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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第十四話 嗤う者

 あの朝、何が起きていたのかはまだ分かっていない。

 朝起きたら昨日木を切って進んだ道がなくなり、森で遭難してしまった。


 まず直後に四人は慌て、絶望した。

 このまま帰れないことを恐れたからだ。

 それに1日でもう森の中心まできていたので、帰れる可能性は低い。


 しかし現在は仮説がある。

 強力な魔獣が魔法で草を生やしたという説だ。


 ちなみに『魔物』は、簡単なものに限定されるが魔法を使うことができる。

 魔法のことは詳しく知らないが、おそらく土属性や水属性の魔法を使えば植物をどうにかすることが出来るのではないだろうか。


 とにかくここから抜け出す必要がある。

 ジン達は太陽の動きを見て、毎日コツコツと進んでいた。


「食料もそろそろ尽きてきましたよ」


「おいティリア、そういうネガティブな話をするな…」


「あ、ごめんなさい」


 そう、食料ももうそろそろ尽きそうなのだ。

 また魔獣を見つけるか、早くクアランドに着いて食事をする必要がある。

 少なくとも魔剣の分の金は足りなくなるだろう。


 とんでもない無駄足にため息をついていると、


「やあ、君たちも旅かい」


 背後から声をかけられた。


「あ?誰だお前」


「アクト・バロピサ、通りすがりの旅人だ。少し談笑でもしようじゃないか」


 そういうと、アクトはジンの横に並んで歩き始めた。


 桃色の髪の少年だ。それは目も同じことだが、鮮やかすぎるような気がする。

 服装はフードのついた上着にズボンを履いている。ジンはズボンの種類などはよく知らないが、おそらくトアペトラの物だろう。

 旅人はトアペトラに旅行に行くことも多いため、こういう服装の旅人も少なくはない。


「一人旅か。暇なのは分かるけど、生憎俺らはそれどころじゃない」


「ん?何かトラブルが?」


「実は遭難していてな」


 ため息混じりにそう答えると、アクトは嬉々としていった。


「それは運が悪かった、でも不幸中の幸いというやつだよ」


「どういうことだ」


「僕はこの森にしばらく滞在していてね、道はある程度把握している」


 アクトは親指を立てて、歯を見せて言った。


「僕が君たちを助けてあげよう」



 ※



「なんて言って、着いたのが洞窟ってどういうことだよ」


 洞窟に閉じ込められ、ジン達は唖然としていた。


 アクトは何故か、クアランドに連れて行くと偽って洞窟に連れてきた。

 そして洞窟の入り口を破壊して、完全に閉じ込められてしまった。

 訳がわからない、何故あんな無意味なことをしたのか。

 もしかしたら、ただ嫌がらせをするだけの趣味が悪い旅人なのかもしれない。

 植物の再生を促したのもあるいは…


「そもそもあんなぽっと出の訳わからんやつについて行っちまったのが間違いだったんだ…」


「どうするんですか兄貴さん、あたしたち本当に餓死してしまいますよ」


 割と冷静なティリアが言った。


 当然、洞窟内に腹の足しになりそうなものがある訳がない。

 一年前ドラゴンが住んでいた洞窟よりは広そうだが、食物がある可能性は低い。


「とりあえず出口をさがそう。入り口が複数あるかもしれない」


 イリアの提案に、三人は頷いた。

 どちらにしろここから出られなければ死ぬだけだ。


「じゃあ俺、ちょっと重力操作でこの岩どかしてみます。兄貴達は他を探してみてください」


 そう言って、クロスは入り口の岩に集中し始めた。


 皆、自分のできることをやろうと努力している。

 ジンもしっかりしなければならない。

 そう考え、ジンは出口を探すために駆け出した。


 この洞窟はいくつもの部屋に分かれていて、そのすべての部屋に美しい結晶が生えていた。

 結晶から微量の魔力を感じる。クアランドはその地全てに魔力が流れているのだろうか。

 洞窟内は、この結晶から溢れ出す魔力が充満しているようだった。


「この宝石は一段とでかいな…」


 ジンは壁に埋まっている巨大な宝石に触れた。


 高さは10m以上だ。

 埋まっている部分を掘り起こせば、もっと大きくなるかもしれない。


 その宝石にジンが感心していると、


「……なんだ?」


 洞窟が揺れ始めた。

 その振動は、ジンが触れている宝石から伝わっているような気がする。


「ジン君、危ない!」


 イリアがジンの身体を掴み、床に伏せた。

 直後宝石が動き出す。


 壁が倒壊し、埋もれていた部分の宝石が全て露わになった。

 そして壁から触覚、足、と細い部分が現れる。

 その姿は巨大な蟻のようだった。


「魔物か!?」


 まずい、これだけ魔力が溢れている空間で育った魔物ならば、通常の人間が勝てる相手ではない。

 一刻も早くこの場から逃げなければ。

 だが、


「兄貴さん!間に合いません!」


 その蟻の噛みつきは、ドラゴンの攻撃よりも遥かに速い。

 ジンには対処できそうにない。


「クソ…こんなところで、こんな間抜けな死に方してたまるかよ…!『神炎刃デッドライン』———ッッッ!!!」


 ギリギリのところでカウンター剣技を発動し、ジンへの攻撃を防ぐ。

 そして…


 剣ごとジンの体が吹き飛ばされた。



 ※



「異能『塔』、相手の絶望を喰らい自身の身体能力、戦意解放力、保有魔力へと変換する。そしてその強化は相手の持つ希望の量だけ大きくなり、際限なく強くなれる。いや…改めて考えてもその力は脅威だね、アクト・バロピサ」


 洞窟の内部の状況を確認したアクトに、一人の男が話しかけた。

 紳士用のコートに身を包み、中折れ帽を被った青年だ。かつてザパースが対峙した三人組の剣士と同じ服装をしている。


 だが彼が放つ気は、あの三人とはかけ離れたものだ。

 何故だか、周囲に立つものを不快にさせる。


 青年は口元を歪めながら、アクトの背後で風にコートを靡かせている。


「君が将来僕の前に立ちはだかることは分かっているが、今は手を打たないでおくよ」


「はっ、その舐めた態度がテメエを追い詰めることになるんだぜ」


 先程は爽やかな印象だったアクトは一変、目を釣り上げて青年に対して敵意を剥き出しにしていた。


 これがアクトの本性だ。

『塔』の異能のために沢山の人を絶望に陥れ、力を蓄えている。

 先程の爽やかな印象は、相手から安心と希望を貰うための手段でしかない。


「俺には使命がある。テメエを殺すことが『塔』の目的だ」


「それはある種の呪いだよ、アクト・バロピサ」


 そう言うと、青年は踵を返してその場を去ろうとした。

 口元にはずっと()()を浮かべながら。


 その背中をじっと見つめながら、アクトは呟いた。


「お前を殺して俺が最強になってやるさ、ヴァルタイユ・ミラ・バルザイド」

《キャラクター紹介》


○アクト・バロピサ

突如現れ、ジン達の遭難をさらに深刻にした桃色の髪の少年。

異能『塔』に力を集めるため、各地で絶望を集めている。


○ヴァルタイユ・ミラ・バルザイド

紳士用のコートに身を包む謎の青年。

口元には常に嗤いを浮かべている。

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