第十話 赤い斬撃
「『シールドフォース』!」
繰り出されたハデスの攻撃を、リーフは3枚の『シールドオーラ』で防いだ。
大丈夫、落ち着いてやり合えば敵わない相手ではない。
その程度の認識だった。
「ごはっ!?」
「別に不満ってわけじゃないんだけどさ、君ちょと英雄舐めすぎじゃない?」
ハデスは未知の開発魔法を使ってくる。
先程それをくらい、血反吐が飛び出したのだ。
確かにリーフは舐めていたのかもしれない。
英雄と称される魔法使いに、新人が勝てるはずがない。
「リーフ!」
結界の外では、ディオンとルイネがなす術もなく結界に手をついていた。
リーフの勝利を祈るかのように。
「二人とも逃げてくれ、せめてエイルス先生の元へ」
「…でもリーフが死んでしまう」
「どちらにせよだよ。僕が時間を稼ぐから」
二人はしばらくその場に立ちすくんでいたが、やがて背を向けて走り出した。
彼らのことだ、たどり着いたらエイルスを呼んでくれるはず。
「それまで僕が生きていればいいんだけど」
「残念ながら生かすつもりはない。君は俺再臨の最初の生贄になるってことだよ」
そういうと、ハデスは呑気に魔法陣を設置し始めた。
リーフがかかっていっても、対処できる自信があるのだろう。
そして魔法陣を設置したということは、強力な儀式魔法を発動する気だ。
魔法陣が設置してあれば、儀式魔法の手順を大きく省くことができる。
「させないぞ、『テンペスト』———ッッッ!!!」
無謀だと分かっていても、魔法をハデスに撃ち続けるしかない。
それにもしかしたら、上級魔法なら傷くらいは与えられるかもしれない。
上級魔法が放てるようになるまで、中級魔法を放ち続ける。
しかし———
「せっかくお絵描きして待っていようと思ったのに、君が放つ攻撃がそんな貧弱だとは。俺もう飽きちゃった」
———その時間はすでに、リーフが無駄にしてしまっていた。
「闇属性上級魔法『死灰儀ゲヘナ』」
風属性の上級魔法を嘲るかのように、ハデスは闇の上級魔法を放った。
決着がつく、あまりにも早い。
「ここで死ぬのが、僕の運命…?」
ならば、自分はなんのためにこの地へ来たのか。
こんなところで終わるわけにはいかない。
もっと戦って、勝つまで抗え。
死にそうになっても、勝つまで立ち上がれ。
まるでどこかで抱いたような思想が脳裏をよぎる。
もうすでに自分じゃないのかもしれない。
リーフは、心に『戦意』を抱いた。
その行為こそが、リーフのうちに眠る魂を呼び覚ました。
直後、視界が真っ赤に染まった。
※
「『死灰儀ゲヘナ』」
ハデスが放った巨大な黒球は、自分の視界を覆い尽くすほどだった。
ハデスがこの1000年ちょっとで磨いてきた魔力精度、それは天災級のものだ。
たった一人の少年を殺すことなど容易い。
そもそも、この世界に戻って来た時点で世界を滅ぼすなど容易いことだったのだ。
アクトは大した力を持っていないし、現代の国王たちは昔に比べて貧弱だ。
クアランドの国王であるアラスタ・グレモル・クアランド、そして組織のリーダーであるヴァルタイユ・ミラ・バルザイド、彼らだけが数少ない脅威ではあるが、二人はハデスに対して全く興味を示していない。
ならば、少しずつ世界を絶望で染め上げ、ショーを楽しもうではないか。
そう思っていた。
赤い刃が空を切り、ハデスの魔法を破壊するまでは。
「…刃だと?」
リーフは剣を持っていなかった。
剣を持っていないのならば、赤い斬撃など当然彼が放てるはずもない。
墓地の中央で赤いオーラを纏うリーフは、赤く染まった眼光を真っ直ぐハデスに向けていた。
その状態はまるで、先程の彼とは別人のようだった。
構えも変わり、手刀に赤いオーラを纏わせている。おそらく先程の斬撃はアレによるものだ。
リーフは地を蹴り、即座にハデスの背後をとった。
速い、ハデスですら目に負えなかった。
現在戦意操作を行なっていないというのもあるが、それでもハデスの視界から逃げるなど相当の速さだ。
まるで狂戦士の如く剣を振りかざして迫るその姿に似たものが、不意にハデスの脳裏をよぎった。
そう、その動きにハデスは見覚えがあった。
「『魔法強化【千意】』……君はコノハか」
「……」
赤い刃、手刀で戦うリーフは、ハデスの問いに答えはしない。
彼の瞳に宿るのは意識ではなく、憎悪と信念のみだ。
今度こそまともに斬撃をくらい、ハデスは地上に避難した。
ハデスが本気を出せば負けることはないが、ここで本気を出すわけにはいかない。
強者は常に、手の内を隠しておかなければならない。そのためには、不必要な戦闘は避けるべきだ。
直後、真横からものすごい水圧の水が大量に噴射された。
「教師か…」
気づけば墓地の入り口に、息を切らしたエイルスがこちらに手のひらを向けていた。
もうここにとどまる理由はない。
「さらばだ、俺は戻ってくるぞ!」
明るく声高らかに叫ぶと、ハデスは瞬時にして姿を消した。
———暴走化したリーフがエイルスに遅かかるのを尻目に。
※
気がつくと、そこはいつものベッドだった。
前、マーカス戦で味わったような感覚が再び襲いかかってきたのだ。
その後からもう意識はなかった。
だが前回と違うところがある。
それは、身体中が痛いことだ。
マーカス戦での事件では、衝撃波が起こっただけだという。
もしかしたら今回は、何かしら体を動かしたのかもしれない。
「良かったリーフ、目を覚ましてくれたのだな」
エイルスが部屋に入室し、後ろから見知らぬ女性がついてきた。
あれは本で見た『魔導兵』の服だ。勲章がついているので、もしかすると隊長とかかもしれない。
髪は黄色と黄緑が混じったような色で、静電気みたいに髪が散らかっていた。
「初めましてリーフ・グラウィス、私は今代のゼウス兼魔導兵団長、ライ・ヘロウル・ゼウス。君のその能力と、『死神』ディオンの処罰について話に来たの」
《キャラクター紹介》
○ライ・ヘロウル・ゼウス
英雄ゼウスの子孫で魔導兵団の団長。
厳格な性格を持ち、とにかく効率を求める。




