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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第十章 闇の根源
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第十六話 運命を嗤う者

「ごほ…ッ」


盛大に血を吐き出しながら、エルドは自分の胸部を恐る恐る確認した。

『ダークアロー』によって心臓を貫かれている。


「…やれやれ、よかった。君との戦いは何度もシュミレートしていたからね。おかげで勝てた」


「ッ!」


おかしい。

ヴァルタイユは確かに『愚者』で感覚を奪われ、無力化されたはずだ。


先程の苦しみようが『愚者』によるものなら、まだ苦しんでいるはずだ。


「無意識に解除してしまったか…『愚者』!」


血を吐きつつも、エルドは落ち着いて異能を発動した。

だが、ヴァルタイユはなんでもなさそうにこちらに歩いてきた。


「『世界』の異能はとても強力だ。それでも死ぬ瞬間カエデは異能を使わなかった。何故だかわかるかい」


「……」


「心臓を貫かれた場合、異能は使えない。君の知識不足さ」


ヴァルタイユの言葉に、エルドは目を見開いた。


歴代の異能者が心臓を貫かれるケースなどなかった。

それはもちろん、異能者が他の人間に比べて強かったからだ。


今までなかったケースを、この男は確認できる。

何故なら能力は未来予知だから。


だが、そう信じて疑わなかったエルドにとって、次の言葉はとても信じられないものだった。


「エルド、君の最大の敗因は、僕の能力を誤解していた部分にある」


『運命』の能力は未来予知。

それは今までの彼の行動、ジンによる証明、それらを全て『女教皇』で情報整理した結果編み出された、ほぼ事実と言ってもいいほどの認識だった。


その能力が間違っているなどというパターンが想定できていなかったのだ。


「『運命』の能力は、未来予知に似て非なる物だ。普通の未来予知なら、別に死んだりしないさ」


『運命』の能力者は、ヴァルタイユとイグリダを除いた全員が死んでいる。

死因は脳のパンク、これはジンがイグリダから得た情報だ。


少しずつ嫌な予感を覚えながら、エルドはヴァルタイユの言葉を聞いた。


「ならば本当の能力は何か。答えは…『()()()()()()()()()()()()()の、運命の分かれ道の把握』」


「…運命の分かれ道…だと?」


「ああ。例えば二つの武器がある。右の武器を持って戦争に出た場合と、左の武器を持って戦争に出た場合、未来の在り方は全くもって別のものになる。その戦争でも、さまざまな選択肢がある。僕は何を選択すれば、どのような未来になるのか、それを全て常に把握できるのさ」


この世に存在する全ての物体。

それがさまざまな分かれ道を経てたどり着く無数の終着点、それを全て見ることができる。


脳のパンクが起きても不思議なことは何もない。


だが…


「…な…何故お前は死なない…」


覇王イグリダは、『運命』を無効化することでその異能を自分の身に宿した。

だから能力は使えなかったはずなのだ。


だがヴァルタイユは使える。

そして死んでいない。


他の『運命』とは違う何かを、この男は持っている。


「…1000年だ…」


「…?」


「…1000年間、僕は肉体の厳選をし続けたのさ。何度転生を繰り返せば、理想の肉体を手に入れられるのか、それを『運命』で確認してね」


肉体の厳選、それはどういうことだろう。

脳の容量が無限の肉体が存在するということだろうか。


「『運命』の能力を使える条件は、『記憶保存能力』の欠如と『瞬間記憶能力』の保有。この二つが揃うまで僕は1000年をかけた」


「…ッ」


『記憶保存能力』の欠如と『瞬間記憶能力』。

この二つが合わさった場合どうなるのかは、エルドにも想像できる。


『瞬間記憶能力』によって得た情報は保存できずに闇に葬られ、それを無限に繰り返す。

だが情報は確かに脳を通過している。


つまり『運命』で把握できる情報こそが、ヴァルタイユの記憶そのものとなるのだ。


これらの情報を得て分かった。

おそらく『残虐の雨(クルーエルティクロウ)』は、二つの魔法の複合だ。


一つ目は相手の動きを完全に止める魔法。

空間の時を止めるため、対象とぴったり重なるように設置しなければならないはずだ。

『運命』で敵の動きを確認すれば、簡単にはめることができる。


そしてもう一つは、無数の『ダークアロー』。

動けない敵を無慈悲に肉塊にするために、無数に放たれる。


おそらく先程エルドが食らったのは一つ目の魔法だろう。

精神が壊れたヴァルタイユが天に『ダークアロー』を放つことを読んでいたからこその罠だ。


どうりで勝てないわけだ。

確実に相手を殺せる罠魔法を、確実に相手がはまる場所に設置できるのだから。


何故、ヴァルタイユがいつも人を嘲笑うような表情をしていたのかが分かった。


最後には虚しく死ぬ者達、それらが一生懸命自分の人生を生きているその様。

ヴァルタイユにとってはさぞ面白く、哀れなことだっただろう。


だから彼は嗤った。

見えている運命そのものを嘲笑していたのだ。


「残念だったねエルド、君が最強と信じたその腕も…」


ヴァルタイユは嗤いを浮かべて、エルドの顔を覗き込んだ。


「2本の剣も…必死で練った剣技も…剣聖の剣も…異能も…!僕に少しもダメージを与えることなく死んでいくんだからねぇ…」


悔しさで、歯が折れそうになった。

喉から溢れ出る血で、今はまともに喋ることもできない。


手足に力が入らない。

まぶたも重くなってきた。


剣聖エルド・デルフ・エスパーダは、ここで終わるのか。


———否。


先のヴァルタイユの台詞で確信した。

この男は、エルドの最後の足掻きに気付いていない。


「…ごほ…ヴァル…タイユ…、ゲホッ、…お前は…」


不思議そうな表情を浮かべるヴァルタイユの前で、エルドは必死で表情を作った。

ヴァルタイユを見下すような、嗤いを浮かべて。


「…俺の…弟が…、絶対に殺す…ッ!」

《キャラクター紹介》


○エルド・デルフ・エスパーダ

勇者エルナを除いた、歴代最強の剣聖。

カエデを殺され、ヴァルタイユに復讐するために異能士団を作った。

ヴァルタイユとの戦闘の末、死亡した。


○ヴァルタイユ・ミラ・バルザイド

大昔に生きていた魔王の配下で、『運命』の能力者。

『運命』の異能に耐えられる体を千年間厳選し続け、現在では『禁忌の魔法』を使うために世界の欠片を集めている。

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