表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
19/198

第六話 剣交祭

 ここはウエラルド王国に存在するたった一つの闘技場。

 普段は騎士団や王族の嗜みとして使われているが、一年に一度最大のイベントが行われる。


 それが、ウエラルド訓練所の訓練生同士で戦う勝ち上がり式の闘い、『剣交祭』だ。


 このイベントが開催されると、毎年王都の人口の約半数以上が試合を観にくる。

 それは王族や騎士団長なども例外ではない。

 とくに騎士団長は、剣交祭から逸材を見つけ出すことが多々あるようだ。


 剣交祭のルールは、予選で勝ち上がった8人の訓練生をトーナメントで組み、決闘をさせると言うもの。

 決闘の立会人は全てザパースが受け持ち、決闘は公式ルールで行う。


 公式ルールはウエラルド王国だけでなく、世界中の国で適用されている決闘ルールのことだ。


 勝利条件は『場外』『気絶』『降参』『強制リタイア』の4種類。

『強制リタイア』は立会人が危険だと判断した場合強制的に試合を終了させることをいう。


 これらの条件内で勝ち上がり、勝利し続けたものが優勝者となる。

 優勝すれば、訓練所を卒業したあとすぐに騎士団に入れてもらえることもあるため、訓練生ならば絶対に勝ちたいイベントである。


「初剣交祭!燃えてきたぜ!」


 闘技場を外から眺めながら、ジンは清々しい思いで拳を掲げた。


 ここで勝ち上がり、自分はアゼルスに挑戦する。

 ルシファーのもとで頑張っているフィクスにも応えなければならない。


「焦るなよ兄貴、まずは予選だからな。気を引き締めていこう」


「そうさ、予選で負けたりしたら笑い物だ。訓練所最強を名乗りたいならの話だが」


「分かってるって。絶対負けねえからな!」


 そんなやりとりをして、一行は闘技場に入っていった。


 クロスもジンと同じように闘技場を見上げ、顔を引き締めた。

 ルシファーに応えたい。そう思っているのだろう。

 彼もジンの後に続いて闘技場の中に入っていった。



 ※



「予選が始まるみたいですよ、ルシファーさん。急いだほうがいいんじゃないですか」


 ルシファーを、青い髪の少年がとんとんと叩いた。

 フィクスだ。相変わらずの女のような声でルシファーに話しかけている。


「分かっているさ。だがどうしてもこれが美味しそうでね」


「ああ…ルシファーさん甘いもの好きですもんね」


 ルシファーは目の前の屋台、フルーツに溶かした砂糖をかけたような菓子と睨めっこしていた。

 フルーツの種類が多すぎるのだ。とても選びきれない。


「なあフィクス、君はこの中のフルーツのどれが良いと思う?」


「そんなの僕に聞かれても困りますよ…。無難にそれでいいんじゃないですか?」


 そういってフィクスは、メジャーな赤い果実を取って、会計を済ませてしまった。


「お、おい、勘弁してくれ。選んでいるのが一番楽しいんじゃないか」


「だから急いだほうがいいんですって。弟さんも来てるんでしょう?」


 フィクスにそう言われて、ルシファーは苦い顔をした。


 そうだ、クロスが来ているのだ。

 兄としてあの子の試合は見てやらなくてはならない。


「…強くなれただろうか」


 そう呟き、ルシファーは口元を緩めた。



 ※



「もう始まっているようね」


 アゼルスは柱の影に佇む一人の少女に声をかけた。


 年齢はアゼルスやジンと同じくらいで、長い山吹色の髪を右に束ねている。

 目は太陽のように輝いているが、それを細めているせいで可愛らしいというより妖艶なイメージが強い。


 着用しているドレスは豪華な装飾で飾り付けられ、腰には長い刀が差してある。

 おそらく護衛用だ。この国では強い者が貴族となるため、このように自分で武器を保持していることが多い。


 彼女はその目を一段と細めて、予選のうちの一つの試合に集中している。


「誰か気になる生徒がいるの?」


「ええ、あの生徒の構えを見ているとモヤモヤするのよ。隙が多すぎる」


 その返答を聞いて、アゼルスは苦笑いをした。

 この人は人を否定的に見る癖があるのだ。騎士団員同士の決闘を見ている時も、こういう発言ばかりである。


 少女はため息を吐くと、やがて決闘を見るのをやめ、どこかへ歩いていこうとした。


「見なくていいのかしら?」


「つまらないのよ。決勝が始まったらアタシの部屋に呼びに来なさい」


 そう言って、少女は去ってしまった。


