
「ジン、ちょっといいか」
不意に、ウァルスがジンに耳打ちした。
「赤髪の剣士に気をつけろ」
「赤髪?」
その忠告の意味がわからず、ジンは首をかしげた。
『魔窟』に存在する魔物だろうか。
しかし彼は剣士といった。魔物に加担する剣士かあるいは、世界のカケラを探している者かもしれない。
「分かった、そいつの名前はなんていうんだ?」
名前を知っていれば、会った時にもわかりやすいだろう。
ウァルスは一瞬視線を落とし、やがて言った。
「『リオ』、敵組織幹部の最大戦力だ」
《キャラクター紹介》
○レクト・ジェイル
故郷を滅ぼされ、異能士団に入団した。




