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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第二話 正義

 クロスとルシファーの二人は、幼い頃に両親を亡くして彷徨い歩いた。

 生活に余裕がなく、訓練所に入ることが出来なかったため兄は実力で騎士団に入り、6年ほど前にようやく副騎士団長となることが出来た。


 しかしクロスは兄について行くことが出来ず、兄から借りた城外の木造の家に住み、兄から送られてきた資金を使って一人で生活してきた。

 その間は自力で勉学に励み、剣の稽古も欠かさず行った。


 だがその兄に対する申し訳なさからか、あるいは生まれ持った才能の違いか。

 クロスは剣の才能がまるで無く、主属性ありの剣型を持っていること以外は凡人以下であった。


 兄はたまにクロスの家に遊びに来て、クロスを励ましてくれた。

「お前は俺にならなくて良い。ただ、お前という人間を磨けば良い」


 だがクロスには分からなかった。

 彼には才能がない。誰かを手本にしなければ成長できない。


 クロスはルシファーとなることで、自分を高めるしかないのだ。



 ※



「クロス、三日間たっても戦意操作が出来なかったようだよ」


 部屋でくつろぐジンに、マルクが言った。

 そのことはジンも知っている…というか薄々勘づいていた。


 外を眺めれば、昔誰かがやっていたように夜遅くまで練習をしている彼がいるのだ。

 今夜もいるとなれば、戦意操作が身に付いていないのも一目瞭然である。


「まるで、かつての君を見ているようだ」


「へえ、お前が俺を知ったように言うのな」


「そっくりじゃないか。彼、副騎士団長の弟らしいから、そのせいで劣等感を感じているのだろう。兄に対して劣等感を感じているなど、君そのものだ」


「はは、よくわかってるじゃねえか。てかお前もそろそろ俺のこと兄貴って呼んでくれても良いんだぜ」


「馬鹿か君は。僕はまだ君に決闘で負けていないし、呼ぶつもりもない」


「へいへい、剣交祭が楽しみだよ」


 そんなやりとりをして、ジンは窓の外を見た。


 マルクはああ言ったが、ジンとクロスの状況は似て非なるものだ。

 見てみれば、クロスはだめだめな剣士だ。構えもセンスもまるで出来ていない。

 そしてかつてジンが抱いていた夢や憧れ、その類も見当たらなかった。


 ただ彼にあったのは、焦燥だった。


 ジンは、「こうなりたい」。

 だがクロスは、「こうならなくちゃ」。


 一体何が彼をそこまで焦らせているのか、ジンには分からなかった。


「俺があいつを励ましたところで、あいつは乗り越えられるんかな…」


 おそらくあのタイプの人間だ。今まで数多くの人が助言をくれたことだろう。

 それでも解決していないということは、プレッシャーが余程ということである。

 出来れば助けてあげたいが…。


 そんなことを考えていると、不意にドアが叩かれた。


「ジンさんはいますかー?」


「ああ、俺ならいるぞ。誰だ?」


 ジンが問うと、扉を開けてティリアが入室してきた。


 確か、クロスと仲が良かった少女だ。

 一年生の中でだいぶ優秀で、なんでも戦闘が好きなのだとか。


「ひょっとしてお嬢さん、俺に決闘を申し込みに来たってのか?」


「そりゃあもちろん!訓練所最強の剣士って聞いたら震えが止まらなくなっちゃって、えへへ」


 なるほど、やはりこの少女は戦闘好きなようだ。


 ジンに決闘を申し込むものは、ドラゴン討伐が終わってすぐは多かったものの、しばらくしてからほとんど決闘を申し込まなくなってしまった。

 久しぶりの挑戦者に、ジンは少しわくわくしていた。


 戦闘が好きというのは恐らく、この少女には『何度も勝ち続けてきた』という実績があるからこその自身であるとジンは考えている。

 つまり戦闘が好きなこの少女は、皆に自慢出来るレベルの強者であるということだ。


「いいぜ、俺も久しぶりに燃えてるからな。マルク、立会人を頼めるか」


「良いとも、僕もこの少女の実力が気になるからね」


 そう言うと一行は一斉に部屋から出て行った。



 時間は21時。ジン達はクロスに気を使って、訓練所の中庭で決闘を行うことにした。


 中庭は50×50ほどの正方形だ。

 外の庭よりスペースが狭いため、あまり激しく移動はできない。


 そして中庭は、談話室の窓から直接眺められる場所だ。

 今ではもう、顔を覗く生徒で窓が埋め尽くされていた。