 アゼルスは肩をすくめると、予選に集中した。


 知っている生徒が何人か勝ち上がっているのを見て、思わず口元が緩んでしまう。

 そして彼女は、お目当ての生徒の姿を探し始めた。


 いた、ジンだ。

 ジンは予選を終わらせるのが早かったのか、もうトーナメント表の前で腕組みしている。


「期待を裏切らなかったようね」


 アゼルスはジンの様子に安心したのか、小さく微笑んだ。



 ※



 予選が終了し、本選に出場できる8人の訓練生が控え室に集まった。


「お前達には今から、これらの武器から好きなものを選んでもらう。自分に一番あった武器を選ぶといい」


 ザパースはそう言うと、控え室に用意された夥しい数の武器が並んだ長机を指さした。

 机の上には剣、長剣、大剣、槍、弓などがある。

 それらの一つをとっても8種類の武器があり、その全てが『魔器』だ。


『魔器』とは、剣型を最大限に活かすために開発された武器のことをいう。

 例えば火属性の剣型なら、火属性の魔法の力が込められた『ルーン石』が嵌め込まれていて、刀身には濃度の高い魔力が金属に練り込まれている。


 これだけの豪華な武器があれば、自分たちの力を最大限に発揮できるだろう。


 ジンは迷うことなく炎属性の剣を手に取り、他の訓練生も同じように武器を取った。

 見たことのある顔ぶれは、ジンの闘争心を掻き立てる。


 やがてザパースの口から、試合の順番と相手が伝えられた。



 《一回戦》

 ティリアvsバウラ

 ジンvsエリック

 イリアvsハク

 クロスvsマルク



 最初の試合はティリアだ。

 ジンはティリアの対戦位相手を見て顔をしかめた。


 バウラ・グアープ、主属性が土、副属性は風の『地動』を使いこなす豪快な大剣使いで、訓練所内の三年生だ。

 片っ端から弱そうな相手に対戦を申し込み、圧勝して楽しむという趣味の悪い男である。

 そのせいか、訓練所内での生徒間の評価は最底辺といってもいいほどまで下がっている。


 だがティリアは、どこまでも余裕な笑みを浮かべていた。


「最初の選手、入場ッ!」


 ザパースが今までに聞いたことのないくらいの大声でそう叫び、直後観客席から歓声が上がった。


 やがてティリアとバウラが闘技場の中心まで歩いていき、二人で向き合って互いに構えをとった。

 バウラは土属性の魔大剣を両手で持ち、前方に向かうように構えている。


 しばらくして歓声が止んだのち、ザパースは片手を上げて高らかに叫んだ。


「それでは、始めッ!」


「剣技『岩山創造』———ッッッ!!!」


 先手必勝と言わんばかりに、バウラは剣技を放った。


 場内に大量の岩場が発生し、あっという間に外界の大地と瓜二つとなってしまった。

 岩は一つ一つが5メートル以上あり、登ってバウラの元へ辿り着くのは至難の技である。


 だが、バウラがティリアに攻撃できないのも同じ。

 彼も顔を覗かせる必要がある。


「どこだあ…」


 バウラは自分で創り出した岩場を拳で殴った。

 すると彼が殴った部位の岩のみが砕け、バウラが通れるだけの穴が出来てしまった。


 この男、岩を破壊できるほどの腕力があるのだ。

 自分で岩を生成し、必要な箇所穴を掘って、何も出来ずにいる弱者を負かすというのが彼の戦闘らしい。


 だがティリアは弱者ではない。

 バウラが岩を砕けるのならば、それはこちらも同じことだ。

『正義』は、不公平を許してはくれない。


「『ソードライト』!」


 背後から近づく一閃の光が、バウラの右肩を貫いた。


「があッ!?」


「まだまだだよ!」


 悶絶するバウラを、ティリアは抱きかかえた。

 そのまま剣技を使って高速で岩場を破壊し、場外にバウラを放り投げた。


 バウラの腕力を奪ってしまえば、かよわい少女でもこんなことが可能になってしまう。


「勝者、ティリア・ファシーッ!」


 ザパースの叫び声に、歓声が上がった。

 最初の試合はティリアの、驚くほどの圧勝で終わった。

《キャラクター紹介》


○フィクス・エルレド

ジンの幼馴染で、ルシファーの元で学んでいる。

けじめがあり、重要なことを優先して行うタイプ。

剣型は『嵐』(主属性:雷、副属性:風)


○ルシファー・メルティア

クロスの兄で、騎士団の副団長。

甘いものが好き。


○バウラ・グアープ

弱いものいじめを好む、嫌われ者の訓練生。

剣型『地動』(副属性:土風)を使って豪快に戦う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