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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第八章 記憶の囚人と復讐鬼
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第十四話 普通

 食事に毒を盛るという行為は、いってしまえば誇りを捨てたような行為だ。


 確かにガイナルの考えはジンも賛成だ。

 万が一にもナリムが死ぬなどと言うことがあれば、優秀な『恋人』という回復手段を失うことになる。


 しかしそれと同時に、毒を盛るという発想を団員が得てしまったことに不安を感じてしまう。

 特にウァルスは、邪魔者を平気で始末する性格だと言うことが判明している。


「兄貴、団員のみんなを信じましょう。味方を殺そうとする仲間なんて、俺はいないと思います」


「…そうだな」


 目が覚めたあの時、ジンは思い知ったではないか。

 異能士団はあんなどうしようもないジンを見捨てていなかった。

 復讐肯定派だった団員も、ジンの心変わりを喜んでくれた。


 仲間を信じなければならない。


「次はエマだったな。頑張れよ」


「ええ、勝ちますよ」


 異能士団のコートを脱ぎ、キャリーケースの中にある機械を武装して、エマは戦場に上がった。


 対戦相手はディルセイ。

 彼は背中にギターケースを背負ったままでナイフを構えている。


「そんなものを背負った状態で戦うんですか?」


「馬鹿、片手に狙撃銃持ってナイフが振れるかよ」


 エマが聞きたいことはそう言うことではなかったのだが、ディルセイが狙撃を行おうとしていることは把握できた。


 エマは装置を起動させ、床から足を浮かせた。

 闇と風をメインに多くの属性を用いて作った飛行装置だ。

『フライ』のように一度魔力を集中させる必要もなく、自由に空中の行き来が可能な装置である。


 ディルセイは、レクトよりはまともにナイフの構えができている。

 彼の言う師匠から学んだ術だろう。


「始めろ」


 エルドの声とともに、ディルセイがエマに向かって突進した。


 エマは遠距離、対してディルセイは近距離と遠距離を両方使いこなす。

 互いの能力から見れば、ディルセイの方が圧倒的に有利だ。


「はぁッ!」


 ディルセイが振るったナイフは、真っ直ぐにエマの胸部を捉えていた。

 近距離が苦手なエマにはなす術がない。


 だがあのエマが、そんなつまらないミスをするはずがない。

 ありとあらゆる戦況を想定して、彼女は用意していた。


 近距離戦のパーツを。


「『シールドオーラ』!」


 防御魔法によって生まれたディルセイの隙に合わせて、エマは神機光背アウレオラを変形させた。

 神機光背アウレオラはエマを侵食する形で広がり、無防備だったエマのスーツを鋼鉄の装甲で覆った。


 神機光背アウレオラの格闘モードだ。


 もはや肌の露出部分どころか、装甲以外の場所がどこにも無くなってしまったエマから威圧を感じ、ディルセイは思わず後ずさった。


 《行きます》


 くぐもった声でそう言い、エマは尋常ではないスピードでディルセイに迫った。


 格闘モードのエマは、決して鋼鉄によって重装化されたわけではない。

 元々の細身に合わせた走行なため、変わらず機敏な動きが可能となっている。


 そして狙撃モード時の飛行装置も健在だ。

 つまり格闘モードは、鋼鉄の拳、鋼鉄の身体、そして人ならざる移動速度をもつ、超人に変わるモードなのだ。


「ぅ———」


 攻撃をガードしきれなかったディルセイは、エマの鉄の拳をまともに腹で受けた。

 それとともに、強烈な魔力の渦が流れ込んでくる。


 風属性の魔力だ。

 威力が低い代わりに、とてつもない攻撃範囲と吹っ飛ばし力を持つ拳となっている。


 壁に叩きつけられ、ディルセイは顔を苦痛で歪ませた。


(風属性でこれかよ…ッ)


 その気になれば彼女は、土属性の拳を振るうこともできるだろう。

 そうなれば終わりだ。間違いなく骨折どころでは済まない。


 だが先ほどディルセイがガードに失敗したのは、カウンターに失敗したからだ。

 ナイフが弾かれたせいで隙が生じたのだ。


(カウンターを合わせようとしなければギリギリガードできる…。あとはどうやってあの装甲を攻略するかだが…)


