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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第九章 鈍色の封剣士
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第十話 鈍色の封剣士

「俺の剣型が『封剣士』だと…?じゃあ『黒炎』はなんなんだ。剣型の検査の時、俺は確かに『黒炎』って言われたぞ」


「覚えていないのかね。君が『黒炎』に勝利した瞬間を」


 そう言われて、ジンはハッとした。


 剣型の検査を受けたのは、ザパースに引き取られてから。

 そしてそれ以前に、ジンは父であるデルフと決闘している。


 そして決闘の途中で父は倒れ、一応ジンが勝ったことになっているのだ。


「でも、そんな剣型聞いたことねえよ」


「ああ、聞くはずがない。魔王デリアが死んでからの千年間、『封剣士』は一度も現れていないからね」


 現代の文明のほとんどは、デリアが死んだ後に作られたものだ。

 それ以前のものは過去の遺物となり、ほとんど残っていない。


「デリアが死んでからってことは、デリアが死ぬ前は『封剣士』がいたのか?」


「ああ、デリアは『封剣士』だ。灰色の髪をしていたと言う表記があったはずだよ。それと、私とペトラの師で、竜国ドラグニカの初代国王であるセン殿も『封剣士』を持っていた」


 センの名はあまりにも有名だ。

 剣を握った者なら誰でも知っているだろう。


 センは『剣技』を初めて作り、魔王ベルフスの魔法兵軍を一人で斬ったという伝説がある。

 そしてイグリダが天下を統一した後は、竜国ドラグニカを作って北の地を治めた。


「『封剣士』は、ほとんどの者が使いこなせていない。どう言うわけかこの剣型は、自分を過去の記憶に封印してしまう力があるようでね。トラウマを植え付けられた『封剣士』の所持者は、死ぬまで鈍色の過去に囚われて生きていくのだ」


「…それが、あんたの言ってた『鈍色の封剣士』ってやつか?」


「そうとも、君はどうかな」


 そう言われ、ジンは黙り込んだ。


 確かにジンも、鈍色の記憶に囚われていた時期はあった。

 だが今は仲間達のおかげで、それを制御できるようになってきている。


「…俺は、『鈍色の封剣士』にはならないよ。もうみんなを裏切ったりしない」


 それにもしジンがまた鈍色の世界に入りかけても、仲間がまたジンを助けてくれるはずだ。

 だからジンもそれに全力で答える。


「…そうだね、仲間というのはそういうもの。いい仲間に囲まれた君なら大丈夫そうだ」


「任せとけ。じゃあ、俺はそろそろ行くぜ」


「…ああ、世界を頼んだよ」


 イグリダの言葉に力強く頷くと、ジンは駆け足で謁見室の入り口へ向かっていった。



 ※



 《やるじゃなぁい、力の試練は合格ねぇ》


 嬉しそうなペトラの声をぼうっと聞きながら、フォーネは立ち尽くしていた。

 まさか試練がここまで簡単だとは思わなかったのだ。


「…もう終わり?」


 《ええそうよぉ、あなたは基礎がちゃんとできてるタイプだったみたいねぇ。それじゃあ…》


 ペトラが呪文を唱え、魔法を発動しようとした瞬間…


「…え?」

 《…え?》


 まだ呪文を唱え終わっていないにもかかわらず、フォーネの視界は真っ白になった。


 そして視界が晴れた頃には…


「成功だね。まあ、僕の異能があれば確率は関係ないが」


 紳士服を着た男、ヴァルタイユが目の前に佇んでいた。

 そしていつの間にかフォーネは出口にいた。


「…何しに来たの…?」


「いや、イレギュラーがあってね。無理矢理試練を合格させた。何、報酬はちゃんともらえるから安心するといい」


「無理矢理…?」


「ああ、現に君はすでに強くなっている。魔力保存量が2倍、戦意解放力がプラス20%、全体的な身体能力の大幅強化、それが試練の報酬だ」


 言われてみれば確かに、魔力が上がった気がする。


「それじゃ…私たちはもう帰ればいいの…?」


「そうだね。フォーネ、君の感情をまた消さなければならない」


「え…?」


「君は今、感情を持っているだろう。僕にはお見通しだよ」


 いつもなら、ヴァルタイユはここで嗤う。

 だが今は真顔だった。


 一体何があったというのだろう。


「さあ…早く行———」


「『黒剣』———ッッッ!!!」


 不意に放たれた漆黒の剣技が、ヴァルタイユの頬を掠めた。

 その剣技を扱えるものはこの世に一人しかいない。


「…ジン・デルフ・エスパーダ、やはり君か…」


「まさかこんなところでお前と会うとはな」


 ジンの目は鈍色ではない。

 だがそれでも、確かな憎悪を放っていた。


 そして、世界を救うという使命感を宿している。


「フォーネの感情を消すなんてどんな野郎だと思っていたが、やっぱお前クズだよ」


「どうだろうね。僕は感情こそ不必要なものだと思うが」


 二人は互いに見つめ合い、相手の様子を伺っていた。

 そして…


「『ダークアロー』!」


「『光速術ラピッドアーツ』!」


 ヴァルタイユが放った無数の闇の矢が、ジンめがけて飛んできた。

 だがそんなものにやられるジンではない。


(あいつの戦いは何度か見てきた…それに異能士団みんなの情報によれば、あいつの動きには無駄がねえ)


 だが目の前のヴァルタイユはどうだろう。

 ジンの動きを目で追い、『ダークアロー』を偏差撃ちしている。

 この動きを果たして無駄がないと言えるだろうか。


 矢を交わしつつ、ジンはヴァルタイユの方に接近した。

 そこへ手を向け、ヴァルタイユは叫んだ。


「『残虐の雨(クルーエルティクロウ)』!」


 数々の人間を死に至らしめて来た狂気の技。

光速術ラピッドアーツ』を使ったイリアでさえ、その攻撃を交わすことはできなかった。


 だが、ジンには当たらなかった。

 わずかに罠魔法の設置場所がズレていたのだ。


 ジンの攻撃を交わし、ヴァルタイユはフォーネに言った。


「早く行くんだ、援軍が来る」


 その言葉に、ジンは立ち止まった。


 確かに助けは来る。

 ジンが迎えを寄越したからだ。


 だが、なぜヴァルタイユがそれを知っているのだろう。


「ジン君!」


 背後から現れたのは、『隠者』のレクトだ。

 影を移動して帰ろうという魂胆である。


 この案はガイナルが考えたもので、ジンがガイナルに通信石で連絡すれば、レクトが来てくれる手筈になっていたのだ。


 そしてヴァルタイユは、レクトが来ることを知っていた。


(まさか…)


「早く行こう!」


「あ…ああ」


 レクトの手を握り、ジンはその場から消えた。

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