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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第一章 黒炎の剣技
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第四話 高潔なる氷刃

 現在、6時より少し前の掃除の時間。

 ジン達の掃除担当は自室と廊下、各自が雑巾を持って行っていた。

 ジンとイリアは廊下、エリックとマルクは自室内で、1日ごとに変えるというルールにした。


「ジン君は戦意操作は出来たの?」


 唐突なイリアの質問に、ジンはぎょっとした。

 それから頭をぽりぽりかくと、声を小さくして言った。


「まだ」


「ふふ、私も出来なかった」


 そんなやりとりをした後、ジンは床に座り込んだ。


「まあ…感覚を掴むところまでは行ったんだけどよ、制限時間が1秒くらいから全然伸びねえ」


「でも、コツは掴めたんだ。やっぱり凄いなあ…」


 感心するイリアに、ジンは眉をひそめる。

 彼女は皮肉を言うような人ではない。おそらく本気で凄いと思っているのだろう。

 兄のような人間が間近にいた身としては、後ろめたい気持ちだ。


 6時になり、掃除を終えたジンは談話室で暇を潰していた。

 この時間帯は皆やるべき事を終えた後なので、談話室はだいぶ賑わっている。

 あちらこちらで決闘を申し込む声が聞こえ、ジンは思い出した。

 戦意を使いこなしていると言う『彼女』に、決闘を申し込むということを。


(しまった、外見の特徴聞いておくべきだったな)


