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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第八章 記憶の囚人と復讐鬼
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第十二話 陰と陽

『悪魔』の効果を二つ同時に使える、その事実は団員達にとって新たな脅威となった。

 また一つ、最強クラスの異能が増えてしまったというわけだ。


「最強クラスといえば、次の戦いは見物だな」


 戦場を見て呟いたジンに、エマが頷いた。


「『隠者』、影を操る能力は凄まじいです。工夫すれば、闘技場内全てをワープし、戦況を掌握することができます。『太陽』は全ての技を返せるカウンター、言わずもがな最強クラスの異能と言えるでしょう。これは激しい戦いになりますね」


「お、おう」


 長文で返され、ジンは苦笑を浮かべた。


 エマの言う通り、ラーナとレクトはお互いそこがしれないほど強い異能の持ち主だ。

 これはかなり熱い戦いになるに違いない。


 ラーナの構えは、刀の剣先を正面に向けて腰を落としている姿勢だ。

 カウンターこそ居合でやるべきなのだが、彼女に何か策があるのだろう。


 レクトはただナイフを持って棒立ちしている。

 訓練所ではナイフの訓練をしなかったため、基礎が無いのだろう。


「始めろ」


 エルドの言葉で、ラーナは爆ぜるように動いた。


 カウンター主体であるラーナが攻めに行っている、一見無謀極まりない行為だが、現在はこれが最善策だ。

 レクトの戦闘スタイルがまだはっきりしていない以上、こちらから攻めて相手の様子を伺う必要がある。


「『真泡沫』———ッッッ!!!」


 ラーナの必殺剣技は、炎の泡とともに剣撃を与えるものだ。

 普通なら大火傷をして終わる。


 だが『隠者』なら違う。


「…っ」


 力んだ声とともに、レクトは『隠者』の能力で背後にワープしていた。

 そしてそのままナイフをラーナの肩に突き刺して…


「『陽炎プロミネンス』!」


 否、突き刺さる寸前でラーナはカウンターを発動した。


 炎はレクトを包もうとし、レクトは慌てて飛び下がった。


 互角、と言うには少し違うかもしれない。

 ラーナは攻めたとしても、レクトのカウンターをカウンターで返せる。

 しかしレクトはそのラーナの動きについていけていない。


陽炎プロミネンス』は、ラーナの血を炎に変えることで、毛細血管のように複雑な炎の網を出現させることができる。

 先程のレクトの回避は偶然と言っていいだろう。


「アンタに勝ち目はない。大人しく降参しなさい」


「……」


 確かにこのままでは、レクトに勝機はない。


 だが『隠者』の力を使いこなせば、勝利は可能だ。


 レクトは影のナイフを一本作り出すと、ラーナの背後に投げ飛ばした。

 ナイフは床に突き刺さり、そのまま静止した。


「…何するつもり?」


「…君のカウンターの発生の時間を、さっき覚えたんだ…」


 嬉しそうに笑うと、レクトは姿を消した。


 そして影が存在しない日向ひなたから、彼は現れた。


「なっ!?」


「『虚影の舞台(ブラックアウト)』」


 直後、無数の影のナイフがラーナに突き刺さった。


 レクトが現れた影は、いつの間にか巨大な穴となっていた。

 影のナイフはそこから放出されたのだろう。


「アンタ…っ」


「仕組みはわかった…?」


 レクトは自分の足元を指さした。

 そこには影のナイフがある。


「このナイフ…影扱いなんだ」


 その言葉に、その場の全員が震撼した。


『隠者』のワープ能力、それは光のある場所から影のある場所へ移動する能力。

 先程の発言によって、『隠者』のワープの制限がなくなったと考えられる。


 今この闘技場のほとんどが日向だ。

 そこに影のナイフを配置すれば、レクトはその空間のどこにでもワープすることができる。


 そして彼が放った剣技『虚影の舞台(ブラックアウト)』は、ワープした直後に放つことができる。

 発生時間はラーナのカウンターを上回るだろう。


「このナイフが闘技場全部に置かれたら…ここは全部僕の独壇場になる。そしたら…」


