第四話 千の片鱗
「それで、手本をみずに『トーチ』を完成させてしまったわけか」
火の灯った蝋燭を見て、エイルスは苦笑いした。
彼女は元々、ある種の才能がリーフにあることを願って魔力回路を見せてくれなかったようで、『トーチ』が使えるということは特に信じていなかったらしい。
手本を見ずに魔法を完成させるというのは、公式を知らずに複雑な計算問題を解く様なものである。
そしてリーフはそれを成せた。彼にも十分魔法の才能があるということだ。
「素晴らしい、早速『汎用魔法』の魔法陣を複数見せてやろう。君ならば全てを習得し、『属性魔法』を学べる段階までいけると信じている」
そう言って、エイルスは紙に三つほど魔法陣を描いた。
『フライ』、空を飛べる魔法。移動速度は歩行とは比べ物にならない。
『スライド』、物を引き寄せる魔法。応用すれば、自分自身を物体に近づけることもできる。
『フォン』、相手と連絡を取れる魔法。テレパシーに近く、『通信石』はこの魔法の魔力回路を利用している。
「随分便利なものが多いですね」
「ほかにも沢山の魔法があるが、とりあえずはこの三つだけで十分だろう。それより私は、早く君に『属性魔法』を教えたい」
心なしかウキウキしている様に見えるエイルスに苦笑し、リーフは魔法陣と向き合った。
まずは自分の中に流れる魔力の流れと、この魔法陣の形を結びつけるところから始めなければならない。
今のままではこの魔法陣は、ただの模様だ。
※
二階で、生徒が2人雑談していた。
マレンとディオンだ。
「リーフ頑張ってるね」
「ああ、だがマーカスが黙ってない。エイルス先生を出し抜いて一人でリーフを始末しようとするかもしれない」
「一回一人やられてトラウマ背負って、学校出て行っちゃった人いたもんねー」
さらっと物騒な話をしていると、ちょうど黒髪の少年が通りかかった。
「お前ら、俺の邪魔したら手加減しねえからな」
「大丈夫だよマーカス、私たちは君とリーフの勝負を見届ける」
「けっ、そうかよ」
マーカスは吐き捨てるようにそういうと、剣を持って異界に降りていった。
おそらく外で訓練をするのだろう。
「無駄なことなのにな」
ふとディオンが呟いた。
その発言にマレンは顔を顰めたが、訂正することはなかった。
※
エイルスは1日に一回、どこかへ出掛けているようだ。
どこへ行っているのかは知らないが、リーフはそのうちに風の初級魔法を練習することにした。
リーフの剣型は『自然』、主族性が風で副属性が土だ。
自分の剣型にあった魔法を使うと、威力が上がり消費魔力が減る、まさにいいことずくめだ。
ほとんどの魔法使いがその属性に焦点を置き、極めるらしい。
風の初級魔法は『ウィンド』、威力が低めの代わりにある程度相手の攻撃を抑制できる、どちらかといえば防御魔法だ。
しかし使い方を工夫すれば相手の動きを止めたり、自分に有利な戦況を作り出すことができる。
少しマニアックな属性だが、極めればかなり強くなれる属性だ。
「でも、『属性魔法』は回路が難しいな…」
そう、属性魔法は汎用魔法とは違い、魔法陣に使われる文字や紋章の難易度が異様に高いのだ。
そのおかげで当然体内の魔力回路の掌握が難しく、なかなか上手くできない。
それもそのはず、初級魔法が1日で使えてしまったら、それこそ才能の塊だ。
本来全ての属性を操ることが不可能に近いのに、1日でできてしまったらそれも可能になってしまう。
魔法は使うごとに精度が増していくとエイルスが言っていた。
一つの属性を極めるというのはそういうことなのだろうが、魔法を出す時点でも苦労はするだろう。
少しずつ積み重ねていこう。
「おっと、奇遇だなリーフさんよ」
気づけば、背後にマーカスがいた。
マーカスはリーフの背中を思い切り蹴飛ばすと、声高らかに笑った。
「お前が育ち切らないうちにこの学校にいられない体にしてやるよ」
「いきなり暴力を振るうとは、孤児である僕よりも無礼なやつだな」
苛立ちまじりにそういうと、マーカスの愉快そうな態度は一変した。
「何だ、痛い目にあわされるだけじゃ気が済まないか。もう動けないくらい骨をバキバキにしてやろうか!」
「まず先に、僕に対して暴力を振るう正当な理由を聞きたいんだけど」
「そんなの、俺が越えなくちゃならない壁が増えるからに決まってんだろ!」
憤慨しながらマーカスは叫んだ。
その言葉を聞いて、リーフは思うことがあった。
力のない人間は、他者を貶めることで精神状態を保っているのだということを。
「君、劣等感に苛まれているんだ」
「——ッ!」
直後、マーカスの剣がリーフに向けて振りかざされた。
怒りに任せて振られた攻撃は、とある灰色の剣士ならば容易くかわせただろう。
だがリーフは戦闘経験が全くない。その程度の攻撃すらもまともに防ぐことはできない。
剣が直撃したリーフは血を流しながらその場に倒れ込み、次の攻撃に備えて体を起き上がらせた。
しかし突然電流が体に流れ、リーフは苦痛にうめいた。
「中級属性魔法を見るのは初めてか!?」
自分より弱いものを一方的になぶるマーカスは、優越感からか笑っている。
おそらく彼は、この学校で最底辺なのだろう。
そのままリーフはなぶれ続け、血を吐きながらその場に蹲った。
「はっ!生意気な口聞いてた割には大したことねえな。俺は優しいからトドメは刺さないでやるよ」
意地悪く笑うと、マーカスはその場を立ち去ろうとした。
ひとまず難は凌げた。リーフがそう思い安心していると…
「なんてな!」
マーカスの強烈な蹴りが腹に食い込んだ。
痛みに血反吐を吐き、リーフの意識は遠のいた。
その状況は、彼の力の片鱗をあらわにするには十分だった。
突如、視界が真っ赤に染まった。
その一瞬の衝撃波でマーカスは10mほど吹き飛び、そのまま動かなくなってしまった。
慌てて建物の中からマレンが出てきたが、リーフはすでにそちらへ木を配る余裕はない。
そのまま意識は暗転し、リーフは夢の中へと入っていった。
《キャラクター紹介》
○マーカス・グリード
魔法学校の生徒、得意属性は雷。
劣等感に縛られ、自分より下の存在の新入生を始末しようとする。




