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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第十七話 雨

「異能者を…殺す…?」


その言葉に、クロスとティリアは顔を青くしていた。

当然その言葉は「お前達を殺しにきた」と言っているようなものだ。

それも先程の大量虐殺の状況を見れば、自分たちがヴァルタイユに勝てないのは一目瞭然である。


だが…


「何であたしたち以外の生徒を巻き込んだの…」


ティリアが怒りで肩を震わせて言ったが、もうそれ以上喋ることはなかった。


ティリアは訓練所の先輩からかなり良くしてもらっていた。

ジンとの熱い決闘を見た仲間達はティリアの実力を認めていたのだ。

そんな先輩達の態度に、ティリアは満更でもなかった。


ティリアの言った言葉を静かに聞き取ると、ヴァルタイユは茶色の髪と帽子で隠れた目を少し覗かせ、ティリアを睨んだ。


「やはりいつの時代も『正義』はそんなものか…勘に触る。今直ぐにでも殺してしまいたい」


細めた瞳を瞑り、ヴァルタイユは懐から取り出したナイフを自身の背に当てた。

直後、とてつもなく大きな金属音が響き渡った。


ザパースの剣をヴァルタイユが弾いた音だ。


「貴様、なぜ俺の生徒を殺した」


「簡単な話、憎しみを買うためさ。『ブラックアロー』」


ザパースの問いに答えると、ヴァルタイユは5、6本の黒い矢を空中から放った。


おそらく魔法の類だろう。

矢は被さるような弧を描き、ザパースに接近していく。


「はああああああッッッ!!!」


それをザパースは、解放力100%の速度で的確に弾いた。

そして気づけばヴァルタイユの懐へ潜り込んでいる。

やがて赤い残像を残して、鋼の長剣がヴァルタイユの心臓を目掛けて突いた。


『ブラックアロー』による衝撃波で目を奪い、解放力100の速度で接近した。

普通なら、ザパースの攻撃をかわせるはずがない。


だが———


「剣型が無いなりに、小細工で頑張っているようだね」


———ヴァルタイユはまるで読んでいたかのようにそれを受け止めていた。


透視の魔法、もしくは殺気の察知でその動きを読んでいたのだろう。

襲撃者は、こちらの予想を遥かに上回る強者だった。


「生き残った生徒は全員、避難せよ———ッッッ!!!」


危険を感じ取ったのか、ザパースは必死の表情で呼びかけた。

その声で我に帰り、ジン達は訓練所を出ようとした。


だが、周りには巨大な氷の壁がある。

普通に出ることは不可能だ。


「俺たち全員でありったけの剣技をぶつけよう!」


ジンの提案に、十人ほどの訓練生が鬨の声を上げた。

そして各々が持てる力の全てを振り絞り、必殺の剣技を放った。


だが、氷の壁は思っていた以上に分厚かった。

どれだけ剣技を与えても、その壁奥の世界は一向に見えてこない。


一体どれだけの魔力を使えばここまで分厚い氷が出せるのか。それこそジンが魔力を全て使い切るレベルでなければ不可能だろう。


「だったら…俺が魔力を枯渇させればいいだけだ!『黒滅斬』———ッッッ!!!」


剣技特攻を全開にして、氷を着実に破壊していく。

まだ壁の向こうは見えないが、このままいけばここから出られるかもしれない。


———ザパースが時間稼ぎを続けていられればだが。


「があっ!」


ナイフの柄で背中を殴られ、ザパースは地に這いつくばった。

そして…


「『ブラックアロー』」


作業のように放たれた複数の矢が、全てザパースの心臓を貫いた。


ザパースの叫び声が、氷の空洞内に響き渡った。





「ザパース…息子達を頼んだぞ…」


剣聖デルフはその言葉を最後に息を引き取った。


若い頃からの友を失い、ザパースは悲しみにくれた。

だが彼が残した少年たちは、悲しむ余裕がなかったようだ。


「俺たちこれからどうすればいいんですか?」


