第七話 暴風の解放
ティリアが圧倒的な勝利を手にして、観客席は大いに盛り上がっていた。
剣交祭で本選に上がれるのは、訓練所内での強者の中で勝ち上がった者のみ。
かつての剣交祭で、これほどの速さで試合を終わらせた剣士はエルドしかいない。
だがどうだろう、今年の剣交祭は。
今現在、ジンがエリックに対して圧倒的な剣技特攻を行なっているところだ。
「『黒滅斬』!『黒滅斬』!『黒滅斬』!」
振る攻撃全てが剣技、それが『黒炎』だというのならば、もう相手はなす術もないだろう。
やがて剣圧に押されたエリックが、場外に押し出されて負けてしまった。
「勝者、ジン・デルフ・エスパーダ!」
生まれ持った大量の魔力を用いた剣技は、観客の心を滾らせた。
圧勝だったにもかかわらず、この戦いは熱かったのだ。
しかし、次からはそう簡単にはいかないかもしれない。
試合を終えたジンは、トーナメント表の前で考え事をしていた。
次の戦いはイリアの番、対戦相手はハク・エイブ。
ハク・エイブといえば、ジンの次に強いと言われる『副闇』の使い手だ。
髪を長く伸ばした長身美形の男で、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
彼の戦い方はまさに芸術で、相手の目を奪うほどの美しい剣技で翻弄するのだそうだ。
ジンに戦いを申し込んでこなかったので、実際には見たことないが。
「気をつけろよイリア、ハクはだいぶ強いらしいからな」
「うん、心配してくれてありがとう。でも大丈夫」
イリアは優しく微笑むと、顔を引き締めた。
「私だってこの日のために頑張ってきたんだから」
そう言って、彼女はハクと並んで歩き出した。
ザパースの声が響き、二人は闘技場の中心へと入場する。
そして互いに距離をとり、武器を構えて静止した。
やがてザパースは大きく息を吸い、決闘開始の合図を出した。
「始めッ!」
直後、イリアは魔力を両足に溜め込み、目で追えないほどの速度でハクに近づいた。
『光速術』ならば、ハクを圧倒することができるかもしれない。
だがハクはそれを読んでいたかのように交わした。
「『光速術』は対策済みのようですね、イリアはどうするのかな…」
ティリアは顎に手を当てて、イリアの戦いを見守っていた。
ティリアは対策済みと言ったが、ハクはイリアを目で捉える前に軌道を読んでいるだけに見える。
ジンがやられたように、瞬時の折り返しには対応できまい。
だがそんなジンの予想を、ハクは簡単に裏切った。
「『常闇の剣』」
彼がそう呟くと同時に、斬りかかったイリアに黒い一閃が襲いかかった。
「え——」
何をくらったのか理解できないイリアは、剣技の勢いに吹き飛ばされた。
2mほど先で受け身を取り、自分が攻撃を食らった左腕に手を当てた。
一体どんな剣技を使ったのか。
イリアが確かめるべくハクに視線を向けるとそこには、禍々しく光る1本の剣が宙に浮いていた。
あれが彼の剣技だろうか。噂に聞いていた『芸術』という言葉は、どちらかと言うとハクを皮肉っているように思える。
「驚かせてしまったようだね。これが僕の剣技『常闇の剣』だ。前方は僕の剣が、後方はこの魔力で作られた剣が支配する。背後からの攻撃は効かないと思っておいた方がいい」
ハクは静かにそう言うと、負傷したイリアに少しずつ近づいていった。
「僕には人をいたぶる趣味はない、出来れば降参してほしい」
「そんなことするわけないよ!」
「それは困った。どうすれば君を降参させられるだろうか」
考え込むハクに、イリアは問答無用で斬りかかった。
当然、それは魔力の剣に防がれてしまう。
イリアは剣を弾かれ、再び距離をとった。
それから何回かイリアの挑みが続いたが、彼女に勝てる見込みはほとんど無かった。
「何故イリアさんは剣技を使わないんだ」
ジンとティリアの隣で、クロスはもどかしそうに言った。
確かに、『純光』の剣技を使えば速さでカバーできる部分もあるかもしれない。
一体何故イリアは剣技を使わないのか。ジンも首を傾げるしかなかった。
イリアは諦める事をしらず、何度も何度も魔力の剣に立ち向かっては返り討ちにあっていた。
だがそれは唐突に訪れる。
吹き飛ばされたイリアはめげずに立ち上がり———安心したように微笑んだ。
「ハク君、一ついい事を教えてあげる」
「うん?何かな」
「闇は、強い光に簡単に飲み込まれちゃうって事」
そういうと、イリアは再び両足に魔力を込め、ハク目掛けて突進した。