 こうなってしまっては仕方がない。ジンは談話室にいる人に片っ端から聞いていくことにした。

 そうして重い腰を上げたジンが目にしたのは、通路を通り過ぎる黒髪の——ジンに羊皮紙と羽ペンを貸してくれた少女だった。


「待て、おーい、待ってくれ!」


 ジンは急いで談話室を出ると、少女に追いついた。

 そして羽ペンを彼女に渡した。


「文房具返すタイミング分からなくてよ、あの時は助かった!」


「…?ああ、あの時の。問題なかったようで何よりだわ」


 少女は差し出されたペンを受け取ると、再び歩き始めた。


「待て待て、聞きたいことがある」


「聞きたいこと?私に?」


「ああ、実はとある人に決闘申し込もうと思っててさ。ザパース爺さんとの決闘のときに一人だけ戦意を操作出来た奴知らないか?」


 少女はぶつぶつとなにかを呟きながら考えるフリをした。

 そして眉をひそめてこう言った。


「私以外に戦意を使えた人がいなければ、貴方が探しているのは私と言うことになるわ」


「えっと…ん?」


 ジンは一瞬彼女が何を言っているのか分からなかった。

 どうやらジンは運良く、その『彼女』とやらに会えてしまったようだった。



 ※



 決闘をしたい、とジンは頭を下げて言った。

 少女は腕組みをすると、考え込むように言った。


「決闘をしたいと言っても、私にメリットがないのよね…」


「ええ…?お前も一応練習は必要だろ?」


「そうだけど、相手になるかどうか……ん?」


 さらっとジンを侮辱するような言葉を放った少女は、ジンの後ろの影に気づいた。

 イリアだった。


「あ、アゼルスだ」

「さっきぶりねイリア」


「いや、知り合いかよ」


 二人は顔見知りだったのか、軽い挨拶を交わした。

 すると微妙な表情だったアゼルスはぽんと手を打った。


「あ、そうだ。そっちの部屋って女子はイリアだけでしょう?」


「おう、こっちはイリアが紅一点だぜ」


「こっちの部屋は男子が一人。私が勝てばイリアをこちらの部屋に貰って、男子をそっちに送り込むって言うのはどうかしら?」


「…へ?」


 どうかしら、と言われても困る。

 ここで「いいや、イリアは渡さねえ!」とか言ったらただの変態だし、「おう!そうだな!イリアを賭けよう!」とか言うのも、イリアを商品にするようで気が引ける。


 ジンは縋るようにイリアを見ると、


「よ、よく分からないけど…それでいいんじゃないかな?よく分からないけど」


 という無責任な言葉が返ってくるのであった。


「決まりね。男子が部屋にいるって何か嫌だったのよ」


 その男子とやらも気の毒だが、多分もう引き返せない。

 この戦いで、ジンは戦意を使えるようになると覚悟を決めた。



 ※



 決闘のルールは、相手の体に一撃を当てた者が勝利、追い討ちは禁止。

 勝敗は、その場で決めた立会人の判断によって決められる。

 イリアを立会人にして、ジンとアゼルスは木剣を構えた。


 彼女の構えは独特で、右手に構えた木剣を、柄が高くなるように持っていた。

 そして左手は剣先に添えるだけ、ジンはその構えに見覚えがあった。


「白竜の構え…か」


「知っていたの、さぞ勉強熱心だったのでしょうね」


 白竜の構え——それは氷の剣型に恵まれた『白竜族』が生み出した、突き攻撃に特化した構えだ。

 突き攻撃は氷属性の剣型持ちが主に使う攻撃で、殺傷能力が高いかわりに、高度で繊細な技術が必要になる。


 白竜族は世間ではあまり知られていなく、ジンのように勉強熱心でなければ、王都内で知る者はいないだろう。


「てことはお前、白竜族なのか。何でこんなところに?」


「おしゃべりに来たのかしら?…今は決闘に集中しなさい」


「あ、ああ、分かった。イリア、合図してくれ」


 そう言うと、ジンも構えを取った。

 イリアは片手を振り上げると、「はじめ!」と声を張った。決闘開始の合図だ。


 直後、アゼルスはものすごいスピードで向かってきた。

 戦意の力、改めて間近で見ると、やはり強力だ。

 ジンもすかさず1秒だけ戦意を滾らせ、アゼルスの攻撃を受け流しながら交わして反撃した。


 火花が散り、ジンの剣はアゼルスの剣によって受け止められていた。

 それも、ジンの側面の刃をアゼルスは剣の先端でだ。


「なんて技術だよ!」


 ジンはその繊細な技に驚き、慌てて飛びのいたがそれがまずかった。

 1秒を過ぎたジンが、今の状態でアゼルスの攻撃を交わせるはずがない。


(もう一度戦意を——ッ!)