 どす、と床にナイフを突き立てながら、レクトは言った。


「…投了リタイアするしかない」


「…ッ」


 挑発するようなセリフに、ラーナは歯軋りした。


 いつも陰気で、ボソボソと喋るような奴。

 そんな奴に、ラーナは降参しなければならないのか。


 情けない。一国の王族たるものが、こんな男に膝をつくのか。


「クッソ…っ」


 再び歯軋りし、ラーナはレクトに向かっていった。

 まずはあのナイフを置く行動を止めなければ。


「真泡…」


「『虚影の舞台(ブラックアウト)』」


「…が…はッ」


 剣技を放つ前にはすでに、背中にナイフが刺さっている。

 ラーナを超えるカウンター技を持っているという事実に、ラーナは屈辱を禁じえなかった。


 レクトは次々にナイフを刺していく。

 もうすでに彼の独壇場は出来上がっているのではと感じるほどに、大量のナイフを置いていた。


 だがラーナは諦めない。

 ひたすらにレクトに向かっていく。


「あれ『ヒール』でなおせんの?」


「ギリギリ大丈夫ですね」


 ジンの問いに、ナリムが答えた。


 彼女の回復魔法は『恋人』によって強化されている。

 信憑性は薄いが、エルドが試合を続けていると言うことは大丈夫なのだろう。


「反対側でフィクスさんが顔を青ざめてるかもしれませんね、兄貴」


 クロスに言われ、ジンは顎に手を当てた。


 仮にイリアが試合であんな目に遭わされていたら、ジンはおそらく我慢できないだろう。

 しかしフィクスなら大丈夫な気がする。


「フィクスはちゃんとしてる。それにラーナだって、フィクスに心配されんのは屈辱だろ」


「まあ…確かに」


 互いを信じているのなら、黙って見守るのが最善だ。

 それにあのラーナが、何も策なしに飛びかかっているようには思えない。


 ラーナは足がガクガクになりながらも、必死でレクトに立ち向かっている。

 高貴なお嬢様からは考えられない戦い方だ。立っているのもやっとだろう。


 だがレクトの独壇場が作られた直後のラーナと、今のラーナとでは表情が違う。

 傷を負って倒れそうになりながらも、今は彼女の瞳にとあるものが宿っていた。


 それは、勝利の確信。


「はあ…ッ、はぁ…ッ」


 乱れた呼吸を整えながら、ラーナはその場に立ち尽くした。


 そんな様子をレクトは痛々しげに見ている。


「…あんまり仲間を傷つけたくないんだ…。ラーナさん、()()()()()()()()…?」


「…ッ」


 レクトとしては、意図していなかったことだろう。

 だが気高いラーナにとって、今の発言は爆弾だった。


「その言葉…後悔させてあげるわ…」


「!?」


 口元を歪ませるラーナに、レクトは何を感じたのか後ずさった。


 今の戦場はレクトのものだ。

 床にはナイフが散りばめられ、どこでレクトに攻撃してもナイフで反撃がくる。


 その証拠に、床には大量のラーナの血が散らばっている。


「…まさか!」


「『陽炎プロミネンス』———ッッッ!!!」


 ラーナが叫び、彼女の体は炎に包まれた。


陽炎プロミネンス』はラーナの血を燃やす。

 それは、床に散らばった血も同じだ。


 闘技場は炎に包まれた。


「ああ!?熱…ッ、熱い…ッ!」


 炎の中で踊り狂うレクトに、ラーナは笑みを向けた。


 炎によって照らされた闘技場内では、影を使った移動はもうできない。

 レクトは身体中に火傷を負うまで、ここで踊り続けるのだ。


「アタシにさっき言ってた言葉覚えてるかしら。その言葉、そっくりそのままお返しするわ」


 涙で顔を濡らしているレクトに、ラーナは顔を近づけた。


「降参してくれない?」


 炎に包まれる戦場で、レクトに勝ち目はない。

 ここで大火傷をするか、降参するかだ。


 ラーナからは炎が出続けている。

 そのうち出血で力尽きるだろうが、その前にレクトが敗北する。


 だからラーナが勝つのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあ…」


 ぱき、という音とともに、レクトのメガネが熱で割れた。


「炎に包まれるこの戦場を、俺が変えてやる」


 直後、二人は影に飲まれた。

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