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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第一章 黒炎の剣技
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第五話 強者の敬意

 刹那のうちに、木製の刃が空を斬る。そのスピードは通常の人間では目で追えないほどの速さだ。

 刃はやがて相手の元へ届くが、相手もすかさず超スピードでそれを交わす。

 アゼルスに敗北してから1週間経った現在、ジン対エリックの決闘が行われている最中だった。


 エリックは大剣で『副水』の剣技を使い、高火力を出すと共にジンを翻弄していた。

 しかしジンも負けてはいない。剣技を使えないながらも、必死で磨いてきたセンスと身体能力で、しっかりエリックにくらいついている。


 やがてジンの一撃がエリックの脇腹へ命中し、この決闘はジンの勝利となった。


「ふぅ、いや…疲れたな。ジンとの戦闘は頭と目が疲れる。やはり戦意解放力5%の差は大きいのだろうな」


「何言ってんだ、昨日はお前が勝ってたじゃねえか」


 爽やかな笑みを浮かべて言い訳をするエリックに、ジンは呆れたように言った。


 戦意解放力とは、完全に生まれ持った才能によって獲得できるものであった。

 詳しいことは、入所してから四日後、皆が戦意を無事操作できるようになってからザパースに教えてもらった。


 なんでも戦意を解放できる限界数は、人によって限界があるのだそうだ。

 そしてその解放度を数値で表したものが、戦意解放力。その戦意解放力の大きさに応じて、身体能力が強化される。


 ジンの場合は65%、エリックの場合は60%が、彼らの戦意解放力である。


「しかし事実5%の差は大きい。君がアゼルス君に勝てなかった原因として、結構な部分を占めるんじゃないかな」


「そう考えると15%の差があるのは大変だね…」


 立会人をつとめたマルクとレクトは、二人とも考え込むような仕草をして言った。


 本来計測した解放力は非公開なのだが、アゼルスは最早訓練所内で最強なので、どこから流れた情報なのかすでに皆が知っている。

 アゼルスの戦意解放力は、計測によってなんと80%だということが判明していた。

 そして解放力の差は、戦闘力にかなりの影響を与える。才能とは恐ろしいものだ。


「お前らカッコつけて分析とか色々してるけどさ、何で決闘申し込まないんだよ」


 ジンは不機嫌そうに聞いた。

 マルクとレクトは、訓練所生活が始まって以来ずっとジンとエリックの決闘の立会人を務めているだけだった。


「何故って、自分の手の内を明かすような馬鹿な真似はしない主義なんでね」


 マルクは嘲るように言うと、ジンとエリックに指をさした。


「君たち、そんなことでは『剣交祭』で優勝出来ないぞ」


「剣交祭?何だそりゃ」


「知らなかったのか?君は勉強熱心だったはずなんだが…もしかしてエリックもかい?」


「いや、俺は知っていたぞ、この訓練所最大の行事といっても良いからな。ジンが知らないとは思わなかったが」


 そんな二人のいいように、ジンは大きなため息を吐いた。


「あのだな、俺は何だそりゃって聞いたんだ。内容説明から入ってくれねえかな?」


「あの…君…側から見てると凄く偉そうな態度だよ」


 ジンより少し小さなため息を吐くと、傍で一連の流れを見ていたレクトが口を開いた。


 なんでもレクトの話だと、剣交祭は訓練生のみで行う勝ち上がり式の決闘大会といったものらしい。

 ルールは通常の決闘と同様で、立会人は予選では通常通り、本選では所長であるザパースが務める。

 剣交祭で優勝した場合、将来色々と有利になるらしい。


「こんな大事なこと知っておきながら、エリックは何で手の内を明かすような真似をしたんだ?」


 ジンは素直な疑問を口にした。

 当然、将来良い地位につきたければ、剣交祭での優勝はかなり優先すべきことだ。

 その大会で手の内をあらかじめ明かしていれば対策もされ易く、優勝も困難になる。

 エリックのような行動は、自分で未来を閉ざすようなものだ。

 だがエリックは、そんな観念をまるで気にしていないようだった。


「そんなの、剣士らしくないじゃないか」


「え?」


「俺が憧れを抱いた剣士達は、正々堂々と戦っていたぞ。そんな手を隠すような卑怯な真似はせず、その戦い全てに全力を注いでいたはずだ」


 微かな微笑みを浮かべて語るエリックの瞳には、かつてジンやマルク、レクトが浮かべていたであろう、純粋な憧れが映っていた。

