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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第十二話 新たなる旅

剣交祭から数週間後、地下通路をウァルスはただ歩いていた。

石造の暗い廊下が延々と続く中、壁にかかった蝋燭の火だけが黄色の髪を照らしている。


やがて一つの部屋の前にたどり着いた。

鉄で装飾された木の扉を押し開け、ウァルスは相変わらずの呑気な声で言った。


「エルド、あいつらの異能が分かったぜい」


「そうか」


そう言って、エルドは腰掛けていた椅子から立ち上がった。


剣聖に用意された部屋にしては質素だった。

廊下とは違って木造ではあるが、明るさはあまり変わらない。

ベッド、机、椅子、本棚があり、蝋燭がそれらを照らしているだけだ。


「やはり異能を持っていたか。それで、何の異能だ?」


エルドに問われ、ウァルスは得意げにとある本を取り出した。


「クアランドの王立図書館に忍び込んでさ、異能について書かれた本を取り出したんだ」


「クアランド…魔法大国か。それにしても異能について書かれた本があるとはな」


「正確には『描かれた』かな。どういうわけかこの本、絵しか載ってないんだ」


「…お前はその絵の中からそれらしいものを推測したわけか」


「そういうこと」


理解が早いエルドに満足げに頷くと、ウァルスはページをめくり始めた。

確か載っていたはずだ。あの二人の異能を描いたような絵が。


「あった!これだ」


ウァルスがその絵を見せて、ページを数えた。


「15…16……重力操作は17番の『星』っぽいぜ」


「確かに、それらしい絵が載っているな。『正義』も同様だ」


エルドは納得したように言うと、やがて本を本棚にしまった。


そして振り返ると、バッと手のひらをウァルスに向けて言った。


「『魔術師』ウァルス・ネイン、お前に『星』と『正義』の回収を命じる」


「え、俺?」


「ああ、もしトラブルがあったなら『通信石』で連絡してくれ」


「はぁ…帰ってきたばかりなのに…」


がっくり肩を落とすと、やがて気合を入れるように拳を握った。

そして部屋を後にすると、猛ダッシュで駆け出していった。


目指すは訓練所だ。





「何?クアランドに旅をしに行きたい?」


唐突な要求に、ザパースは困惑から眉を顰めた。

要求してきたのはジン、イリア、クロス、ティリアの四人だ。


「何故だ」


「まあ訓練をしていく中で、『魔器』って大事だなって思ったわけよ。それで、エスパーダ家の金使って四人分の魔剣を作りに行こうかなーっていうのがクロスのアイデア」


「ちょ、俺だけのせいじゃないですって!兄貴達も承諾したじゃないですか!」


ジンの言った言葉に、ザパースは苦笑した。


クアランドは四大国の内の一つで、世界で最も魔法が栄えている国だ。

当然魔法技術が使われている『魔器』を作るなら、クアランドが一番いいだろう。


だが『魔器』は、訓練所を卒業すれば好きなものを作ってもらえる。

そんなに急ぐ必要は無いはずだ。


それだけ先の剣交祭が彼らの影響を及ぼしているのかもしれない。


「それは構わないが…金は用意できたのか?金庫はこの部屋にあるはずだが」


「貰ってから行くつもり。金くれ」


「こいつ…」


ザパースはため息を吐くと、鍵を持って奥の部屋に向かった。

そして金庫を開けると、中から魔剣用と旅用の通貨を取り出した。

トアペトラ以外の全ての国は共通通貨なので問題は無いだろう。


通貨を袋に入れると、それをジンに手渡して言った。


「さて、訓練生ジン、イリア、クロス、ティリアの四名が訓練所を一時的に出ることを許可する。旅先でも訓練を怠らないように」


「はい!」


四人は姿勢を正して言うと、一人ずつ退室していった。


しかしクアランドはドラゴンの件の洞窟よりもだいぶ遠い。

あの四人ならなんとかできると思うが、それでも心配だ。


「何にせよ、森があるからな…」


