表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
53/198

第八話 戦意結界

今日も訓練が終わり、ジンは23時頃に風呂へ向かった。

廊下ですれ違う兵士たちは、ジンのことを気に留めない。


おそらく秘密の組織だから、なるべく他の立場の人間と関わらないよう、王が兵士に命令したのだ。

「異能士団の制服を着たものには関わるな」と。


ジンはそんなことどうでもいいが、フィクスやクロスがルシファーと接しているのを見たことがある。

そのうち彼らの関係が引き裂かれるのだとしたら気の毒だ。


おそらくこんな時間だ。貴族でまだ風呂に入っているものなどいまい。

兵士たちは別の風呂を使うから、また今日も空いているのだろう。


「ん?」


脱衣所に入り、一つの服が目に入った。

黒がベースで、青いラインが入ったコート…異能士団の制服だ。


誰かが入っているのだろうか。

しかしウァルスもホルスもすぐに打ち解け、フィクスたちとともに入っているはずだ。

もしかしたらガイナルかもしれない。


そんなことを考えながら扉を開けると、赤と黒の髪が目に入った。


兄、エルドだった。


「へえ、お前も風呂に入るんだな」


「……」


嫌味を込めて言ったジンの言葉に、エルドは無言で返した。

その返事に顔を顰め、ジンはさっさと体を洗って風呂に入った。


「慣れたのか?」


相変わらず冷たい声でそう聞くエルドに、ジンは鼻を鳴らした。


「一丁前に人の心配かよ、気取りやがって」


「鍛錬や仕事に支障が出ては困る。その様子だと慣れたようだな」


その後ふと思いついたようにエルドは言った。


「もっとも、お前は訓練所とやることが変わっていないようだから、慣れたかどうかなど関係はなさそうだが」


「馴れ合いのために入ったつもりはねえよ。それにお前もそうじゃねえか」


ジンは呆れたように言った。

エルドも別に他のメンバーと仲が良いわけではなかった。信頼されているわけでもない。

結局彼も、ただ修行をしているだけだ。


「つまり、お前がやっていることは俺と同じと言うことだ」


「あ?」


「復讐心にかられて、ヴァルタイユを殺すためだけに鍛える。他の団員ともまともにコミュニケーションを取らない。同じだ」


何食わぬ顔でそう言うエルドに、ジンは唖然とした。

何を言っているのだこの男は。ジンはエルドのような非情な人間ではない。


「ふん、まあいい」


エルドは腕をかけ、上半身を倒してため息をついた。

もう話すことはない。そんな感じだ。


「おい」


「なんだ」


「ヴァルタイユって何者なんだ?」


前から散々ヴァルタイユが憎い憎いと言ってきたが、肝心な素性がわからない。

禁忌の魔法を使うために世界のカケラを集めているとは聞いたが、そもそも奴はどこからきたのだろう。


「詳しくは俺も知らない。俺が会った時は、ただの旅人と偽っていたからな」


「その様子だと、しばらく行動をともにしていたみてえだな」


ジンの言葉に、エルドは顔を顰めた。


「イリアは良い子だったな」


「あ?なんだよ急に」


「お前の気持ちが、一瞬良く分かった」


目を瞑ると、エルドは再び嘆息した。


「カエデという名の少女だった。彼女と俺とヴァルタイユの3人で旅をしていたんだ。道中で奴に世界の危機の話を聞かされ、俺たちは『魔窟』へ向かった」


「『魔窟』…世界のカケラがある場所か」


「ああ、そこで俺たちはカケラを手に入れた。そこで奴が裏切り、カエデが死んだ」


「……」


なんとも言えない気持ちになった。

彼が復讐を誓うのも当然だ、しかしエルドの態度がどうしても気に食わなかった。


おそらくエルドはカエデが死んだ時点ですでに心が壊れ、復讐以外のもの全てを切り落とすようになったのだろう。

だからイリアが死んで悲しむジンを見ても、何も思うことはなかった。


仕方ないで済まされてしまうのだろう。それがジンは嫌だった。

少しでもエルドが責任を感じてくれたのだとすれば、ジンもエルドとまた歩んで行けたかもしれないのに。





寝る前に1時間だけ練習をしようと、ジンは異能士団本部の大広間へ向かった。

ここには特に設備はないが、とにかく広いため練習にうってつけだ。


周囲に誰かの部屋があるわけでもないので、存分に暴れられる。


大広間ついた途端、人かげが見えてジンは思わず立ち止まった。

赤い髪の少女だ。


「イリア!?」


慌ててジンは駆け寄ったが、振り向いた顔は別のものだった。

ローズ・ベルセルク、異能士団の仲間だ。


