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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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第一話 魔法学校へ

 アゼルスが訓練所を去り、クロスが訓練所に入るまでの間の頃の話。

 トアペトラの端のほう、その小さな町で、17歳ほどの少年が簡単な芸をしていた。


 黄色の髪を逆立たせた、貧相な服装の少年だ。

 目は美しい青色で、その青は海というよりは空の色に近い。


 町は建物こそ存在するものの、ビルや工場といったものは見当たらない。

 少年が芸をしている場所も空き地ではなく、路上だった。


 彼が行う芸は小道具を使ったり、トーク力で観客を沸かせる類のものではない。

 ただ色とりどりの美しいアートを空中に描くだけだ。


 人はそれを『魔法』と呼ぶ。


 少年、リーフ・グラウィスは魔法使いである。


 本来魔法使いはクアランドに存在する魔法学校で魔法を学び、多くの場合は『魔導兵団』に入団する。

 魔導兵団はウエラルドでいう騎士団と同じ立場の組織で、クアランドの秩序を守っている。


 だがリーフは孤児であるため、然るべき魔法の訓練を行えていない。

 それどころか、彼自身魔法がどの様なものなのか分かっていない。

 だからここで魔法を使った芸を行い、客から金をもらって生活をやり繰りしているのだ。


「生活には困っていないのかい?」


 時々、リーフの身を案じてくれる客がいる。

 しかしリーフは決まって「大丈夫です」と答える。


 彼は幼少期からずっとこれで生活してきたのだ。

 今更不便など感じているはずがない。


 でもたまに、孤独が辛くなることがある。


 自分に家族がいて、皆で食卓を囲むということに憧れてしまう。


「でもそれはダメなんだ、僕はこういう生き方をする定めなんだよ」


 その度に、リーフは自分を戒める。


 リーフは、生まれてきたものの運命は決まっていると考えている。

 人は生まれてから死ぬまでのルートが決まっていて、どう足掻いてもそのルートから逃げることはできないと。


 だからリーフの運命は、一生ここで魔法を披露するしかないと考えている。

 しかし、目の前の少女はそう思っていないようだ。


「へえ…娯楽とかないんだ…」


 銀の目をした少女だった。

 目の周りには色濃いくまが出来ていて、肌は少し色白い。

 銀色の美しい髪は、手入れされていないせいかボサボサに散らかっている。

 知識に乏しいリーフでも、彼女が不健康な生活をしていると判断できる外見だった。


 しかし見た目に反して、彼女が着ている服は白がベースの清潔なローブだ。

 首元以外は殆ど露出がないが、手袋をつけているわけではなく、白い手がのぞいている。


 ルイネ・フレデミというのが彼女の名前らしい。

 どういうわけかリーフの客席に来て、芸が終わった後に話を聞きに来たのだ。


 さすがに路上で話をするというのは気が引けるので、リーフは路地裏にルイネを連れて行き、壁に寄りかかりながら向き合って会話をしている。


「そんなことより僕は君の生活の方が心配だよ」


「…あたしの?」


「そう、だって君凄く不健康そうじゃないか」


「別に…あたしは何も困ってないから」


 顔を背けるルイネに肩をすくめると、リーフはため息をついて言った。


「それで、肝心な要件をまだ聞いていないんだけど」


「端的に言えば…君を連れて行けって指示が出てる」


 突然そんなことを言われ、リーフは眉をひそめた。


 今、リーフの生活はとても豊かとは言えない。

 その生活が改善されるというならついていきたいところだが、見ず知らずの人間にほいほいついて行くわけにもいかない。


「何で僕が連れて行かれなきゃいけないのかな」


「君が魔法使いだから…らしい」


 先ほどからこの少女は他人事の様に喋る。

 それについて聞きたいところだが、もう一つ気になることがあった。


「魔法使いを集めているってこと?」


「いや…正確には『育てている』」


 ルイネは自身のローブを指さした。


「あたしは…クアランド魔法学校からきたの」



 ※



 魔法学校に行くために、リーフには準備は必要なかった。

 所有物といえば自分の服と財布くらいなので、常に身につけているからだ。


