幕間 鈍色
ただ、紅が地面を染めている。
それは先ほどまで生きて、話していたものだ。
勇猛に生き、その手に握る剣を巧みに使って人々を守ってきた。多くの剣士を育ててきた。
ジンの心の支えとなり、光属性の才能を少しずつ開花させていた。
それらが将来、ジンの『守るべきもの』になるはずだったのだ。
ずっと世話になってきた二人を、心から守りたいと思っていた。
今はまだ力が足りないが、それでも近い将来は二人の命を守れる存在になれると思っていた。
だが、二人は死んだ。
ジンは『守る』という任務を忘れて、さも自分の役目の様に壁を掘り続けていたせいだ。
目の前に敵がいるのに、壁を掘ることで皆を救えると思ってしまっていたからだ。
『みんなを守れる最強の剣士』とは、笑わせてくれる。
みんなどころか、ジンは守りたい人間二人すら守れなかったではないか。
なら、ジンが今まで歩み続けてきた剣士としての道は何のためにあったのだろう。
クロスとティリアはイリアの死を見て、体を震わせていた。
怒りか、それとも恐怖か、おそらく前者だろう。
今にもヴァルタイユに斬りかかっていきそうだ。
だめだ、行くな。
お前達に、あいつは殺させない。
「…俺がイリアの仇を討つんだ」
灰色の瞳をいっそう濁し、ジンはぼそりと呟いた。
ジンの目にはすでにヴァルタイユの姿はない。
あるのはただ、色褪せていくイリアとの思い出のみで……
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ただ声を吐き散らしながら、鈍色の剣士は駆けた。
魔力を操れる集中力は、今のジンには全くない。
怒りと憎悪を剣先に込め、ジンは叫んだ。
「『黒滅斬』———ッッッ!!!」
魔力制御も全くできていない中、ジンは形がめちゃくちゃな『黒滅斬』を繰り出した。
イメージが出来ていない。しっかり相手を倒せる剣技のイメージが出来ていない。
イリアとの思い出が頭を駆け巡っているだけだ。
そしてその思い出はもう断ち切られた。その程度の強度だ。
事実ヴァルタイユは『黒滅斬』を断ち切った。
だが彼が浮かべていた嗤いは唐突に消えた。
「誰だ、君は」
冷たく響くその声に、周囲の温度が下がった様な気がした。
「誰だ、君は」その言葉は普通に考えてもおかしくはない。
ジンとヴァルタイユは初対面だ。そしてジンが斬りかかってきたのだから、相手の正体を問うのは当然のことだ。
だが、何か違和感がある。
例えようがないがもし例えるとしたら、ヴァルタイユはジン以外の人間全員と顔見知りで、先程の言葉を放ったという雰囲気だ。
ヴァルタイユが他の訓練生と顔見知りなはずがない。
それでも先程の言葉は、確かにそれを想像させた。
時は永遠にも思えるほど止まっていた。
だが、それを唐突に切り裂く音が聞こえた。
「———『混沌の舞』」
それが聞こえた直後、氷の壁を高速で切り裂く音が聞こえた。
流れる魔力は炎、氷、雷、風、いや、全ての属性だ。
この世に全ての属性を操る剣士など一人しかいない。
そして直後、0.1秒にも満たない速さで目の前に現れた男がいた。
「ヴァルタイユ、お前に剣を向ける日を楽しみにしていた」
「エルド、僕も君を待っていたよ」
エルド・デルフ・エスパーダ、この世界で最強と謳われる剣士がそこにいた。
第二章終了しました。
引き続き第三章も読んでいただけると幸いです。