 色々試行錯誤をしながらディルセイがエマを見上げると、そこには超巨大なレーザービームを4つ構えた狙撃モードのエマが浮いていた。


「はぁッ!?」


「『白界儀』———ッッッ!!!」


 光と氷の魔力を混ぜ合わせた、エマ作の上位魔法。

 それが今、ディルセイに放たれる。


 先ほど風属性の拳を使ったのは、ディルセイを壁に追い詰めるためだったのだ。

 円状の闘技場であるため、逃げ道はほとんどない。


 4つのレーザーを防ぐには…


「うおおおおおお!『雷域・変則の型』ァァァッッッ!!!」


 弾道を多少ずらす程度の小さな重力操作だ。

 極太レーザーを何本も防げる技ではない。


 だがそれでも、少し起動から外れていたためナイフでかろうじて受け流すことができた。


(今ので分かったことがある…)


 エマの動きに警戒しながら、ディルセイはそっと弾丸を取り出した。


 エマはおそらく、計算によってレーザーの照準を合わせている。

 そして極太レーザーを放ち、相手が飛び出てくる可能性のある場所に警戒する。


 つまりエマは、レーザーを放っているうちは対象の姿が見えていない。


(エマが俺の狙撃能力を把握できていないはずがねえ。それにこの銃の中身をいじったんだから、銃の限界も知ってる…)


 だからディルセイがやらねばならないのは、銃ではなく生身で、エマの予想を超えた技を放つこと。


 あれこれ考えているうちに、再び格闘モードとなったエマが殴りかかってきた。

 思い一撃をナイフで捌き、とりあえずディルセイは距離をとった。


「ったく…長考してる暇もねえってか。『女教皇』が羨ましいぜ」


 《そうですか》


 どうでもいいと言わんばかりのエマは、今度は風属性の拳を振るってきた。

 また壁に追い詰めるつもりだ。


「ぐっ…ッ」


 拳をナイフで受け止め、ディルセイはまた壁に吹き飛ばされた。


 ディルセイには策があった。

 それには先程のレーザーを再び撃たせる必要がある。


 わざと攻撃を喰らってもよかったのだが、エマなら何かを察してしまうかもしれない。


 だからナイフで受けた。

 先程と少しの違いがあれば、エマの様子を観察しているように思わせる事ができる。


(『女教皇』があろうがなかろうが…瞬時に考えるってのは戦場で必要な能力だ。お前さんは俺を見誤った)


 先のディルセイの発言により、エマはディルセイが策を思いついていないと思い込んでいる。

 生まれた時から長考などしたことがない人間だ。そう思い込むのも仕方がない。


 証拠として、エマは先程と何ら代わりない手段で、狙撃モードでディルセイを狙っている。

 それを確認し、ディルセイはギターケースを開こうとした。


 そこで一瞬、ディルセイの手が止まった。


 もしすでに『女教皇』で先が読まれていたら…?

 だとすればディルセイの裏をかかれ、必殺級の一撃を放ってくるかもしれない。


(…何考えてんだ、俺)


 エマには異能という武器がある。

 それはディルセイでは絶対に届かない領域だ。


 ならば自分が持つ全力を、その時の一撃にこめろ。

 後で問題が発生したなら、その時の一撃に頼ればいい。


 それが非異能者(ふつう)の戦い方だ。


「『電磁砲リストライン』———ッッッ!!!」


 極太レーザーに向けて、ディルセイは磁力を操る銃弾を()()()

 そしてレーザーで見えない、その先のエマに狙いを定め、ディルセイは狙撃銃を構えた。


「『黒雷の弾丸』———ッッッ!!!」


 ディルセイが叫ぶのと同時に、銃口から針のような弾丸が雷を纏って飛び出した。

 それはレーザーを磁力で引き裂く『電磁砲リストライン』とともに、エマに向けてまっすぐ進んでいく。


 やがて…


「ぅ…ッ、ああッ!?」


 針の弾丸がエマの腹部に刺さり、エマは空中で大きく痙攣した後落下した。。


 高電圧の電流による、気絶である。


「勝者、ディルセイ・テロード」


 せっせと狙撃銃をギターケースにしまうディルセイに、歓声が浴びせられた。

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