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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第十三話 森

「この先は森が続いているからな、気をつけろよ」


 気の良さそうな兵士にチェックポイントから見送ってもらい、ジン達一行は森に突入した。


 なるほど、確かに足場が少なく迷子になりやすそうだ。

 すでに草木を切って進む必要がある。


 しかし大自然の中に身を投じるというのはなんとも心地よい。

 木々が生い茂っているからか、酸素が多く感じる。


 だがクロスはそうは思っていないようだ。


「自然の匂いは臭いですね」


「お前な…」


 確かに一理あるのだが、男たるもの大自然にロマンを感じて欲しいものである。


 それに将来騎士になれば、調査隊にされることも少なくはない。

 自然の匂いに違和感を持っているようでは、満足に騎士の務めを果たせるかどうか心配だ。


「まあ確かに虫は鬱陶しいよね〜。いくらこっちが強くても無限に湧いてくるし…」


「そうだよね、私も虫苦手」


 女性陣もこんな様子だ。

 ティリアの言っていることは分かる、確かに虫はただ鬱陶しいだけの存在だ。

 旅先でも厄介になると有名なのだが…


「虫いねえな」


「確かに、何でだろう」


 そう、先ほどから虫らしい生物が一匹も見当たらないのだ。

 誰かが駆除でもしたのか…あるいは危機的状況を察知して逃げ出したのか。


「まあ考えても仕方ねえな、とりあえず森をさっさと抜け出すことを考えよう」


「でも、森って何日くらいで抜け出せるんですか?」


「う〜ん、確か明日には抜け出せるくらいの大きさだったような気がする…」


「とりあえず進めるだけ進んで、日が沈みそうになったらテントを張るぜ」


「じゃああたしは見張り!」


「ティリアは魔物と戦いたいだけだろ?」


「まあそうなんだけど…クロスも戦いたいの?」


「お、俺はティリアみたいな戦闘狂じゃないぞ!」


「戦闘狂…?あたしのことそんなふうに思ってたの?」


「喧嘩するのはいいけど帰ったらにしてな」


 だんだん燃え始めてきたクロスとティリアを適当に宥め、ジンは木々を切って進んでいく。


 今はジンが戦闘を歩き、後ろにクロス、ティリア、イリアと並んでいる状態だ。

 単純に先輩が後輩を守れる一般的な並び順である。

 まあこの二人なら自己防衛出来るだけの実力があるわけだが、形だけでも守っておきたい。



 ※



 日が沈み始め、ジンとクロスは協力してテントを張っていた。

 非常食を少しでも温存するため、イリアとティリアは木の実を持ってきてくれるらしい。


 ティリアが野生の獣に襲い掛からないか不安だが、イリアがどうにかしてくれるだろう。

 獣肉を喰らうより、果実で腹を満たした方が満足できるはずだ。

 それに肉を捌いて調理する時間が勿体無い。


「筋肉をつけたいなら、肉は沢山食べないとですよね」


「おう。何だ、お前筋肉無いのか?」


「いや…多少はありますけど、強さを目指すなら肉体の強化にも力を入れておきたいなって」


「まあ獣肉不味くて食いたくないっていう俺の意見より、お前の意見のほうが数倍美徳だよな」


 ウエラルドでは、肉はあまり美味しい食材として知られていない。

 別に香辛料や調味料が無いわけではないのだが、ウエラルド周辺に美味しい肉がとれる獣がいないのだ。

 しかし竜国ドラグニカから取り寄せたドラゴン肉は絶品で、非常に高い値段で売られている。

 エスパーダ家の食卓にも、何度か出されたことがある。


 別に好き嫌いが激しいと言うわけでは無いのだが、今は食に困っていない。

 美味しく無いものはあまり食べる必要がないのだ。


 しかし可愛い後輩が筋肉をつけたいと言っているのだから仕方あるまい。

 イリア達が帰ってきたら獣を捕まえてくることにしよう。

 確か匂いがあまりキツくない獣もいたはずだ。


 そんなことを考えていると、


「ただいま〜」


 ティリアが満面の笑みで帰ってきた。

 そして後ろから出てきたイリアは、とんでも無いものを引きずっていた。


「お前…それ魔獣じゃね?」


「あはは、ティリアに見つかっちゃったみたいで…」


 なんとイリアが引きずっていたのは、闇の魔力によって生まれた『魔物』だった。

 魔獣は魔物のなかで獣のような形をしているもの全般のことを指し、野生の獣とほぼ同じ性質を持つ。


