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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第十二話 天風剣

「回復魔法が苦手な人って結構いるのよねー」


 呑気な顔をしながら、マレンは言った。


 実はマレン以外の3人、回復魔法の練度が致命的なのである。

 やはり攻撃魔法にロマンを感じてしまうのだ。仕方あるまい。


「エイルス先生よく言ってるでしょ、魔法は人を守るためのものでもあるって」


「そういえば言っていたような気もするけど」


「…攻撃こそ最大の防御」


「ルイネ、そりゃ脳筋の考えだぞ」


「と、脳筋が言っております」


「な!お前…」


 顔を真っ赤にしたマーカスの前で、マレンは腹を抱えて笑ってみせた。

 そんな仲間の様子に嘆息すると、リーフは魔法陣を見直してみることにした。


 魔法を使うごとに精度が増す、ならば完璧な魔力運搬でひたすら回復魔法を放てばいいだけのこと。

 魔法陣を見ながら魔法を放てば、自然と魔力運搬の精度も上がるはずだ。


「…あたしにも見せて」


 属性魔法を完璧に使いこなすルイネでも、回復魔法は専門外のようだ。

 何故なら、回復魔法は他の魔力回路と少し構造のパターンが違うため、他の魔法を使っても上達しないからだ。

 属性魔法と開発魔法をずっとやっていたルイネには厳しいものがあるだろう。


「とにかく魔法を撃ち続けよう」


 リーフの言葉にルイネは頷き中級回復魔法『リカバリー』を放った。


 回復魔法は初球と中級しか無く、上級の魔法はこの世で一人しか使うことができないらしい。

 クアランド王ですら不可能だ。


 異能『恋人』のみが使える上級回復魔法『慈愛の法式』ならば、致命傷ですら治してしまうという脅威的な回復力を持つ。

 1日に一度しか使えないという欠点があるが、『恋人』の回復魔法には全体的にバフがかかっている。『ヒール』や『リカバリー』でも十分に回復性能を持つだろう。


 回復魔法の開発にチャレンジした者も多くいる。

 しかし誰も成果を上げる事は出来なかった。

 回復魔法は、『ヒール』と『リカバリー』でやりくりするしかないのだ。


 その分、二つの魔法が使えることは大きな利点となるわけだが。


「リーフ、武器が欲しくはないか?」


 唐突に、エイルスが背後に現れた。


「うあ!?脅かさないでくださいよ!」


「剣が欲しいはずだ、私がプレゼントしよう」


 リーフの苦情など聞きもせずに、エイルスは懐から一本の剣を取り出した。

 急な話に戸惑いながらも、リーフは剣を確認した。


 両刃剣だったが、左右で色が違う。

 片方は美しい黄緑の刃で、流れが見えるほどに美しく濃厚な魔力が刃を循環している。

 だがもう片方は血の色で、どことなく不安を感じさせるオーラが漂っている。


「『天風剣』と言う。効果を見せるから表に出てくれ」


 そういうと、エイルスは生徒を引き連れて外に出た。



 ※



「先生はどうして、そんなに僕を気にかけてくれるんですか?」


 数日前、リーフがエイルスに聞いたことだ。

 何故だかエイルスはリーフを贔屓ひいきしていて、他の生徒よりも多くの時間練習に付き合ってくれる。

 もう新入生ではないのだ、理由は気になるものだろう。


 エイルスは最初は何も言わなかった。


 どこか遠くを見るように目を背け、嘆息してから答えた。


「分からない、その自覚はなかった。しかしもし理由を挙げるとすれば…君が息子に似ていたからかもしれない」


「息子?」


「ああ、遠い昔にね。私が原因で、離れ離れになってしまった」


 そういい、エイルスは話し始めた。


 外見は全くリーフに似ていない。

 しかし誰かを救いたいという正義感や、魔法に対する情熱は同じだった。


 また、少し無知なところもあった。周囲よりも知識が少ないのだ。

 だからたくさんエイルスに質問してくれた。

 そんな様子が、リーフに似ているのだと。


「ああ、喋り方も似ていたかな」


「……」


 だとすれば、エイルスは自分のことを息子として見ているのだろうか。

 彼女は喋り方こそ独特だが、確かに『母』と言ったような雰囲気を醸し出している。


 この女性は、頼りにしていい人物だ。

 これから先も守ってくれるだろう。



 ※



 そう思っていた。

 エイルスは優しく、生徒たちを守ってくれる教師なのだと思っていた。


 だから天風剣を自身の腕に刺して言った言葉に驚愕した。


「この剣は相手の血を吸収して強化される。これから多くの戦いを経験する君にとっては大きな助けとなってくれるはずだ」


 ドクン、と音を立てて天風剣の魔力は蠢いていた。


 彼女が長い間研究して作った剣と聞いて期待して見ればこんなものだ。

『魔法とは人を守るためにある』、その言葉は戯言だったのか。


「あなたは僕に、人を傷つけさせようとしているのか」


 ならば、彼女の元で学ぶなどまっぴらごめんだ。

 自主退学、そんな言葉が脳裏によぎった。

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