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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第十一話 千意の正体

 リーフが暴走化した、その事実を聞いてリーフは驚愕した。

 あの力に頼ればかなりの戦力が期待できたのに、味方に攻撃するのならば使い物にならない。


 そしてリーフに襲われているエイルスを助けたのが、この女性だ。


 どうやらゼウスの子孫は代々、魔導兵団長を務めてきたらしい。

 ライ・ヘロウル・ゼウスと名乗った二十代前半くらいの女性は、簡単に自分の自己紹介を済ませて早速本題に入った。


「まずグラウィスの能力について話すためには、過去に起きた出来事を話す必要があるわ」


 そう言って、ライは話し始めた。


 約1200年前、まだ勇者と魔王が存在しなかった時代。

 クアランドは12人の英雄が円卓によって治めていた。


 そんな時代の中、ゼウス、ポセイドン、ハデスの三兄弟は魔法の極致を目指していた。

 しかし研究はなかなかうまくいかない。人間の体の構造すら曖昧な時代だったのだから。


 ハデスは、人間の体を調べることにした。


 クアランド王都のとある区画に住む住人たちに、ハデスの研究室間近に専用の住居を与え、彼らの身体構造を観察するための魔法をつくり観察した。

 彼が調べ上げた身体構造の論文はたちまち有名になる。


 しかしそれだけでは彼の好奇心はおさまらなかった。

 さらに人間について調べ、魔法の極致に至ろうとしたのだ。


 やがて最終的には、人間を『純粋な魔力で作られた魔物』にする実験を始めてしまった。

 今までの実験は被験者に害がないのに対し、今回はそうはいかなかった。


 そんな中、一人の少女が旗を掲げた。


 天才魔法使いのコノハという人物だった。


 彼女は二十歳に満たない少女であるにも関わらず、数々の研究結果を出していた。

 そして彼女にしか扱えない最強の力を生み出したのだ。


「それが『魔法強化【千意】(サウザントオーブ)』、1000人分の戦意が秘められている最強の力よ」


「1000人分…戦意解放力が1000%というわけではなく?」


「ええ、1000人分よ」


 どうやら『魔法強化【千意】(サウザントオーブ)』は、戦えない民の戦意を寄せ集めて作ったものらしい。

 解放力1000%の力はとうに超えているだろう。


「そしてグラウィスは暴走化していた。これはおそらく、1000人分の戦意に飲み込まれてしまっているから。君が意識を保てるレベルまでに戦意を抱けなければ、その力は使い物にならないかもしれないわね」


 そんなことは不可能だ。彼女も分かっているのだろう。

 これほどの力を使いこなすには、やはりそれに見合った力が必要なのだ。


 しかしリーフが感じた戦意はたった一人のものだった。

 何故かそれだけが引っかかる。


 もしかすると、この力が制御できない理由は他にあるのかもしれない。


「そして次は、ディオン・フレデミの処罰について話すわ」


「……!」


 そうか、このライという人は国の上層部の人間だ。

 ディオンがしたことがわかれば、取る行動は決まっている。


「結論から言うと、退学よ」


 当然、そうなるだろう。

 しかしこれでは、長年のディオンの苦しみとルイネの努力が全て無駄になってしまう。


「…なんとか許してはもらえないだろうか」


 エイルスも、無駄とわかっていてもなんとか彼を残したいようだ。

 当然、生徒の苦しみをエイルスは間近で見てきた。受け入れたくはないだろう。


 しかしライはあの姉弟の心境を知らない。


「知っての通り、ディオン・フレデミはハデスに協力するという罪を犯した。もしもっと重要な仕事を任されていたとしたら、この国は滅んでいてもおかしくはない。然るべき対応だと思うわ」


 決定的な発言に、リーフとエイルスは黙るしかない。

 どう足掻いても、ディオンと別れるしかないようだ。


 しかも彼は身寄りがない。

 この先旅をして生きていくこといなるだろう。


「そんな残酷なこと…」


 まだ14歳…ウエラルドであれば学校に通っているような歳だ。

 そんな少年に旅を強要するのはなんとも酷な話ではないか。



 ※



 まずは、ルイネがライに襲いかかった。

 しかしライは的確に彼女の魔法を捌き、拘束魔法で捕えてしまった。


 続いてディオンが交渉に出た。

 しかしそれは交渉と呼べるものではなくただの懇願だった。


「いい加減諦めろよ二人とも、少しは落ち着いて状況を見ろ」


 いつまでも抵抗する二人に、マーカスが苛立ちまじりに言った。


 いつもなら、リーフはマーカスに発言を訂正するように言った。

 しかし今回は彼の言葉を否定できなかった。


 いい加減諦めろ、その通りだ。

 相手は英雄の末裔、そんな彼女の権力の前で何ができるというのか。

 ディオンが罪を犯したのは事実だ。こちらはもう言い訳と懇願しかできない。


「明日までに荷物をまとめてこの学校を出ていきなさい。優秀な魔法使いのたまご達の勉学の邪魔をしないで」


 最後に冷徹な言葉を放ち、ライは学校を去った。

 おそらく後日確認に来るだろう。


 ディオンは小さく笑うと、「リーフ、姉さん、ありがとう」と言って、何も持たずに学校を去ろうとした。


「待ってくれ、せめて明日までは最後の時を…」


「そうしたら別れの時が辛いじゃないか」


 見ればディオンは泣いていた。

『死神』のせいで生徒と馴れ合えなかったとしても、別れは辛いのだろう。


「じゃあな」


 姉には目を向けず、ディオンはついに去っていった。

 ルイネは何も言わなかった。



 ※



「なあリーフ、なんでルイネは平気なんだ?」


 ディオンが去ってから数週間後、リーフとマーカスはリビングのテーブルでチェスをしていた。

 マーカスの戦法が弱い理由が『頭が悪いから』と決定づけられ、エイルスが王都で買ってきたのだ。


 リーフは、そんなマーカスに付き合ってやっている。


「あいつ弟に執着してただろ、なのに全然泣かねえし、なんなら前より会話するようになったし。リーフもだいぶ仲良くなっただろ」


「あー」


 まずい、痛いところをつかれた。


 実はディオンがいなくなった夜、ルイネは精神が崩壊していた。

 気づけば涙を流していたし、話しかけても何も言わない。


 リーフは、彼女をそっと抱きしめてやった。

 それで、ずっと慰めの言葉をかけていた。

 一晩中、彼女の涙を胸で受け止めていた。


 こんなことで彼女の気持ちが癒えるとは思っていなかったのだが、次の日からは大丈夫になった。


 もしかしたら、リーフが彼女の心の拠り所になれたのかもしれない。

 たまに「…一緒に寝たい」なんて言ったこともあったので可能性は高い。


「きっと彼女、自力で乗り越えたんだよ」


「なるほど、お前まんまと俺の策に引っかかったな!見ろ!次でチェックメイトだぜ!」


「…その前に、キングへの道がガラ空きだ。チェックメイト」


「ばッ!ナイトの動き覚えらんねえ!」


 頭を抱えるマーカスに、リーフは苦笑した。


 今のところマーカスはリーフに勝てていない。

 少しずつ強くなってはいるのだが、全てのコマの移動方法を覚えられていない。

 まだまだ頭がついていっていないようだ。


「じゃあ、僕もう寝るよ」


「クソ、明日は勝つからな!」


 吠えるマーカスに手を振り、リーフは二階に上がった。

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