 ジンは再び意識を集中させ、もう一度戦意を滾らせた。

 するとコツが掴めたのか、ジンの動きは再び上昇した。

 アゼルスの動きがまた追えるようになり、攻撃を交わすことに成功。


「すごい!連続で戦意を使えるようになったんだ!」


 傍でイリアが驚きの声を上げた。

 連続で戦意が使える、そうなればもはや制限時間など意味はない。

 ジンでも、アゼルスに対抗できるということだ。


 襲いかかる突き攻撃を全て交わし、ジンのペースに持ち込んでいく。

 やがてアゼルスの懐に潜り込み、ジンは剣を振り上げた。

 が——


「剣技『神氷刃(イエロ・ラル)』——ッッッ!!」


 突如として放たれた漆黒の氷刃が、ジンの木剣を吹き飛ばした。

 ジンの手を離れた木剣は凄まじい勢いで訓練所の壁に衝突し、真っ二つに折れ、やがて地面に落ちて静まった。

 状況が理解できず、目を見開くジンを、アゼルスは剣の面でトンと叩いた。


「一撃、もらったわ」


 アゼルスは得意げに言った。



 ※


「うう〜、イリアぁ〜」


 イリアの布団ではなく、代わりの男の布団が敷かれたベッドを見て、ジンはおいおい泣いていた。

 決闘の敗北の代償として、イリアはこの部屋からアゼルスの部屋へと移動することになったのだ。

 幼馴染を失ったジンの泣き声は、さらに大きな泣き声で中断された。


「ひどいよおおお〜!僕は何も悪くないのに!何で汚物扱いされなくちゃあならないんだあああ〜!」


 そう言って男は、みっともないくらい床に頭をつけて号泣していた。

 身長はあまり高くない、気の弱そうな眼鏡の少年だった。

 藍色の髪はかなりの癖っ毛で、もはや一種の海藻のような形をしている。

 瞳は魅入るような黄金で、現在はそこから大粒の涙が流れ、止まることをしらない。


 この男が、アゼルスの部屋から来た、部屋の新入りである。

 出る直前にアゼルスからなにか酷いことを言われたらしく、こんな状態になっているらしい。


 床に強く頭を打ちつける少年に、マルクが射抜くような視線を向けた。


「しかしレクト君、存在するだけであそこまで嫌われるとは、君はある種の才能があるんじゃないか?」


 マルクは盛大に皮肉を言うと、腕を組んでベッドに倒れ込んだ。


「それでジン、本当に彼女は『黒氷』の使い手だったのかい?」


「ああ、本当だ。あの剣技は間違いなく『黒氷』だった」


 剣型『黒氷』は、最強の剣型のうちの一つ。

 戦意を常に解放することが出来て、『黒氷』の剣技も使える、想像以上に強い存在だったらしい。


「勝てないとうっすら分かっていても悔しかったろう、ジン」


 さっきまでレクトの泣き声に耳を塞いでいたエリックが言った。

 彼も今までの人生の大半を剣に注ぎ込んできた剣士、ジンの気持ちはよく分かったのだろう。


 そう、ジンは悔しかった。あれほどまでに剣技が使えないことが悔しくなった事はない。

 あの剣技、ジンとイリアが共に訓練していたフィクスの剣技とはわけが違う。

 確かにフィクスの剣型『嵐』は、雷属性の速度と、風属性の超広範囲による特性で、かなり強力なものに仕上がっている。

 だがそれも所詮、普通の剣型。

『黒氷』は、氷属性の突き攻撃強化にプラスして、万能な威力とスピードを持っていた。

 そしてそれに加え、洗練された剣技。

 あれは恐らくここ最近のものではない。幼少期から磨き上げてきたものだ。


「今更俺が『黒炎』の剣技出せたとして、あいつに勝てんのかよ…」


 自分も幼少期から剣技が使えていれば。そんなことを考えてしまう。

 今まで剣技が使えないなりに頑張ってきたが、こうも圧倒的な差を見せつけられると、自信がなくなってしまう。

 かつての劣等感が、再びジンを包もうとしていたが、


「しかしジン、一度剣技が使えるようになると、そこまで目覚ましい成長はないぞ」


 顎に手を当てながら、エリックが言った。


「剣士が大きく成長できるタイミングは二つ、剣技が使えるようになった時と、戦意操作が出来るようになった時だ。君にはまだそれが両方残されてる。それに君は剣聖の家の子なんだろう?もしかしたら、ある日才能が目覚めるかもしれん」


「でも、その成長過程を両方通ったあいつは少しずつでもさらに力を上げてんだ。俺が勝てるかっての」


「何を言っている。君は今までの人生を剣に注ぎ込んできたんだ。身体能力とセンスに関しては、彼女と同じくらいだと思うぞ」


 そんなことを言われて、ジンは言葉に詰まった。

 そこまで思考が回っていなかった。。

 確かに戦意を使えば、相手の動きが速かろうが見える。互いに戦意を使うことでようやく普通の戦いになるわけだ。

 普通の戦いのセンスとなれば、ジンも負けてはいない。イリアやフィクスと共に特訓してきたのだ。


「まだここからってか…。分かった、ありがとなエリック」


「ああ、言っておくが、俺も負けてはいられないからな」


 訓練所生活1日目は、想像以上にボリュームのある日になったようだ。

 新たなライバルと握手を交わし、この日は終了となる。

《キャラクター紹介》


○アゼルス・アスプロス

白竜族の少女で、トップクラスの実力を持つ。

剣型は『黒氷』(主属性:?、副属性:氷)


○レクト・ジェイル

アゼルスとの決闘の結果、ジンの部屋に送り込まれた眼鏡の少年。

普段は大人しく内気で、喋っている内容は静かにしないと聞こえない。

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