エルドはザパースにそう聞いた。


かわいそうな子供達だ。才能を秘めていたのに、何故唯一の親と離れなければならないのだ。

かの剣聖に学べば、間違いなくこの少年たちの未来は安泰だったのに。


「俺が、お前達を育てよう…」


溢れる涙を堪えながら、ザパースはそっと二人を抱きしめた。





「生きろジン…!生きろ…!」


必死に手を伸ばし、ザパースは声を捻り出した。

流れ出る血流を抑えることもできずに、ただ血を張って声を枯らしていた。


もう自分は助からないだろう。

でも、あの少年が死ぬことを許してはならない。


かつての友人に託された使命を果たさずに終われるものか。


気づけば涙を流していた。

もう流さないと誓ったはずの涙が。


「お…れは…悲しんで、いるのか…?」


何を?それは決まっている。


もっとジンと過ごしたかった。

可愛い我が子の成長を見守っていたかった。


もっと生きていたかった。


そんな思いも、上から降り注ぐ黒い矢は許してくれないようだった。





ザパースの死に、ジンは気づいていない。

彼は道を切り開くので精一杯だ。

ザパースは負けないだろうという彼の信頼の現れなのだろう。


しかしこのままだとまずい。


ヴァルタイユはクロスとティリアを殺しにきたのだ。

訓練所最強戦力であるジンが動けないとなれば、二人が殺されてしまう。


「みんな、協力して倒そう」


エリックは全員に呼びかけた。


今この場にいるのはイリア、エリック、マルク、バウラ、ハク、そしてその他3人の訓練生だ。

全員で力を合わせれば勝てるはず。そうでなくとも、時間くらいは稼げるはずだ。


「君たちは死ぬ運命に無い。何故死ぬような行為をするんだい?」


「そんなの、後輩を守るために決まっているだろうが」


ヴァルタイユが投げかけた疑問に、バウラが答えた。


剣交祭前の荒ぶり様だと不安しか煽らなかったが、今では彼も頼もしく見える。


岩を創造し自身に有利なフィールドを作るバウラ、『常闇の剣』を自由に操り敵を翻弄するハク、優れた戦意解放力と剣域の技術を持つマルク、超スピードを活かして場を制圧するイリア。


「行ける、反撃できるぞ!」


口元に笑みを浮かべ、エリックは言った。

それに呼応する様に全員が頷く。


そしてイリアは、『光速術ラピッドアーツ』を発動、おそらく先に一人で特攻し、ヴァルタイユのヘイトを受けるつもりだろう。

そしてそのうちに全員が剣技を叩き込む。


「はあッ!」


光速で走り出すイリア。

だがそれをヴァルタイユが見る様子はない。


そして唐突にそれは起こった。


「イリア、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


何に気付いたのか、ジンが顔を真っ青にして叫んだ。

直後、


「『残虐の雨(クルーエルティクロウ)』」


嗤い声と共に大量の『ブラックアロー』がイリアの頭上から降ってきた。

そしてイリアは動けなかった。何かに動きを抑えられていた。



どっ



やがて矢は彼女に迫り、一本ずつ彼女に刺さっていった。

落ちる量はだんだんと増えていく。

まるで雨の様に。


それは一瞬のうちにして起きた出来事だった。


イリアの肉は削がれ、骨を砕き、砕けた骨すらも削り、中から溢れ出した内臓を全て跡形もなくすり潰し、やがて原形を留めぬ肉片へと変わった。


これは夢だ。

でなければ、こんな現実とかけ離れた出来事が起こるはずがない。

これは夢でなくてはならない。

《キャラクター紹介》


○ザパース・グレイクス

訓練生を守るためヴァルタイユと戦い、死亡した。

型無で、戦意解放力は100%


○イリア・ラフィエ

クロスとティリアを守るためヴァルタイユに挑み死亡した。

剣型は『純光』、戦意解放力は40%

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