 世話になった人がこの町には沢山いるが、全員に挨拶していてはきりがない。

 リーフは早急に旅立つことにした。


「それじゃあ…あたしの手を握って」


「え、何で急に?」


「…魔法を使うから」


 そう言われ、リーフはしぶしぶルイネの手を握った。

 思っていたよりも暖かかった。


 そして直後、ゾッとするほど複雑な魔力の流れがリーフの体内に入り込んできた。


「…『フライ』」


 ルイネがそう呟くと、リーフは自分の髪がいつもより一層逆立つのを感じた。

 そしてあっという間に二人の体は、空中へと飛ばされた。


「うあああああああああああああ!!!」


「…痛いんだけど」


 初めての体験に対する驚きと、空中に飛ばされた恐怖からリーフは悲鳴を上げた。

 そのせいでルイネの手を強く握ってしまったらしく、彼女は顔をしかめていた。


 飛行魔法『フライ』によって、二人の体は運ばれていく。

 その移動速度は凄まじいもので、あっという間にトアペトラを抜け出していた。


「魔法学校までどのくらいかかる?」


「…1時間くらい」


 凄い、普通トアペトラからクアランドまでは一ヶ月かかるというのに。

 魔法を使えてはいるが、実用的な魔法が一切使えないリーフにとっては大きな衝撃だった。


『フライ』による飛行で、リーフは大自然を拝むことができた。

 トアペトラの人工物が一切目にうつらない自然というものはとても美しかった。

 今日という日は、リーフにとって思い出深い日となるだろう。


 魔法学校までの道のりで、ルイネは殆ど喋らなかった。

 口を開いたのは、リーフが質問を投げかけた時程度。


 彼女は何か別のことを考えている様だ。


「…あれがあたしたちの学校」


 不意に、ルイネがとある建物を指さした。


 クアランドの王都とかなり離れた、木造建築の学舎だった。

 周囲には森すらなく、あるのは平原のみ。


 学舎は小さめで、3階建ての一軒家程度の大きさだ。

 その周囲には、巨大な結界の様なものが張られている。


 ルイネは『フライ』を調節し、二人とも軽やかに着地することができた。


「それじゃ…ついてきて。結界は通り抜けられる」


 着地するなり、ルイネは結界をすり抜けて行った。


 リーフも手を先に入れてみて、問題なかったので中に入っていった。

 そして学舎の扉を開け、二人は中に入った。


「お、帰ってきましたよ先生!」


 入るなり、入り口付近の階段で本を読んでいた少女が飛び上がった。


 紫の髪をした少女だ。

 ルイネに比べて健康的で、明るい雰囲気をまとっている。


「そうかマレン、私が出迎えよう」


 そして、黒髪長身の女性が隣の部屋から姿を現した。

 マレンと呼ばれた少女は頷き、階段を駆け足で上がっていった。


「初めまして、私の名前はエイルス・ネオプトル。この学校の教師として君を歓迎しよう」


「あ、どうも。リーフ・グラウィスです」


 エイルスが握手を求めてきたので、リーフはその手を握った。


「よかった、手を握ってもらえなかったらどうしようかと思ったよ」


「何でですか?」


「私の第一印象が悪かったということになってしまう」


 そんなエイルスの様子に苦笑いすると、傍にいたルイネは早足で階段を登って行こうとした。


「ルイネ?どこ行くんだ」


「…あたしの役目は終わったから」


 そう言うと、そのまま見えなくなってしまった。


 階段の方をしばらく見ていると、エイルスはリーフに隣の部屋に来るよう促した。


 部屋はリビングルームといった大きさだった。

 真ん中にはダイニングテーブルが置かれている。


 周囲には花瓶や壁掛けといった小物から、大きな鏡、本棚、奇妙な道具などがぎっしり詰まっていた。

 そのせいか、このリビングルームは少し狭く感じる。


「窮屈ですまない。が、部屋のほとんどはこんな感じなので慣れて欲しい」


 エイルスは机に置いてあった紅茶を一口すすって言った。


「魔法を学びに来たのだろう?早速教えてあげよう」

《キャラクター紹介》


○リーフ・グラウィス

金髪青目の少年で、第三章の主人公。

トアペトラでは、魔法の芸で生活費を稼いでいた。


○ルイネ・フレデミ

銀髪銀目の少女。髪はボサボサで、目元には色濃い隈が出来ている。


○マレン・リミヘル

魔法学校の生徒で、髪は紫色。

性格は明るく活発。


○エイルス・ネオプトル

魔法学校の教師。

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