第七話 情熱
「ほう、二つ連続で『シールドオーラ』が出せるようになったのか」
リビングで食事中、エイルスは嬉しそうに言った。
「やはり練習というのは大事だな。マーカスはどんな調子だ?今度リーフと決闘でもしてみるといい」
「…余計なお世話だ」
エイルスの提案にマーカスは顔を背けて断った。
マーカスもここ最近、ずいぶん熱心に訓練しているようだ。
リーフの予想が当たったらしく、前よりは落ち着いたように見える。
「なあリーフ、そろそろ上級魔法を練習したほうがいいんじゃないか」
「…?そんな急ぐ必要はないと思うけど」
ディオンの発言にリーフは首を傾げた。
この学校にいられる期間はまだまだ長い。コツコツ練習を重ねていったほうがいいだろう。
しかし、そんな悠長なことは言ってられないようだ。
「姉さんは、ここに来て2週間以内に上級魔法が放てなければ、才能は十分ではないと判断するらしい」
「な…、2週間って言えば後…」
四日だ。それ以内に上級魔法を使えるようにならなければ、彼女の研究は手伝わせてもらえない。
リーフの目標がなくなってしまう。
リーフは慌てて料理をかき込むと、急いで玄関に向かった。
「練習するなら私も行くー」
マレンもリーフに負けない速度で料理をかき込むと、リーフの後についてきた。
※
上級風属性魔法『暴風儀クアランド』は、10個の魔法陣を広げ真ん中に巨大な模様を描いた、儀式魔法である。
その一つ一つの魔法陣は『シールドオーラ』くらい複雑で、初心者が見ればどこがどうなっているのかわからない魔法陣になっている。
儀式魔法についても説明する必要がある。
儀式魔法は、相手に付着した魔力と自身の魔力を共鳴させて行う魔法である。
通常の攻撃魔法は瞬時に放てるのに対し、儀式魔法はいくつかの段階を踏まなければならないのが特徴だ。
一つ目、相手にその属性の魔力を付着させなければならない。
例えば風属性の上級魔法を放ちたいのであれば、相手に『ウィンド』か『テンペスト』を命中させる必要がある。
二つ目、短時間のうちに、魔法陣の数だけ魔法を使っておかなければならない。
『暴風儀クアランド』は魔法陣が10個なので、10回風属性魔法を放っている必要がある。
三つ目、これらの作業をしながら、少しずつ魔力運搬を進めていかなければならない。
ゆっくりと魔力を馴染ませていくには、一瞬では間に合わない。
戦闘と同時進行で魔力運搬を進めて行く必要がある。
以上の三つの条件を達成することで、初めて上級魔法を放てる。
「相手に魔力を付着させなきゃいけないんだろ。剣型が風と光のルイネに、どうして水の最上位魔法が使えるんだ」
「あれ、知らないの?魔法使いって自分の体に流れる魔力を別の属性に変換できるんだよ」
開いた口が塞がらない、そんな表情でリーフは固まってしまった。
そんなことができてしまうなら、もはや全属性の剣型を持っているのと同じである。
「威力はかなり落ちるから、別属性の魔法使ってる人はただの物好きだけどね」
「あ、よかった。そこはちゃんとバランス取れてるんだ」
マレンの発言に安心し、リーフは魔法の特訓に入った。
『シールドオーラ』の練習により、複雑な魔法陣の形もわかるようになってきた。
問題は、儀式魔法を出すための三つ目の条件『戦闘と同時進行で魔力運搬をする』だ。
やはり魔法とは慣れなのだ。
魔法の威力、スピード、発生速度、全てにおいて魔力運搬技術が鍵になる。
これはもう、常に蝋燭を手に持って一日中『トーチ』を繰り返していようか。
「とにかく練習あるのみだからねー。私も二日くらいかかったかな?」
その程度の日数で出せればどんなにいいことか。
リーフの場合本当に四日以上かかってしまうかもしれない。
「まあ大丈夫だよ、『シールドオーラ』の感覚を思い出して」
そう言われ、リーフは目を閉じた。
この複雑な魔力回路をとにかく発掘していかなければ。
※
「嘘…まだ三日も残ってるのに」
息を切らして部屋に入ってきたリーフに、ルイネは目を丸くした。
この少年、もう風属性の上級魔法を発動してしまったらしい。
まだ魔法の威力は十分ではない。
しかしこの少年の熱意は研究に大いに役立つことは間違いないだろう。
「じゃあ…早速仕事を任せるけど」
「分かった。何をすればいいんだ」
「…『ワードキャンセル』と『シールドオーラ』をいろんなパターンで改良した魔法を何個か作っておいて」
「……ワード………?」
「『ワードキャンセル』…相手の発動済み魔法を全て消す光線を放つ魔法。それの改良版をたくさん作って」
ルイネの指示に苦笑いで応じると、リーフは一階へ降りていった。
その間、自分は開発魔法を大量に作る。
少し面倒な作業を一部任せられるのは良いことだ。
「…これで研究スピードが上がるといいんだけど」
※
「ルイネ、ここは僕がやっておくから、君は少し寝たほうがいい」
一ヶ月後のことだった。唐突にリーフがそんなことを言い出したのは。
「僕はここ最近ずっと開発魔法の勉強をしてきたんだ。これくらいのことは出来なくちゃな」
「じゃああたしが別の仕事をやればいいだけの話」
「違うよ。僕がここで勉強をしているのは、君のためでもあるんだから」
そう言われ、ルイネは首を傾げた。
「…あたしは何も困ってない」
「僕は、君の綺麗な顔が見たい。そう思っていたんだ」
見れば、リーフは顔を真っ赤にしていた。
その言葉の意味をようやく理解し、ルイネは固まった。
「最初に会った時から気になってた、この子が綺麗になったら可愛いだろうなって」
「…分かった、寝る」
リーフの発言に耐えられなくなり、ルイネはベッドに横になった。
顔が熱い。こんな感覚は初めてだ。
「明日からは食事に降りておいでよ。せっかく話す時間も増えるんだし」
「…分かった」
前から、礼儀正しい孤児だと思っていた。
もちろん彼は商売をやっていたのだから、礼儀は身に付けていて当たり前だろう。
しかしやはり、人との距離感というのは分かっていないらしい。
こうまで急に距離を詰めてくるものだろうか。
自分もまだまだだ。
これじゃディオンのことも言えまい。
いつの間にかルイネも、人との関わりを絶っていたようだ。
「…リーフ」
「ん?」
「…ありがとう」
ルイネの言葉に、リーフは嬉しそうに微笑んだ。




