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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第二話 魔法の概念

「流石に実践を唐突に始めるわけにはいかない。まずは魔法の概念と仕組みについて話す必要がある」


 エイルスは羊皮紙と羽ペンをリーフに渡した。


 魔法の概念について、リーフは詳しく知らない。

 知っていることは、自身に流れる魔力の操作方法程度だ。


「順を追って話そう。魔法の概念について、君はどれだけ知っている?」


「よく分かっていません、魔法が本来何のためにあるのかも」


「そうか、端的に言えば、魔法は生活をより便利にするためのものだ」


 エイルスは部屋の明かりをつけたり消したりして見せた。

 彼女が言う『便利』と言うのはこれの事だろう。


「しかし魔法の起源というのは未だ解明されていない。だからはっきりとした用途は決まっていない。人を救うことも、殺すことも出来てしまう。そこをしっかり理解して学ぶことだ」


 エイルスの説明に、リーフは一瞬動揺した。

 しかしこの世のほとんど全ての道具はそういうものだ。使い方さえ間違えば命に関わる。

 今はまだこの程度の認識でいいだろう、とリーフは考えた。


「それでは次に、魔法の種類だ」


 エイルスは本棚から大きな紙を取り出すと、リーフに見える様に広げた。


 それを見てリーフは驚愕した。


 紙には、属性と用途ごとにたくさんの魔法が書かれていた。

 それを全て覚えろと言われたら気が遠くなるほどに。


「魔法には様々な種類があるが、最初に覚えるべき魔法は『属性魔法』『回復魔法』『汎用魔法』の3種類だ。『属性魔法』は8種類の属性全てがそれぞれ『初級魔法』『中級魔法』『上級魔法』に分かれていて、一生のうちに全てを覚えるには類稀なる才能が必要だ。自分の得意属性だけに集中して訓練することを勧める」


 話だけ聞けばよく分からなかったかもしれないが、魔法が書かれた紙を見る事で割とすんなり理解できた。

 要するに、自分の得意な属性の魔法を、初級中級上級全て覚えろという話である。


「『回復魔法』は二つまで覚えて欲しい。切り傷などの軽傷を治す『ヒール』と、剣による傷や骨折を治癒する『リカバリー』だ。この二つは実戦で大いに役立つだろう」


「なるほど、『汎用魔法』というのは?」


「ルイネが使った『フライ』や、私が先ほど見せた『トーチ』のような、生活に役立つ魔法のことだ。これはすぐにでも使える様になってほしい」


 とはいえ、一般的に魔法は剣技よりも魔力運搬が難しいと聞く。

 剣技すら使ったことがないリーフは不安を抱いていた。


「心配しなくていい、君が魔法を使える様になるまで私がつきっきりで教えてあげよう」


「いいんですか?」


「ああ、それにある程度できる様になったら、他の生徒に教えてもらうことも出来る」


 そうだ、この学校には他の生徒がいる。

 リーフが夢にまで見た家族で食卓を囲むという行為ができるのだ。


「なんか僕やる気出てきました」


「?…そうか、それはいいことだ」


 リーフの考えなど知らず、エイルスはきょとんとした表情で返事をした。


 まずは『トーチ』の練習からだ。

 エイルスは一つの蝋燭に火を灯し、机の上に置いた。


「さあ、君の実力を見せて欲しい」


 リーフは頷くと、体内の魔力に集中した。


 炎を灯すイメージ、周りを照らすイメージだ。

 蝋燭の上に灯る炎を想像しながら魔力を運んだ。


「きた…」


 そしてリーフが掌に力を込めると、特に何も起きなかった。


 うまく行かなかったので、リーフは次に試す方法を考え始めた。


「リーフ、魔法は当人の想像力ではなく理屈からなるものだ。炎を灯すイメージを蝋燭に抱くのではなく、自身の魔力を意のままに操ることを目的としなさい」


「意のままに操る…?」


「ああ、魔法使いならその力がある」


 エイルスのアドバイスの意味をよく考え、リーフはもう一度魔力に意識を集中した。

 自分の中に吹き荒れる魔力を鎮め、まずは指先から放出することを考える。


「…『トーチ』」


 しかし蝋燭の先に火が灯ることはなかった。



 ※



「やっぱ最初はきついよねー」


 授業が終わり、エイルスが外に出かけている間、マレンがリビングでお菓子を頬張っていた。


「マレンはどのくらいかかったんだ」


「私は…うーん、一日?忘れた」


 適当に答えると、バウムクーヘンにジャムをたっぷりつけて口の中に放り込んだ。


 相当な甘党のようだ。エイルスは「糖分を取ると魔力回復の効率が少し良くなる」といっていたが、マレンはやり過ぎである。

 リーフも先ほどまでチョコを頬張っていたが、甘さに飽きてしまった。


「あ、そうだ。この学校のこと案内したげるよ」


「おお、それはありがたいな。来たばかりで、僕の定位置というかそういうのがよく分かっていないんだ」


 そのおかげで随分と居心地が悪かった。

 しかし学校を案内してくれるというのなら、その問題も解消されるかもしれない。


「一階はねー、リビングとキッチンがあって、階段の近くには洗面所とお風呂があるの。お風呂はひとつしかないから順番は守ってね」


 そういえば、玄関から洗面所の入り口が見えていた様な気がする。

 後で一人で散策でもしてみよう。


「二階は生徒用の部屋が3部屋あって、全部使っちゃってる」


「え、僕はどうすればいいんだ」


「さあ、ディオンの部屋でも貸して貰えば?」


 いきなり部屋に押しかけて部屋を貸してもらうなど、そんな非常識的なことはしたくない。

 しかし紫の髪の少女はそんなことをまるで気にしていない様だった。


「大丈夫大丈夫、ディオンはああ見えて優しいから許してくれるよ」


「ああ見えてって、僕まだその人に会ってないんだけど」


「あれ、そうだったんだ。ディオンはね、ルイネの弟だよー」



 ※



「どうぞ」


 冷たく暗く、響く様な呟き声が室内から聞こえ、リーフは扉を開けた。


 ディオンは姉と同じくボサボサな銀髪を生やしている少年だ。

 しかし彼の目は赤く、地獄を冷たく見据えるような目をしている。

 彼の目の周りには姉のような隈は見当たらなかったが、目つきが相当悪いせいでどことなく目元に陰が寄っている様に見える。


 彼はリーフのことをじっと見つめると、安心した様に嘆息した。


「新入生か。俺はディオン・エイリミ、残念なことに『死神』の異能を持っている」

《キャラクター紹介》


○ディオン・フレデミ

ルイネの弟で、目は姉と違って赤い。

『死神』の異能を持つ。

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