第三話 異能者
「どっからその量の剣技が出てきた」
ジンの剣技特攻をくらって無傷でいるティリアに警戒を緩めず、ジンは聞いた。
恐らくこの金色の剣士は先程の剣技特攻をくらった際、全ての『黒滅斬』を剣技で威力軽減したのだろう。
いくら『黒炎』の剣技といえど剣技で攻撃を防がれれば、相殺はされずとも受け流せるレベルまでに威力を抑えられてしまう。
ただ、魔力が足りない。
ジンが手にして生まれた有り余る魔力、それは常人では到底届かないものだ。
それを存分に使った剣技特攻の戦法は、剣技では対抗できない仕組みになっているはず。
それをこの少女はやってのけた。
ジンと同じくらいの魔力が、ティリアにはあるというのか。
到底信じられる話ではなかった。
「ジンさんは勘違いしてますよ。あたしはただジンさんの身体的ステータスをコピーしただけです」
「は?コピー?」
「はい、あたしの能力でジンさんの攻撃力、足の速さ、視力、魔力、反射神経、全てを全く同じにしたんです」
能力、そう聞いて思い当たるものは一つしかなかった。
その存在を初めて目の当たりにして、ジンは驚愕した。
「お前、『異能者』だったのか」
ジンの問いに、ティリアは笑みで返した。
異能者とは、かつて覇王イグリダが持っていた22の『異能』のうちの一つを所持するもののことを言う。
異能者が死ねばその異能はまだ生まれていない生命にランダムで宿るが、異能者の意思で他の指定した人間に継承させることも出来るらしい。
異能の能力は今のところほとんど明かされていない。
勝利のために、異能者は自分の能力を隠したがる。だからデータが集まっていないのだ。
だが、相手の身体的ステータスをコピーする異能について聞き覚えがある。
『正義』だ。
剣型や外見、戦意解放力を無視して、相手の身体的ステータスをそのままコピーする。
相手が強かろうが弱かろうが、ほとんど互角に戦えるわけだ。
先程間合いを詰める時、ジンの身体能力にティリアが追いついていたのも説明がつく。
彼女が戦闘好きなのは間違い無いだろう。
しかし相手が強ければ強いほどワクワクする、というのには少し語弊があった。
正確には、相手が強ければ強いほど自分が強くなれる、という快感を彼女は求めていると言うべきだろう。
自分も相手も強ければ、より高レベルの戦闘を楽しめるからだ。
平等な条件で戦いを楽しむ、ティリアがそうであるように、歴代の『正義』もそうだったのかもしれない。
平等であることを求めるのならば、恐らく自分の能力を喜んで話したはずだ。
だから能力が判明しているのだろう。
「今この瞬間はあたしも剣技をばんばん使えますから、面白い戦いになりそうですね!」
「その面白い戦いとやらに持ち込まれたら、互いの魔力が尽きちまう。お前の戦意解放力の方が上だから、多分俺が負けちまうだろうよ」
「じゃあどうするんですか?すぐにでもあたしを仕留めちゃいますか?」
そう言われて、ジンは口元を歪めた。
確かに現在、ジンにはティリアを一撃で仕留める方法はない。
剣技特攻をしても無駄だといことは十分わかってしまった。
だが、ジンにはまだ切り札がある。
まだ完成していない剣技だが、確実に仕留められる。
それを使って、今日は終わりにしよう。
「ティリア、俺にここまで食い下がったことは褒めてやるが、あんまり調子に乗っちゃダメだぜ」
「調子になんて乗ってませんよ〜!でもジンさんがここから勝つなんて想像は出来ないですね」
「それを調子に乗ってるって言ってんのさ」
「なら、どっちが上かはっきりさせましょう!」
そういうと、ティリアは全速力でジンの元へ駆けた。
そして剣には光を宿らせ、今にも剣技を放とうとしている。
やがてティリアの剣先から、必殺の剣技が放たれ———
「『死線』だぜ、そこは」
———ティリアの剣技が放つ光を、黒い炎が妨げた。
炎はうねりながらティリアの元へ辿り着き、首、腕、手首、腹部、腰、足首、ありとあらゆるところに纏わりついた。
『死線』、相手の動きを完全に止めるカウンター剣技だ。
魔力が一気に放出されて気分が悪くなるので使わなかったため、あれ以来全く改良されていない。
つまりドラゴンを止められるだけの力を持つ剣技だということだ。
そして剣技がティリアの身体に触れたというこちは、決闘終了ということになる。
「ジンの勝ちだ。惜しかったね」
マルクが片手を上げて、終了の合図を出した。
※
散々盛り上がっていた窓はもう静かになり、現在はジンとマルク、ティリアの3人しかいなかった。
ジンは『死線』のせいで体調が悪くなり、壁に寄りかかって座っている状態だ。
「ジンさんが兄貴と慕われている理由が分かりました。あたしももっと強くなるので、また決闘頼んでもいいですか?」
「ああ、いいぜ。久しぶりに刺激があって楽しかったよ」
ジンの言葉にティリアは嬉しそうに頷くと、建物の中に入っていった。
それにしても本当に強い少女だった。
『正義』あってこその力だったが、元々の戦闘能力も十分高いだろう。
無数に放たれた『黒滅斬』を全て見切って受け流したので、認めざるを得ない。
「まったく驚いた。まさか異能者がここに入ってくるとはね」
「ああ、剣交祭では壁になるだろうな」
剣交祭は1、2、3学年全員で行う。
当然力無い剣士は上級生に敗北するが、時折才能のある下級生が勝利を収めることもあるらしい。
アゼルスがまだこの訓練所にいれば、間違いなく優勝できるだろう。
剣交祭も少しずつ迫っている。ジンも気合を入れて訓練しなければ。
「それでは僕は部屋に戻っているとしよう。早く寝ることはとても大事なことだからね」
そう言って、マルクも建物の中に入っていった。
ジンは自分の拳を閉じたり開いたりすると、やがて硬く握りしめた。
まずは『死線』の完成を優先しよう。
相手を完全に止めるようなダイナミックな技ではなく、最低限止められるような技へ変えなければならない。
うねりながら近づくのにも問題がある。一瞬で相手の元へたどり着けなければ、炎を操作している時間の分だけ無駄に魔力を消費することになる。
長い間『死線』を放置していたせいか、課題は沢山ある。まずは一つずつ潰していこう。
ジンは立ち上がると、訓練のために庭へ行こうと足を進めた。
ふと、背後に現れた人影に気づき、足を止める。
「さっきの決闘、観ました」
クロスはどこか嫉妬に似た感情を目に宿らせながら、ジンを見据えていた。
《キャラクター紹介》
○ティリア・ファシー
戦いを好む、新入生の少女。
『正義』の異能を使いこなす。