「イリア…?どなたですか?」


心地よく可愛らしい声色でローズは聞いた。


「いや、なんでもない。人違いだった」


頭をぽりぽりとかきながらジンはローズを見た。


良く見たら全然違う。

ローズは背も低いし、髪色もイリアより鮮やかだ。その色はまるで鮮血を思わせる。


おそらく先程のエルドとの会話で、イリアのことを思ってしまったからだろう。

深いため息をつくと、ジンはエルドの言った言葉を思い出した。


「他の団員とまともにコミュニケーションを取らない」と彼は言った。

馴れ合いはしないなんて言ってはいたが、ある程度親交を深めておいた方がいいかもしれない。

それに、入所当初のマルクに自分で同じようなことを言った気がする。


「ローズはこんな夜中に何やってんだ?」


「あの…大した用はありません。先程広間で魔法の研究をしていて、今帰るところです」


ほう、この少女も魔法が使えるのか。


クロスもルシファーに勝ったと聞いた。

ウァルスといいエルドといい、この組織は戦力だけは王国最強クラスかもしれない。


「そういえばずっと気になっていたんですけど…ジンさんは『戦意結界』を使わないんですか?」


「『戦意結界』…?なんだそれ」


「剣交祭で使っていなかったので…。やっぱりご存知ないんですね」


そういうと、ローズは広間の中心に立った。


「よければ習得してみませんか…?こう見えて戦意の扱いは得意なんです」


ヴァルタイユを殺すことが目的のジンにとって、断る理由はなかった。


「それで、『戦意結界』ってなんなんだ?名称からして戦意が関係してそうだが」


「『戦意結界』は戦意操作によって魔力の循環を早め…魔力攻撃の耐性を上げる技のことです」


戦意操作をすることで魔力耐性を上げる…正直よく分からない。


戦意操作は戦意解放力の分だけ力が増す。

すでに解放力を全て引き出せているジンなら、とっくに使えているはずだ。


「もしかして、戦意操作って色んなやり方があるのか?」


「はい…通常は戦意を身体中の筋肉に届けることによって身体能力を上昇させ、攻撃力と速さを上げます。…ですが『戦意結界』は自身の体に流れる魔力に戦意を送り、魔力の循環速度を早めることで結界を張ります。…戦場ではこの二つの操作方法を使うことで…戦いを有利に進めることができます」


つまり攻撃する時や移動する時は筋肉に戦意を送り、相手の攻撃が自分に届きそうになれば魔力に戦意を送って戦えということだ。


「試しに手本を見せてくれねえか?」


「…わかりました」


ローズはすう…と息を吸うと、目を閉じた。

そしてイメージがついたのか、やがて目を見開いた。


「——ッ!」


直後、怖気がジンの背を伝った。

ローズが抱いた戦意が、常識をはるかに超えていたからだ。


彼女の周りには、いつもジンが見ている赤いオーラとは訳が違う。

鮮やかな赤がものすごい量溢れ出している。これが『戦意結界』なのだろうか。

それとも、彼女の特権だろうか。


先ほどまでの彼女の雰囲気とは一転して、今はすぐにでも暴れそうなほど戦意がみなぎっている。

これは、彼女の異能と関係しているのだろう。


ローズが戦意操作を止めると、周囲の空気が元に戻った。


「早速やってみますか…?」


「あ、ああ」





戦意操作ができれば、思いの外難しいということはなかった。

初めはどうしても筋肉に戦意が入ってしまったので苦戦したが、30分程度で普通に使えるようになった。


この技術を使えば、剣技耐性が上がり怪我が抑えられる。

そうすれば、団員と決闘形式で訓練することもできるかもしれない。


「ありがとな、ローズ」


「いえ、あの…ジンさん」


ローズは言いづらそうにもじもじしている。

しかし、やがて決心したように頷いた。


「ジンさんの気持ちは分かります…大切な人を殺されて、恨むのは仕方ないことです。でも…もし相手にも理由があったら…?」


「どういうことだ?」


「もしかしたら話し合いで解決できるかもしれない…そう思うんです」


その話に、ジンは顔を顰めた。


この少女、どうやらヴァルタイユ側にまだ希望があると信じているようだ。

あるいは向こう側に知人がいるとかかもしれない。


「ローズ、お前は優しいんだな」


「…ジンさん…?」


「でも俺は俺の道を行く。イリアのためにも、クロスとティリアのためにもだ」


ジンの決意は揺るがない。

そんな様子に、ローズは悲しげに目を伏せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