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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第一章 黒炎の剣技
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第三話 戦意の操作

「何でそうなるんだ…料理を一回もやったことが無いのか君たちは!」


 マルクが厨房の中で、声を荒げていた。

 見れば、ジンとエリックが地獄のような不器用さで野菜を切っていた。


「んなこと言ったって、俺達剣の特訓しかしたことねえよ…」


「それにマルク、あまり声を大きくするな。俺は大きい音が嫌いなんだ」


 ジンとエリックはそれぞれ文句を言った。

 この訓練所の食事は、支給された食材を使った料理で済ませなければならない。

 何故剣の訓練所で料理なんぞしなければならんのだ。


「かといってジン、君は俺と違って剣技が使えないじゃ無いか」


「うっ」


 追い討ちをかけるようなエリックの言葉に、ジンは喉を詰まらせた。

 昨日部屋で二人に聞いたことなのだが、この訓練所で剣技が使えない人はかなり少ないらしい。

 ジンとイリアに関しては、すでに『剣型強いのに剣技使えないカップル』という認識が広まっている。


「俺たちはまだカップルじゃねえってのに…」


「…今、まだって言っただろ。そのうちなるって事なのかい?訓練所に来ておいて?はぁ…」


 マルクは何度目になるか分からない大きなため息をつくと、机を叩いた。


「とにかく、君たちがちゃんとしてくれないと訓練に間に合わなくなってしまう!自由時間にでも独学で勉強しておいてくれ!」


「へいへい」

「訓練…」


 こうして、初日の忙しい朝を終えた。



 ※



「ようし、初日から罰則を受けたい生徒はいなかったようだな。それでは、今日は訓練の前に簡単な復習授業をする」


 講義室に集まった新人訓練生に向けて、ザパースは声を張り上げた。


「この訓練所を目指す者なら誰もが知っていることを復習するだけだ。文房具は必要ないだろう。

 まず、剣型と剣技についてだ。剣型は主属性と副属性に分かれるお前達の剣技の素となるもの、剣技は、剣型と魔力を使って作り出す強力な技。

 この属性にも特性があり、使える剣技によって得意な闘い方が異なる。

 炎属性は、飲み込む炎の如く、反撃技(カウンター)を得意とする。

 氷属性は、鋭利に尖った氷刃の如く、突き攻撃を得意とする。

 雷属性は、街を飲み込む雷雲の如く、広範囲に高速でダメージを与える。

 風属性は、威力は控えめだが、ハリケーンの如く超広範囲にダメージを与える。

 水属性は、状況に応じて姿を変える水の如く、戦いの時間が長引くほど相手に有利な特性を得る。

 土属性は、人里に流れる土砂の如く、広範囲に高火力を放つ。

 光属性は、目で追えぬ閃光の如く、超高速の技で翻弄する。

 闇属性は、我々には扱えぬ魔法の如く、多彩な形に姿を変える。

 以上が剣型においての属性の特性だ。忘れていた者はしっかり覚えておくように。

 自分の剣型ではなく、相手の剣型の特性を知ることも、勝利への鍵となるからな」


 このへんはもうすでに皆熟知しているので、今更メモをしておく必要はない。

 少し覚えるのが大変な内容だったが、経験とともに頭に入っていくものだ。


「では、今日の訓練の説明をする。今日は初日だからな。一人ずつ俺の元へ来て、俺と決闘をしてもらう。待っている間、素振りや剣技の開発に励んでいなさい」


 訓練所所長と決闘、それを聞いただけで生徒内に緊張が走った。

 ザパース・グレイクス、現在王都で最強クラスと謳われる剣士の内の一人。

 型無であることは公にされていないため『剣技を使わずとも相手を負かすことができる』という情報のみが出回っている。

 そんな彼と決闘をする、恐怖を感じるとともに、ザパースの戦いが目の前で見れるという高揚感が生徒を包んだ。

 そんな訓練生の様子を満足げに眺め、ザパースは外へ促した。


「向こうに一番早く着いたやつから相手してやるぞ!」


 直後、ジンたちは訓練生達の波に押し流されることになった。