ハクは先程のようにイリアの突進を交わし、折り返してくるイリアに警戒して、魔力の剣に集中した。
その行動が命取りだった。
「剣技は、剣技で相殺できるんだよ!『神速の輝線』———ッッッ!!!」
イリアが放った『純光』の剣技に直撃し、魔力の剣はガラスが散るような音とともに砕け散った。
「しまっ———」
ハクは慌てて剣を後ろに振りかざそうとするがもう遅い。
イリアはハクの背中に両手を押し当て、『光速術』の速さを生かしてぐんぐん突き進んでいく。
目指すは場外だ。
やがて1秒もしないうちに、ハクは場外の床に投げ出されていた。
「勝者、イリア・ラフィエ!」
ザパースの合図とともに、この試合は終了した。
※
「つまり、魔力の剣が通常の剣技と違う可能性を見越して、剣技を取っておいたってのか?」
「うん、通常の剣技と違うなら、剣技で相殺できなかったかもしれないからね」
ジンが呆れたように聞くと、イリアは照れ臭そうに答えた。
全くだからといってあんな無茶な戦い方はやめて欲しかった。
心配しているこちらの身にもなってほしい。
(でもイリアだって立派に騎士目指してんだもんな…)
そうなれば、安全な戦い方をなんてことは言っていられない。
彼女も将来のための立派な訓練をしているのだ。ここは黙っておくべきだろう。
「それはそうとして、次はクロス対マルクだな。お前ら互いに頑張れよ」
「はい!勝ち上がって、兄貴と戦います!」
「それはちょっと気が早いけどな。なんにせよ頑張れ」
ジンの言葉に頷くと、クロスは顔を強張らせて入場していった。
マルクもフンと鼻を鳴らすと、クロスの後に続いた。
ティリアは『光速術』を習得したと聞いたが、クロスはまだらしい。
やはりセンスの違いだろうが、とにかくクロスには長所と呼べる長所がない。
そしてマルクは、訓練所に入って以来一度も実力を明かしていない。
これで大したことがなかったとかなら笑い物なのだが、彼が隠したがる力なら相当のものだろう。
クロスはこの試合をどう乗り越えるのか。
互いに武器を構え、ザパースの合図を待っている状態。
やがてザパースは息を大きく吸うと、いつものように合図をだした。
「始めッ!」
「『星屑の剣流』———ッッッ!!!」
光属性の力を大いに滾らせ、クロスは攻撃用の剣技を放った。
『星屑の剣流』は2本の剣を振りかざし、魔力によって生成した炎属性の石を剣気と共に高速で撃ち出す、光属性と炎属性の両方を使った技だ。
その剣技は普通の剣士であれば、剣で防ぎきれずに大量の炎石をくらってしまう。
だが、マルクは違った。
突然自分の剣の剣先を下に向け、床に触れるように降ろし呟いた。
「剣技『風域・減速の型』」
直後、床からものすごい量の風が吹き荒れ、『星屑の剣流』によって生み出された炎石は跳ね返されてしまった。
「あの技は!」
待合室にいたジン、イリア、ティリアを始め、この闘技場で試合を見守っていた剣士全員が目を見開いた。
あれは一般の騎士でさえも習得出来ない者がいるほどの、超高難度な剣技の形である。
腕に溜めた魔力を剣先から地面に向けて放出するのだが、普通の地面に撃ち出した場合はただ魔力が吹き荒れて終わってしまう。
だがこの技の形は、撃ち出す前の魔力の流れを操作し、撃ち出した後に完璧な魔力の流れが生まれるように出来上がっている。
その魔力の流れの威力は、初歩の魔法に匹敵する。
魔法が使えなくとも魔法が使える技、剣士の間では『剣域』と呼ばれている。
「どうしたクロス、顔が青いよ」
皆の反応に満足だったのか、マルクはらしくない笑みを浮かべてクロスを見た。
さらにここから、マルクの実力が発揮されることになる。
マルクは剣を構えると、クロスにものすごい勢いで迫っていった。
その瞬間、ジンは自分の目を疑った。
マルクがクロスに迫る速さ、その速さはアゼルスを超えていた。
「聞いて驚け!僕の戦意解放力は———」
マルクはクロスに一撃を与え、退くクロスを追いながら叫んだ。
「———90%だッ!」
自身が放とうとする剣技の風に髪を逆立たせながら、マルクは口元を歪めた。
《キャラクター紹介》
○ハク・エイブ
訓練所内で二位の実力を誇る。
剣技『常闇の剣』を使い、前後の敵を相手取る。
剣型は『副闇』(副属性:闇)
○マルク・フラート
ジンのルームメイトで、一年間実力を隠し続けてきた。
剣型は『副風』(副属性:風)
戦意解放力は90%。