 当然だ。ジンが決闘をするなど、彼らも久しぶりに観るのだから。


「さて、それでは始めてくれ」


 迫力に欠けるマルクの決闘開始の合図と共に、ジンとティリアは戦意を操作して互いに間合いを詰めていった。


 ティリアの速度はジンより少し上だ。

 ジンとティリアの身体能力が同等だとは認めたくないが、もし同じだった場合は解放力70%ほどだろう。


 互いの距離5メートル、今ならば剣技が届く距離。


「先手必勝、『黒滅斬』———ッッッ!!!」


 ドラゴンを一撃で葬った剣技が放たれ、ティリアは顔を引き締めた。

 最強の剣型の一つ『黒炎』によって作り出された剣技は、空を割いて真っ直ぐにティリアの剣を狙い———


「剣技『フラッシュ』!!」


「——ッ!?」


 ティリアが発動した剣技『フラッシュ』によってジンの視界が一瞬で純白に染まった。

 そしてその直後、ジンは魔力を感知する。


「——っぶねえ!」


 なんと、『フラッシュ』は相手の目を眩ましてそのまま剣撃を放つ技だったのだ。

 そんな高度な魔力の運搬をするとは、戦闘好きなだけはある。


 そして恐らく、『フラッシュ』はジンの剣技の威力を軽減した。

 ティリアの剣はあまり傷がついていないからだ。


 ジンが感心していると、ティリアは再び『フラッシュ』を発動、ジンは目に見えない刃を交わし、正面を見据えた。


(——いない!どこに言った!?)


 慌てて周囲を見渡すと、背後から金色の閃光が襲いかかっていた。


「『黒滅斬』———ッッッ!!」


 攻撃、スピードの両方を兼ね備えた『黒炎』ならば、ティリアの不意打ちにも対応できる。

 ジンは剣を弾いた後、一歩距離をとってティリアを見据えた。


 かなりの実力者だ。こちらも少し本気を出さなければ。


「結構強いんだな。お前の実力に免じて、俺の必殺技を見せてやる」


 必殺技、それを聞いて生徒達はざわついた。


 ジンがこの必殺技を出すのは、かなりの強者に対してのみ。

 滅多に見られないものを見れるので、窓際の生徒達は見逃すまいと目を見開いた。


「それじゃああたしは、その必殺技を受け流して見せます」


 ティリアが緊張で表情を強張らせて言い、ジンの挙動に集中した。


 対するジンは一つ深呼吸、やがて目を見開き、体内の魔力を腕に寄せ集める。

 やがて、


「『黒滅斬』———ッッッ!!!」


 放たれたのは先程の剣技だった。


 再び『フラッシュ』で受け流して終わり、そう言うかのようにティリアは口元を緩めた。

 だが、ティリアの視界に観客の生徒達がうつった。


 彼らはまるで、ものすごい技を見ているかのように、目を輝かせていた。


 一体何なのか。この剣技は、先程とは何が違うのか。

 疑問に思うティリアが再び視線を前に向けた時、彼女の目に映ったのは———


 ———無数の『黒滅斬』だった。



 ジンの保有魔力は計り知れない。

 ドラゴンを倒せたのも、その膨大な魔力のおかげだ。


 そんなジンが考えた戦法、それが剣技特攻。

 溢れんばかりの魔力を存分に使って、剣技をひたすら放ち続けるという脳筋戦法である。


 しかしそれを『黒炎』で行った場合、効果は絶大だ。

 ジンがターゲットとして定めた訓練用の木剣は、無数の『黒滅斬』によって叩き折られる。

 そんな技が、ティリアを襲った。


 側から見ても分かる。あの量の剣技は捌き切れない。

 全ての剣技に剣技で受け流しをしなければ、威力を相殺できない。

 そのまま彼女は敗北するだろう。


 流石に可哀想になってきたので、ジンは必殺技を中断した。

 もしもの事があったら、ティリアは大怪我してしまうからだ。

 さすがにそんな真似は出来ない。


「まあこういう事だ。相手が悪かったんだよ」


 ジンはそう言うと、ゆっくり立ち上がったティリアに目を向けた。


「——ッ!?」


 しまった、大変なことになってしまった。

 驚きの事態に、周囲の生徒も窓から身を乗り出してティリアの状態を凝視した。


 彼女はなんと、()()だった。


「ジンさん、魔力多いんですね」


 ティリアはそう呟くと、ボロボロになった木剣をジンの方に向けて言った。


「でも魔力の量に差異があるのって、平等じゃないですよね?平等じゃないっていうのは…」


 呆気に取られるジンの前で、ティリアは不敵に笑った。


「あたしは『正義』じゃないと思うんです」


 そう言ったティリアの眼は、通常の何倍も美しく金色に輝いていた。

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