クアランドに行く途中の森はなかなか入り組んでいて、一度でも方向を見失うと抜け出すことは困難だ。

行方不明になった旅人も少なくは無い。


「まあ最悪の場合、騎士団に捜索の依頼を出せばいいだろう」


そう考え、ザパースは再び書類と向き合うことにした。

すると…


「失礼します」


そう言って、マルクが入ってきた。


「マルク、珍しいな。戦闘のことで相談が?」


「いえ、訓練なら僕一人でできます。それより…」


マルクは窓の方を一瞥すると、やがてこう言った。


「訓練所内に不審者が」





「今魔法で探してみたんだけどさ、二人とも旅に行っちゃったみたい」


項垂れた様子でウァルスがそういうと、通信石の向こうからもため息が聞こえてきた。


通信石はクアランドの魔法使いが作ったルーン石で、遠く離れていても通信することが出来る魔法が入っている。

現在ではトアペトラ以外の国でかなり役立っているものだ。


《分かった、二人が帰ってきてから勧誘しよう》


「じゃあ、それまで俺は休みで良いってことか!?」


《定期的に訓練所の状況を報告してくれ》


エルドはそう言って、通信を切ってしまった。


「あれ、俺の休暇は?」


聞いても返事がないので、ウァルスは再び盛大なため息を吐いた。

しかたない、監視用の罠魔法でも張っておくか、なんて考えていると。


「何者だ貴様」


気づけば背後から剣が突きつけられていた。


「ここはウエラルドの剣士達を育む訓練所だ。貴様のような訳のわからん輩を放っておくわけにはいかん。妙な真似をすれば斬るぞ」


「おやー?所長のザパース・グレイクスさんじゃないか。随分物騒なことを言うもんだ」


目を見開いた間抜け面でそう言うと、ウァルスは慌てることなく振り向いた。

ザパースが斬りかかってくることを読んでの行動だった。


ザパースは瞬時にして戦意操作を行い、解放力100%の刃を振りかざした。

そしてそれはウァルスに届こうという瞬間に弾かれてしまった。


「———ッ!?『シールドフォース』だと!」


「お爺さん、魔法を知っているのかい」


ウァルスは愉快そうに笑うと、ザパースを指差していった。


「だが、今の世界の状況は知らないみたいだなあ」


「…どういうことだ」


ウァルスは大袈裟な手振りをすると、やがて声高らかに叫んだ。


「今世界が、崩壊寸前の状態だってことをさ!」





「鋼の剣、テント、地図、そして保存食セット。注文はバッチリだな」


「一年前と比べて、食料には困らなそうだね!」


ジンが指差し確認を終え、一行は旅に出た。

クアランドへの道のりはある程度把握し、かかる日にちも計算しておいた。

おそらく2週間ほどになるだろう。


「でも兄貴さん、森は大丈夫なんでしょうか?」


ティリアが心配そうに聞いた。

確かクアランドに行く道のりで、旅人がよく迷うという森があったはずだ。


「なんか木とか切って目印にすると良いらしいぜ」


ジンはギルドで盗み聞いた情報を口にした。

それさえしていれば、帰ることは可能なのだとか。


「まずは森に着くことが先決だ。常に戦意操作しておこうぜ」


「つ、疲れちゃいますよ…」


「馬鹿、戦意操作に慣れておくことも必要なんだぜ。俺はこの前『24時間戦意操作チャレンジ』したからな」


「え、それは凄いですよ兄貴さん」


「でもジン君達成出来なかったんじゃなかった?」


「おい、言うなよそれを…」


イリアが口にした事実に、ジンは頭を抱えた。

まあ、戦意操作に慣れておくのは大切だ。

それに戦意操作を行なっていれば、歩いていても移動速度は上がる。

クアランドに着くのも早くなるだろう。


「森に着くまではチェックポイントもあるはずだ、最初の何日かは簡単に行くだろうよ」


そう言って、ジンは遥か遠くまで続く平原を眺めて目を細めた。

《キャラクター紹介》


○エルド・デルフ・エスパーダ

ジンの兄で、今代の剣聖。

何か目的があって、『異能者』を集めているらしい。

剣型は『覇気』(主属性:炎氷雷風土水光闇)

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