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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第八話 冥王再臨

 暗い森の中を、一人の少年が歩いていた。


 ディオンだ。

 不意に散歩がしたくなったのだ。


「姉さん、最近綺麗になったな」


 以前までの色濃い隈はなくなり、美しい銀色の目がはっきり見えるようになった。

 手入れの仕方がわからないのか、髪はボサボサのままではあるが。


 リーフといる時間も長くなった。

 やはり共同作業をすると仲良くなるものなのだろう。


「俺も早くみんなの輪に入りたいよ」


 だが、異能が封印されたとして、自分はあの輪の中に入れるだろうか。

 すでにあの中にいる『死定者』を知ってしまっているというのに。


「そんな考え、頑張ってくれてる姉さんとリーフに失礼だよな」


 封印されたらされたで、残された時間を楽しく過ごそう。

 そんなことを考えていると。


「あれ、少年、こんな夜中に何やってるの?」


 不意に、全身白で覆い尽くされた黒髪の男が姿を現した。

 手ぶらだ。おそらく魔法使いだろう。


「何だあんた」


「ん?君もしかして『死神』じゃない?」


 ディオンの正体を見事に当てて見せると、男は飛び跳ねた。


「いやー!なんて運がいいんだ俺!最高の日だよ!」


「何者だ」


「君を助けてあげられる人だな」


 片眉を上げて男は言った。


 助けるとは、何を言っているのだろう。


「この装置を、こういう向きで、学校の三階にある魔法陣の中心に置いてくれたら、『死神』を継承されてやるよ」


「……」


 正直胡散臭い。

 もしかしたら、学校に何か手を出すのかもしれない。

 しかしあの学校にはエイルスがいる。

 彼女に実力を間近で見たことのあるディオンにとって、この提案はおいしいものだった。


「分かった。絶対にだぞ」



 ※



「…できた」


 以前よりもさらに巨大化した魔法陣を見て、リーフとルイネは顔を見合わせた。

 魔法の効果を調べたが、完全に『死神』を封印できる仕組みになっていた。


「早速ディオンに施そう!僕が呼んでくるよ!」


 リーフは嬉しそうに部屋を飛び出していった。


 それにしても、こんなに早く魔法が完成するとは思ってもみなかった。

 完成する前からすでに心臓の鼓動が聞こえていて、今もまだ止むことを知らない。


 これも全てリーフのおかげだ。

 彼の熱意とそれに伴った技術で、かなり多くの作業がスムーズに終わった。

 まるで自分が二人いるくらいに順調だった。


「終わったのか?」


 信じられないといった様子でディオンが入室してきた。

 当然だろう。この学校に来て数年の間、ルイネの苦労を目の当たりにしていたのだから。


 ディオンはどこか安心したような表情をすると、ゆっくり魔法陣に近づいた。

『異能封印【死神】』、魔法陣の中心に立った対象の異能『死神』を封印する設置型魔法だ。


「それじゃ、魔法を起動するよ」


 リーフとルイネは魔法陣に魔力を注いだ。

 直後、魔法陣が急速に回転し始めた。魔法起動の合図だ。


 やがて魔法陣から光が飛び出し、ディオンを包んだ。

 その光に、ディオンは目を奪われていた。


 もう『死神』の異能に苦しまなくてもいいんだ。

 そんなことを思っているのだろう。


 だがそんな期待は簡単に裏切られた。


「…終わりか?」


「え?」


「魔法はもう終わりか?」


 ディオンの問いに、二人は答えられなかった。


 魔法が効かなかったのだ。


 何故だ、異能の効果を把握し、魔法陣テストでもちゃんと機能したのに。

 異能の力とは、そこまで凄まじいものだったのか。


「いいよ、気にしないでくれ」


「…ごめん」


 口で謝りながらも、ルイネはとてつもない喪失感でいっぱいだった。

 あらゆる手を尽くし、完璧な魔法を作ったのに。


 だがディオンはそこまで気にしていないようだった。


「良かったよ、手を先に打っておいて」


 直後、爆音が響いた。



 ※



 慌てて外に出た生徒とエイルスは目を疑った。

 結界が破壊されている、その事実を受け止めることができなかったのだ。


「馬鹿な、貴様は何者だ」


 エイルスは正面に佇む男に聞いた。


「貴様って…なんか口悪くない?仮にも学校の教師でしょうよ君」


「黙れ、貴様は客人ではない」


「あ、そう。冥王ハデスって言えばもてなしてくれる?」


 その言葉に、リーフ以外の生徒は愕然とした。

 リーフがマレンにきくと、どうやら伝説上の人物らしい。


 なんでも、かつて存在した英雄をほとんど滅ぼし、どこかに封印されたのだとか。


「仮にも彼は英雄だ。その名を借りるような輩は始末したほうがいいだろうな」


「おいおい、始末しちゃうのかよ。人質がいるってのに」


「…ッ!?」


 気づけばハデスは、マレンを片腕で抱えていた。


 目で追えない速さに、ようやくその場の全員が危機を覚えた。

 間違いなく、目の前にいる存在は伝説上の者だと。

 何らかの方法で、封印を解除したのだと。


「まあそう身構えないで。俺は『死神』の能力もらうついでにド派手な挨拶をしたかっただけだからさ。全然派手じゃなかったけど」


 おどけて見せると、ハデスはディオンの方に近づいていった。

 ディオンは恐怖に目を見開いていて、とても彼らしくはない表情だった。


「てことで、後で一人で『英雄の墓地』に来てくれよ。言っとくけど、他のやつ連れてきたらこの女の子殺るかもしれないからね」


 そういうと、ハデスはマレンと共に消えた。

 あらかじめその『英雄の墓地』とやらに、移動魔法『ワープ』を設置しておいたのだろう。


「…俺のせいだ」


 誰一人として、その場から動くことはできなかった。

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