 どこまでも純粋なその熱意は、その場にいた全員を納得させた。

 エリックの語る剣士の在り方は、確かに理想的な剣士だった。それに関しては、誰も文句は言うまい。

 だが、手の内を全て明かしてしまった剣士では、十分に人々を守れないと言うのも事実だ。

 実際この時代で最強の剣士エルドの戦う姿を、ジンは生まれてこの方見たことがない。エルドは剣聖としての座を、弟に奪われることがないようそうしているのだろう。


 だから面白い。

 この訓練所は、さまざまな剣士の在り方を唱える生徒が集まる。

 そして思い浮かべる剣士像によって、彼らの戦い方も変わる。

 剣交祭は、その特徴が大きく現れるため、個人の成長をより早める効果もあるのだろう。


「やっぱりいいな、剣ってのは」


「それに関しては君に同感だ。僕も改めて思ったよ」


 ジンが思わずつぶやいた言葉に、薄笑いを浮かべてマルクが同意する。

 目的は、今隣にいるライバルを超えて、剣交祭で勝利する。

 まずはアゼルスを越えるところからだ。


「よし、俺の分の決闘申込は終わったから、次はエリックの分使ってもう一回決闘だ!」


「ああ、次は負けないからな」



 ※



「はあ〜今日も疲れたね〜」


 猫のように背伸びをしたイリアは、自分のベッドに転がり込んだ。


 あまり実力が無いイリアに決闘を申し込む者は少ないため、彼女は訓練を人一倍頑張っていた。

 それによる疲れが1日の終わりに一気に襲ってくるのだ。


「おつかれイリア」


 アゼルスはイリアのベッドに座り、カップに注いだ茶をくれた。

 イリアは礼を言ってカップを受け取り、部屋を見渡した。


「あれ、ナイとレイはまだ帰ってないんだ」


「彼女たち、談話室のムードメーカーだもの。仕方ないわね」


 イリアとアゼルスは、ベッドでの談話を日課としている。

 そのおかげか、今ではすっかり仲が良くなった。


「あれ?」


 イリアはふとカーテンの外を見て、首をかしげた。

 ジンがルームメイトと決闘しているのを見つけたのだ。

 横からアゼルスが首を出して言った。


「彼、本当に熱心ね」


「でしょ?私の自慢のジン君だもん」


 イリアは誇らしげに言った。


 幼馴染のジンは、本当に剣が好きだった。

 少し悲しいが、イリアに会いに来る時はいつも特訓に誘うときで、親に怒られる時間までよく特訓したものだ。

 そんなジンがいたからこそ、イリアも頑張れた。

 彼の存在はイリアにとって、かけがえのないものなのだ。


「…剣聖の家に生まれた者、プレッシャーも相当かかっているでしょうね」


「え?」


「いえ、私も少し良い家に生まれたから、同情してしまったの」


 アゼルスは寂しそうに笑うと、ジンを指さした。


「でも彼すごいわ。きっと相当なプレッシャーがあって、あの有名なエルド・デルフ・エスパーダがいるにも関わらず、意思が歪んで無い。彼が将来どんな職につこうとしているのか私は知らないけど、きっと妥協したことなんてないのね」


「あはは、私の知る限りだと折れそうになったことは何度かあるよ…」


 アゼルスの純粋な敬意に、イリアは苦笑いで返した。


「でもやっぱり凄いよ。何度も折れそうになったけど、今はこうして頑張ってるんだもの。そのうちアゼルスを抜かすかも」


「ふふ、もしそんなことがあったら……あら?」


 ふとアゼルスが目を細めた。

 窓の外では、ジンがこちらに気付いたのか、何やら指をさして叫んでいる。

 口の動きは見えなかったが、イリアには何と言ったのか分かったような気がした。


「ジン君、絶対勝ってやるからなって、言ってる気がする」


 イリアが呟くと、アゼルスは一瞬キョトンとしたような顔をした。

 それから不敵な笑みを浮かべると、窓際から離れて部屋の出口へ向かった。


「どこいくの?」


「少し訓練してくるわ」


 立ち止まって、アゼルスは言った。


「彼の目標でいられるなんて光栄だもの。この立場をずっと守れるようにしたい」

《キャラクター紹介》


○ジン・デルフ・エスパーダ

剣聖の家系に生まれた第一章の主人公。

剣型は『黒炎』(主属性:?、副属性:炎)

戦意解放力は65%。


○エリック・エイディル

ジンのルームメイト。

剣型は『副水』(副属性:水)

戦意解放力は60%。


○アゼルス・アスプロス

白竜族の少女。訓練所内でもトップクラスの実力を誇る。

剣型は『黒氷』(主属性:?、副属性:氷)

戦意解放力は80%。

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