 この訓練所は王都から少し離れた、森の近くの平原にぽつんと建っている。

 つまり、この広い平原こそがこの訓練所の中庭というわけだ。

 平原を広々と使い、訓練生達は鍛錬を始めたのだが…


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」」」


 大半の生徒が、ザパースの決闘に見惚れていた。ジンもその一人である。


 ザパースは剣技を使っていないのに、まるで剣技を使っているかのように素早く力強い一撃を放っていた。

 彼は訓練生の実力を見終わった後、本気で負かせに来る。

 相手の剣技直後のほんの一瞬の後隙を狙い、必殺の一撃で仕留めるのだ。

 その動きは人間離れしたもので、後隙狙った懐への潜り込みは、0.1秒もないほどの一瞬だった。

 そして仕留めるたびに、生徒内で歓声が上がった。


「次はジン、来なさい」


 ザパースは家での雰囲気とは違い、射抜くような視線でジンを見た。

 これが剣士ザパース・グレイクスの姿。ジンは唾を飲み込んで前に出た。


 改めて前に立つと、異様な威圧感を感じる。

 よくみんな立ち向かえるな…なんて思っていたが、ジンもけじめをつけて訓練用の木剣を握る。


「こい、ジン」


「おう」


 途端、ジンの体は跳ねるように動いた。

 まずは右を狙うように走り、左手の剣を、右肩に乗せて構える。

 そして間合いに入った瞬間に右回転、左から剣を当てるように振る——が、読まれているかのようにガードされる。

 しかしジンはその剣を左に押す力を変えず、遠心力でザパースの後ろ側に回り込み、剣は間に合いそうにないので足を崩す。


「おうっ!?」


 体制を崩したザパースは一瞬怯むが、ジンの肩を掴み、転倒の勢いで背負い投げ。

 火花を打つような衝撃が背中に走り、ジンは顔をしかめるが、慌てて立ち上がろうとする。


「遅いぞジン」


「いでっ!」


 が、ザパースの木剣に肩を打たれてそのまま地面に倒れ込んだ。

 今ジンはかろうじて状況判断が出来たが、それは自分に起きた事から推測したものだ。

 ザパースの動きは——ジンにはまるで見えていなかった。



 ※



「何で俺があんなに剣技を使うように動けるか、知りたくないか?」


 午前の訓練が終わり、ザパースは訓練生に聞いた。

 もちろん、いいえなんて答えるアホは一人もいるはずがない。


「実は俺や多くのプロ剣士は、『戦意』というものを使いこなしている。午後の訓練では、それについての詳しい説明と、戦意を実際に使う訓練を行うとしよう」


 生徒達は期待に胸を膨らませながら厨房へ向かった。


「それにしてもさっきは凄かったな…」


 食事中、唐突にエリックが口を開いた。

 おそらくザパースのことだ。ジンはため息をついた。


「ああ、俺の知る限りじゃ、勝てるの兄貴しかいねえよ」


「…ん、ジン君、多分エリック君が言いたいのは所長のことじゃないと思う」


「え?」


 イリアは何を言っているのだ、今日凄かったやつといえばザパースくらいしかいないだろう。

 首を傾げていると、一つ思い出したことがあった。

 ジンは決闘が終わった後トイレに行っていた。おそらくその時にそいつが現れたのだ。


「まさか、ザパースに勝ったのか?」


「いや、勝ってはいない」


 答えたのはマルクだった。


「彼女、なんのつもりかは知らないけど、ザパース所長と同じく剣技を使わなかったんだ。なのに所長と同じような動きして…さっき所長が言った『戦意』というものを完全に使いこなしているのかもしれない」


 なるほど、そんな奴がいたとは。ジンは少し燃えてきた。

 身近に強い奴がいるほど実力は伸びるというもの。フィクスが消えた今、そいつを練習台にしよう。

 ジンは毎日決闘を申し込む相手を、その『彼女』とやらに絞った。



 ※



「『戦意』、それは聞けば意味くらいは分かるはずだ。簡単に言えば戦う意志のことだな。戦う意思を操るっていうと不思議に思うだろう。だがよく考えてみろ。「戦いたくない」なんて思ってたら、当然弱くなる。逆に「戦う」という意思を持ってみろ、不思議なことに上がるんだな、『身体能力』が」


