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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第九話 禁忌の魔法

「すまない、まさか君にそこまで信頼されていたとは」


「いや、俺が人に頼るようなことをしたからだ。もっと考えるべきだった」


 しかし今回の事件、ほとんど何も問題がないように思える。


 ディオンは『死神』を捨てることを望んでいて、ハデスは異能が貰えればマレンを返してくれると言っていた。

 大人しく異能を渡せば済むことだ。


「リーフ、それはピュアすぎねえか」


 リーフの考えは、マーカスに真っ向から否定された。


「奴は冥王だぞ。『死神』の力を使って何をするか分かったもんじゃない」


「…そうだった」


 浅はかだった。『死神』の希少性をよく理解できていなかったようだ。


 だとすれば今回の事件は大問題だ。

 ハデスの目を欺いてどうにかマレンを取り戻す必要がある。

 でなければマレンは死に、ディオンは処罰を受けてしまう。


「…あたしがマレンを助けに行く」


 不意にルイネが口を開いた。 


「一人で行くのか」


「ディオンの尻拭いはあたしが」


「ダメだ、許可できない」


 エイルスは彼女の意見に反対している。

 もちろんリーフも反対だ。危険なうえ成功率も低く、メリットがない。


「先生がいくってのはできねえのか」


「いや、私が赴くわけにも行くまい。見なさい」


 そういうと、エイルスは自分の腕を見せた。

 そこには禍々しい紋章が刻まれている。


「一時的に相手の場所を特定できるようになる『スキャン』という闇の魔法だ。あの男、余計な警戒をしてくれる」


「闇属性なんですか?」


「ああ、自在に形を変える闇属性と水属性は開発魔法と相性がいいんだ。冥王のおかげで危険な魔法がいくつも流れてしまった」


 やはり彼が過去にこの国に及ぼした影響は凄まじいものらしい。

 現代の人が恐れていても当然だ。


「なら、ルイネには僕がついていきます」


「…リーフがか?実践経験は少ないだろう」


「でも、他に方法はあるんですか」


「……」


 エイルスとて、生徒に行かせる以外方法はないと分かっているのだろう。

 今から王都に救援要請するのでは遅すぎる。気まぐれでハデスがマレンを殺していてもおかしくはない。


「…分かった。3人でいくといい。ただし、無茶はするな。最悪の場合『死神』を渡して逃げるんだ」


「わかりました」


 そういうと、リーフ達3人は『英雄の墓地』を目指して走り始めた。

 リーフは知らないが、他の二人は場所を知っているようだった。


「必ず戻れ、全員でな」


 祈るように、エイルスは呟いた。



 ※



『英雄の墓地』は、かつて存在した11人の英雄の墓がある墓地のことだ。

 クアランドでは一部の人間が、英雄から恩恵をもらえるとしてここに拝みに来るらしい。


 周囲は濃い霧に包まれており、いかにも魔物が出そうな雰囲気である。


 マレンは墓地の柵に魔力の縄で腕を縛り付けられ、その側をハデスが落ち着きなくウロウロしていた。


「まだかな、割と楽しみ」


 そんなことを呟いて、ハデスはマレンを見た。


「なんか昔話でも聞く?」


「いりません」


「おいおい冗談だろ、物語は知っておいて損はないんだぞ」


 ハデスは信じられないと言った素振りを見せると、また背を向けて歩き始めた。

 すると…


「約束通り一人で来たぞ」


 ポケットに手を突っ込んで、ディオンはいつもにまして鋭い目つきでハデスを見た。

 ハデスは彼の覚悟を認めたのか、真剣な顔で歩み寄った。


『死神』の継承をするつもりだ。


「その前にだ、俺は君を仲間にスカウトしたい」


「仲間?」


「ああ、共に魔法の極致を見るための仲間だ」


 魔法の極致、それはいまだにたどり着いたものはいない。

 あのクアランド王でさえも。


 魔法の起源はなんなのか分かっていない。

 人の文明だと唱える者もいれば、この星のものではないという者もいる。


 その魔法の真理を解き明かし、魔法の頂点に立つ。それが魔法の極致だ。


「なんで俺なんだ?」


「君は俺の知らない感情を知ってる。俺が『死神』を得たとして、苦悩することはないだろうしな」


 ハデスは少し考え込むようにして言った。


「あと、純粋に戦力が足りない」


「戦力か、あんた一人で十分そうだけどな」


「残念ながら足りない。実は今、とある剣を作っていてね。それには『世界のカケラ』が必要だ」


『世界のカケラ』、聞いたことのない単語だ。

 おそらく魔力関係のものだろうが、その性質を名前から予測することは不可能だ。


「知ってるかな、今世界はピンチなんだ」


「…まさか、戯言はやめてくれ」


「いいや本当だ。かつて存在したアホ『魔王デリア』が、『禁忌の魔法』を発動させたせいで世界が壊れたんだ」


「それが本当なら、もう少し詳しく一から説明してくれ」


「ふむ」


 またハデスは考え込むような仕草をし、やがて口を開いた。


「世界は10段階の形態がある。そして1段階壊れるごとに死定者と災害の量が増える。その形態を破壊する方法こそが『禁忌の魔法』だ。この魔法はまさに万能、最強の攻撃魔法にもなるし、最強の防御回復魔法にもなるし、時間だって超えることができる。ただし、一回使うごとに世界を一回壊す。その時に生まれるのが、魔力の塊である『世界のカケラ』。これさえあれば最強の剣が作れるんだが、あいにくカケラは一個しか集まっていなくてね」


「カケラを集めれば、剣を強化できるのか」


「そ、魔法の極致に興味ない?」


 ここでイエスと答えるものはいるだろうか。

 否、ディオンにそんな選択肢はない。


「断る」




「『テンペスト』———ッッッ!!!」

「『エンジェルフォース』」




 ディオンが手を挙げるのと同時に、ハデスに二つの中級属性魔法が襲いかかった。

 動じることなくハデスは『シールドフォース』を展開し、二つの魔法を防ぎ切った。


 そのうちにディオンがマレンの縄を斬り、3人はものすごい速度で逃げ出した。


 イリアが『光速術ラピッドアーツ』と名付けたものの魔法バージョン『ソニック』。

 光属性の魔力を足に纏わせることで、凄まじい移動速度を得ることができる。


 しかしそれは敵も同じこと。


「一匹捕まえた」


 ニヤリと笑い、結界を張った。

 直後、リーフのみがその場に閉じ込められることになった。


「まずは君からだな」


 ハデスは装束を靡かせながら、闇の魔力を纏う掌を前に突き出した。

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