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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第四話 千の片鱗

「それで、手本をみずに『トーチ』を完成させてしまったわけか」


 火の灯った蝋燭を見て、エイルスは苦笑いした。


 彼女は元々、ある種の才能がリーフにあることを願って魔力回路を見せてくれなかったようで、『トーチ』が使えるということは特に信じていなかったらしい。


 手本を見ずに魔法を完成させるというのは、公式を知らずに複雑な計算問題を解く様なものである。

 そしてリーフはそれを成せた。彼にも十分魔法の才能があるということだ。


「素晴らしい、早速『汎用魔法』の魔法陣を複数見せてやろう。君ならば全てを習得し、『属性魔法』を学べる段階までいけると信じている」


 そう言って、エイルスは紙に三つほど魔法陣を描いた。


『フライ』、空を飛べる魔法。移動速度は歩行とは比べ物にならない。


『スライド』、物を引き寄せる魔法。応用すれば、自分自身を物体に近づけることもできる。


『フォン』、相手と連絡を取れる魔法。テレパシーに近く、『通信石』はこの魔法の魔力回路を利用している。


「随分便利なものが多いですね」


「ほかにも沢山の魔法があるが、とりあえずはこの三つだけで十分だろう。それより私は、早く君に『属性魔法』を教えたい」


 心なしかウキウキしている様に見えるエイルスに苦笑し、リーフは魔法陣と向き合った。


 まずは自分の中に流れる魔力の流れと、この魔法陣の形を結びつけるところから始めなければならない。

 今のままではこの魔法陣は、ただの模様だ。



 ※



 二階で、生徒が2人雑談していた。

 マレンとディオンだ。


「リーフ頑張ってるね」


「ああ、だがマーカスが黙ってない。エイルス先生を出し抜いて一人でリーフを始末しようとするかもしれない」


「一回一人やられてトラウマ背負って、学校出て行っちゃった人いたもんねー」


 さらっと物騒な話をしていると、ちょうど黒髪の少年が通りかかった。


「お前ら、俺の邪魔したら手加減しねえからな」


「大丈夫だよマーカス、私たちは君とリーフの勝負を見届ける」


「けっ、そうかよ」


 マーカスは吐き捨てるようにそういうと、剣を持って異界に降りていった。

 おそらく外で訓練をするのだろう。


「無駄なことなのにな」


 ふとディオンが呟いた。


 その発言にマレンは顔を顰めたが、訂正することはなかった。



 ※



 エイルスは1日に一回、どこかへ出掛けているようだ。

 どこへ行っているのかは知らないが、リーフはそのうちに風の初級魔法を練習することにした。


 リーフの剣型は『自然』、主族性が風で副属性が土だ。

 自分の剣型にあった魔法を使うと、威力が上がり消費魔力が減る、まさにいいことずくめだ。

 ほとんどの魔法使いがその属性に焦点を置き、極めるらしい。


 風の初級魔法は『ウィンド』、威力が低めの代わりにある程度相手の攻撃を抑制できる、どちらかといえば防御魔法だ。

 しかし使い方を工夫すれば相手の動きを止めたり、自分に有利な戦況を作り出すことができる。


 少しマニアックな属性だが、極めればかなり強くなれる属性だ。


「でも、『属性魔法』は回路が難しいな…」


 そう、属性魔法は汎用魔法とは違い、魔法陣に使われる文字や紋章の難易度が異様に高いのだ。

 そのおかげで当然体内の魔力回路の掌握が難しく、なかなか上手くできない。


 それもそのはず、初級魔法が1日で使えてしまったら、それこそ才能の塊だ。

 本来全ての属性を操ることが不可能に近いのに、1日でできてしまったらそれも可能になってしまう。


 魔法は使うごとに精度が増していくとエイルスが言っていた。

 一つの属性を極めるというのはそういうことなのだろうが、魔法を出す時点でも苦労はするだろう。


 少しずつ積み重ねていこう。


「おっと、奇遇だなリーフさんよ」


 気づけば、背後にマーカスがいた。


 マーカスはリーフの背中を思い切り蹴飛ばすと、声高らかに笑った。


「お前が育ち切らないうちにこの学校にいられない体にしてやるよ」


「いきなり暴力を振るうとは、孤児である僕よりも無礼なやつだな」


 苛立ちまじりにそういうと、マーカスの愉快そうな態度は一変した。


「何だ、痛い目にあわされるだけじゃ気が済まないか。もう動けないくらい骨をバキバキにしてやろうか!」


「まず先に、僕に対して暴力を振るう正当な理由を聞きたいんだけど」


「そんなの、俺が越えなくちゃならない壁が増えるからに決まってんだろ!」


 憤慨しながらマーカスは叫んだ。

 その言葉を聞いて、リーフは思うことがあった。


 力のない人間は、他者を貶めることで精神状態を保っているのだということを。


「君、劣等感に苛まれているんだ」


「——ッ!」


 直後、マーカスの剣がリーフに向けて振りかざされた。


 怒りに任せて振られた攻撃は、とある灰色の剣士ならば容易くかわせただろう。

 だがリーフは戦闘経験が全くない。その程度の攻撃すらもまともに防ぐことはできない。


 剣が直撃したリーフは血を流しながらその場に倒れ込み、次の攻撃に備えて体を起き上がらせた。

 しかし突然電流が体に流れ、リーフは苦痛にうめいた。


「中級属性魔法を見るのは初めてか!?」


 自分より弱いものを一方的になぶるマーカスは、優越感からか笑っている。

 おそらく彼は、この学校で最底辺なのだろう。


 そのままリーフはなぶれ続け、血を吐きながらその場に蹲った。


「はっ!生意気な口聞いてた割には大したことねえな。俺は優しいからトドメは刺さないでやるよ」


 意地悪く笑うと、マーカスはその場を立ち去ろうとした。


 ひとまず難は凌げた。リーフがそう思い安心していると…


「なんてな!」


 マーカスの強烈な蹴りが腹に食い込んだ。


 痛みに血反吐を吐き、リーフの意識は遠のいた。

 その状況は、彼の力の片鱗をあらわにするには十分だった。


 突如、視界が真っ赤に染まった。


 その一瞬の衝撃波でマーカスは10mほど吹き飛び、そのまま動かなくなってしまった。

 慌てて建物の中からマレンが出てきたが、リーフはすでにそちらへ木を配る余裕はない。


 そのまま意識は暗転し、リーフは夢の中へと入っていった。

《キャラクター紹介》


○マーカス・グリード

魔法学校の生徒、得意属性は雷。

劣等感に縛られ、自分より下の存在の新入生を始末しようとする。

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