 午後の講義室にて、ザパースは精神論みたいなものを自慢げに語っていた。

 生徒達は戦意の扱い方をマスターするべく、文房具をしっかり持って講義に臨み、ジンも借りた羽ペンをそのまま使っている。

 ジンは羽ペンを顎に当てて、少し考えていた。


 戦う意思を持つことによって身体能力が上昇する、こんなことは普通に考えて起きない。

 起きたとしても、自分の限界以上の力は引き出せないはずだ。

 しかしザパースのように長年体を鍛えているならともかく、先の決闘で皆が注目したという少女が同じ動きをしたとすれば、戦意の操作というのはおそらく自分の身体能力の限界以上の力を引き出せるのだろう。

 そんなことが可能だとすればおそらく…


「戦意を操作することで自分の体内にある『魔力』の循環を早め、身体能力と反応速度が格段に上がるという仕組みだ」


『魔力』とは、剣技や魔法を放つ際に消費する、人間の体内に存在するエネルギーのこと。

 なるほど、魔力を体内に送り届けるのが早くなれば、当然身体能力も上がるだろう。


「戦意の操作は、プロの剣士を目指すのならば必ず通るべき道だ。今日、明日、明後日の訓練は全てこの戦意操作を習得するための時間とする。時間が余った者は更なる戦意の上昇に努めよ。それでは午後の訓練開始!」


 訓練生達は文房具を机の上に放置して、急いで外に向かう。

 戦意操作の習得、あのザパースのような動きができるようになるために。


 この訓練は訓練生全員が列で並び、10mほどの距離間隔を空けて行う。

 それぞれが目の前に見えざる敵を想像し、戦う意思を持ち、操る。

 このように、かなり抽象的な訓練である。


 だが、想像力豊かな者ならば、現実に存在するとも知れない脅威を思い浮かべることができる。

 そんな脅威が相手であれば、戦意操作の習得も効率が上がるだろう。

 だが、ジンにそんな空想上の脅威など必要ない。


「俺にとっての最強は、こいつだ」


 突如、目の前に一つの影が降り立つ。

 黒く、赤い長髪を後ろで結んだ男。

 左手に持っているのは『剣聖の剣』、8色の色を放つその剣は、ジンにじわじわとプレッシャーを与える。

 影は剣を構え、一つの剣技をジンに向けて放った。

 彼が放つ剣技、同じく8色の流星群。その剣撃は剣型『覇気』によるもので、全属性が主属性とかいうチートだ。

 そんな存在、この世にいていいのは一人のみ。


 ジンは8色の流星群を全て空想上の剣技で斬り落とし、剣を構える。

 目の前の敵、エルド・デルフ・エスパーダに戦意を抱いて。


 まずは、この身体中に沸いた戦意を使って、どう魔力を循環させるかだ。

 これは感覚の問題、おそらくザパースの助けはないだろう。

 この三日間のうちに習得するしかない。


「まずは戦ってみるか…」


 ジンはエルドに対して剣を振りかぶった。

 当然、エルドはそれをかわす。

 一瞬でジンの視界から消え去り、ジンが再びエルドを捉えた時にはすでに剣技が放たれていた。


「くっ」


 自分で生み出した空想の敵にやられるというのは中々奇妙だが、エルドは攻撃をやめはしない。

 放たれる無数の連撃に、ジンは回避に専念するしかなかった。


 このままではダメだ——そう思い、ジンは脱出するべくエルドの動きを慎重に見極め——


 ——ドクン


 その瞬間鼓動の音がした。

 身体中のエネルギーが高速で流れ、熱くなってくる。

 途端、ジンの足が唐突に早くなり、エルドの剣技がゆっくりに見えた。


(この感覚か!)


 ジンは確信した。

 もうすでに戦意の力は切れてしまっていたが、あの感覚は覚えている。

 あれは間違いなく戦意を操作出来ていた。これを詰めていけば、間違いなく習得できる。


「こういうのは、コツを掴んだ後はもう楽勝なんだろ?やってやるぜ!」

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