 そして何と言っても、魔獣の肉は匂いが酷い。ジンは食べたことがないのだが、ザパースが顔を顰めて話してくれた。

 しかし栄養はあり、健康にも害はないようだ。

 それもそのはず、タンパク質にプラスして魔力が入っているのだ。体に悪いはずがない。


 昔は『闇の魔力は危険なもの』として、闇属性の剣型を持つものが少しだけ差別されていたようだが、現在は通常の属性として認められている。

 魔獣の肉も昔は食べることを許されていなかったが、現在は奇食として一部の人間に人気らしい。


「よりによって何で魔獣なんだ…せっかく匂いが気にならない獣を捕まえてこようと思ったのに」


「あ、そのことなんだけど、野生の動物ほとんどいなくなってたよ」


「な…」


 どういうことだ、この広い森の中で動物が消えるなんてことはありえない。

 やはり何らかの脅威がこの森にあるというのか。


「明日は朝早く起きて出発することにしよう、今夜の見張りも二人で交互に行うことにする」


「そうですね、組み合わせは俺ティリア、兄貴イリアさんでいいですか」


「んふふ〜、クロスはあたしとくっつきたいのかな?」


「なっ…そ、そんなわけないだろ!?馬鹿言うなよな!」


 クロスは顔を真っ赤にして首を振った。


「俺は兄貴とイリアさんにもっと仲良くなってもらいたいんだ!」


「え…?」

「ん…?」


 クロスが勢い任せに叫んでしまった言葉に、ジンとイリアは顔を見合わせた。

 幼馴染なんだから仲が良くないはずがないと、クロスの言っていることが理解できなかったのだが…。

 クロスの言いたいことがわかってしまった瞬間、ジンとイリアは顔を真っ赤にして距離を取った。


「ばっ、お前なに言っちゃってんの!?」


「そ、そうだよ!恥ずかしいよ!?」


「え?俺はただ善意で…」


「あはは、面白いね!側から男女関係見るのって!」


 ジン達の慌てようを見て、ティリアは単純に楽しんでいる様子だ。

 強さといい性格といい、本当に生意気な後輩である。



 ※



「やっべえ、まだ匂いが鼻についてるぞ…手も臭えし」


「あはは、お疲れ〜。なんかごめんね」


 獣肉の匂いに悶えるジンに、イリアが笑顔で返した。


 夕食に獣肉を焼いて食べたのだが、ある程度の肉を薄く捌いて干し肉にすることにしたのだ。

 その作業をしていたジンの手はもう、生肉の匂いで覆い尽くされていた。

 川で手を洗ってきても取れないので、これはもう腹を括るしかなかった。


 それにしても、こうして二人になってしまうと、先ほどクロスが言っていたことが気になってしまう。


 最初に言っておくが、ジンはイリアのことはしっかり女性として見ている。

 訓練所内でカップルと冷やかされることも多々あったが、そのたびにジンは顔を真っ赤にしていた。


 彼女がジンをどう思っているのか、出来ればここで聞いておきたい。


「ねえジン君」


「うひゃい!」


「…うひゃい?」


 しまった、唐突に声をかけられてつい間抜けな声を出してしまった。


「な、なんだ?」


「川にも魚はいなかったの?」


 そう聞かれて、ジンはホッとしたような、しかし残念な気分になった。


 向こうから「好き♡」とか言ってくれれば楽だったのに…などというヘタレっぷりをかましながら、ジンは川の様子を思い出した。

 確かに魚はいなかった。


「そうだな…やっぱり何かあるのかもしれないな」


「帰ったら所長に報告しておいたほうがよさそう」


 そんな会話をして、ジンは顔をしかめた。


 イリアと結ばれたとして、この先の訓練に集中できるだろうか。

 もし出来ないならば、今告白することに意味はない。


 イリアはきっとそれが分かっているのだ。


 だからこの気持ちは抑えておくべきだ。

 ジンが『みんなを守れる最強の剣士』になるその時まで。



 ※



 朝日が登り始め、少し薄暗い時間帯。

 見張りを任せていたクロスとティリアに起こされ、ジンとイリアは旅の支度を始めた。


 テントをたたみ、干し肉がかかった枝をクロスとイリアに持たせた。(背丈が丁度同じくらいだったため)


「さて、出発だな。それじゃあ来た道は…」


 そう言ってジンが帰り道の方角を確認しようとすると…


「あ?」


「ん?兄貴どうしました?」


 ジンの訝しむ様な声を聞いてクロスが近づいてきた。

 そしてジンと同じ光景を目にしたクロスは唖然とした。


「全方面、木が生えてる…」


 切ったはずの木が一晩のうちに再生していた。

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